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「近所 Vol.3」一首選<2>

 2024年3月14日。
 文学フリマ東京37で発行した「近所 Vol.3」(近所3)の中で、自分以外の作者ごとに1首ずつ選んで語ろうという回。
 その時に選ばれた歌と選んだメンバーのコメントを、作者別に2名ずつ紹介するのに加え、ゲストの回を設けて、計5回に分けて紹介します。

 3回目は、阿部二三さん、宮原まどかさんの歌です。

(1回目はゲストの御糸さちさん、2回目からメンバーの一首選を紹介していますので、そちらも是非ご覧ください!)


阿部二三

スタンプも絵文字もなくて数字だけゆっくり押して送る「0833おやすみ

「近所 Vol.3」 P.7(題詠「数字」)
  • まさに世代で高校生の頃を思い出す。絵文字もスタンプもなかったからこそ、どう伝わるか頭をめぐらせた。(宮原)

  • 題詠「数字」のアンサーとしてこれ以上の正解はないのでは!!と興奮した一首。今はもう存在しないポケベル。まるでその時代ごと閉じていくような「おやすみ」という結句が美しい。(小林)


打ち解けてやっと一緒に遊べたと思ったらもうさよならの時間

「近所 Vol.3」 P.32(自由詠)
  • この一首だけで、「距離を置いて遊んでいた」「気になりだした」「歩み寄ってみた」「打ち解けてきた」「おわかれ」という様々なシーンと感情が想像できるのがすごいし、それがまた切なくて。(本条)

  • 子どもらの様子を見守る立場としても、自身の経験としても読め、大いに共感する。初句から四句目までの長々しさが、呆気なく訪れる「さよならの時間」の寂しさを際立たせるようだ。(花江)


湯船まで姉妹喧嘩の声聞こえ あともう少し浸かっていよう

「近所 Vol.3」 P.32(自由詠)
  • 湯船に身体をうずめて、下唇を出しブクブク泡をたてる様子‥「あぁ、出たくない」という気持ちがありありと伝わってきた。(新原)


脱毛の広告の横に植毛の広告がある満員電車

「近所 Vol.3」 P.33(自由詠)
  • こんな面白いことに気が付けて、景色が見えてくる短歌にしていて素敵。(黒澤)

  • 着眼点がすごい。こんな風に広告が並んでいるのは都会ならでは。満員電車、という単語が情景を感じさせる。(大住)

  • 矛盾した広告が並んでいることを書いているだけなのに、満員電車内の閉塞感、理不尽さ、諦めが滲み出ている感じがします。満員電車に乗っている人たちが毛一本一本に見えてくる。(散田)


宮原まどか

「大縄が三百五回、いま二位」とただいまも言わずに吾子は

「近所 Vol.3」 P.8(題詠「数字」)
  • (小林)セリフの掴みがすごい一首。状況はよくわからないのに一読で引き込まれました。小学生の日常の中のドラマチックな部分を生き生きと描写していて素敵な連作でした。


くぐもったガイドの声を首都高の海風が煽る途切れ途切れに

「近所 Vol.3」 P.17(はとバス吟行)
  • はとバスが首都高に乗った時の疾走感とガイドの声を聞くことを諦めて得た解放感が伝わって素敵。(黒澤)


マイクからかすかに「小麦粉」と聞こえるもんじゃのことか築地が近づく

「近所 Vol.3」 P.17(はとバス吟行)
  • はとバスツアーのガイドさんの言葉として、かろうじて聞き取れたのが「小麦粉」というおかしさ。(本条)

  • はとバス吟行会での短歌の一連より。四句目に挟まれる「もんじゃのことか」のふとした呟きが、バスに乗って移動する描写やそこに吹く風をよりリアルに伝える。(花江)


ユーチューバーになって家から三分の戸建てに住むと吾子は言うなり

「近所 Vol.3」 P.34(自由詠)
  • 子どもって本当に幸せな存在。まだ世間をよく知らない時代の純粋な感じが良い。(阿部)


夜中の咳 目は閉じ「母ちゃん」と呼ぶ吾子をわたしは今育てているのだ

「近所 Vol.3」 P.35(自由詠)
  • 「夜中の咳」初句が効いている。散文調の下の句は、母親になった人なら誰もがハッとし共感する言葉。(大住)

  • 胸がギュッとなる。日常の風景から子どもの健気さや母であることを再確認される様がうまく切り取られていると思います。(散田)

  • 辛そう・可哀想・代わってあげたい‥という看病の時の苦しい母の気持ちと、自分は母親なのだとハッと自覚する瞬間を見事に歌として切り取られたのだと感服した。(新原)


<3>へ続く

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