音源公開 交響詩「幻影」

管弦楽曲を書きました。
この曲は自分としては非常に思い入れがあるので、noteで解説を残しておきたいと思います。何せ「完成に43年を要した曲」ですので(苦笑

最初に全曲動画です。


作曲の経緯

私がいわゆるクラシック音楽を聴き始めたのは、9歳のころでした。昭和53年~54年くらいですね。親から買い与えてもらったラジカセに、NHKを中心としたFMで放送されるクラシック曲を一生懸命録音して聴いてました。近所の人にレコードを聞かせてもらったりもしてました。
最初はノーマルにベートーヴェン・モーツァルト・ブラームス・シューベルト・シューマン…と聴いてましたが、徐々に後期ロマン派に惹かれるようになり、中でもグスタフ・マーラーには大ハマリしました。さらにはR・シュトラウス、シベリウス、チャイコフスキー、ワーグナー、ラヴェル、ドビュッシーあたりときて、12歳のころにはすでにメシアンやシュトックハウゼン、ジョン・ケージなんかにも手を出していた記憶があります。
11歳のころ、頭の中作曲を始めました。もちろん子供ですからほとんどの曲はパクリ。ですが頭の中で繰り返し歌っているうちに、楽曲の骨格は何となくできてました。譜面の読み書きは全くできなかったので、あくまで頭の中です。
当時の小学校で、朝礼前にいつもクラシック曲がかかってたのですが、なぜかワーグナーの「タンホイザー序曲」が良くかかってました。私、学校で聴くだけで曲を覚えて、繰り返し歌ってました。
最終的にワーグナーはこの曲に重要な影響を与え、交響詩「幻影」という曲名まで決まりました。

時は流れ、おそらく40歳手前・2008年ごろ。
すでに宅録で数十曲を作っていた私は、なんとなく思い付きでこの「幻影」の打ち込みに取り掛かりました。それまでは複雑な楽曲構成や現代音楽的アプローチに傾倒していたため、小学生の自分が頭の中で作っていた習作をリアライズしよう…などということにはなかなかならなかったのですね。
ですが、やってみると意外に印象的な旋律もあるし、こりゃ面白いかなと思って本格的に進めてみました。ですが途中で飽きて別のことやる…の繰り返しで、第3楽章が出来上がったのは2022年。すでにコロナ禍真っ最中のころでした。着手してからも13年が経過している…
2022年末には第4楽章も仕上がり、今年に入ってさあやるぞ!と思った矢先に肝臓の腫瘍が見つかり、すったもんだで入院・手術。もちろん創作なんぞ全く手が着きません。
退院後、最終楽章を急ピッチで進めました。実質的な作曲期間はおそらく3か月。全曲の中で一番速かった。
ということで、足掛け43年で完成した本曲。実際には5楽章構成なので「交響曲」と呼んでもいいのですが、最初の構想に従い交響詩と言うことにします。

第1楽章「序曲」 Overture

アンダンテ。ヘ長調。
最初鐘の音でチャイムが鳴ります。まったくもって小学生の発想そのままなんです。その名も「チャイムの動機」。ええ加減にせえよ。その後、第1動機~第2動機と展開されます。
いわゆる古典的な音楽形式にはほぼ沿っていません。これはこの後の曲もそうなんですが、流れに任せて自由に作っています。とはいえ、冒頭の第1動機は楽曲全体を支配する重要なものです。
おそらくはベートーヴェン「田園」に触発されて出来た曲・楽章だと思います。マーラーの第9交響曲をこよなく愛する私は、旋律というより動機でこの曲全体を構成しようと試み、カウンターメロディ(対位法とかはよくわからないので)をとにかく意識しています。ついでに言うと、ハープがオケのど真ん中に座っているのも完全にマーラー第9の影響です。
中盤と終盤にニ短調の不穏な動機が現れ、そのまま第2楽章になだれ込みます。

第2曲「幻影来る」 Phantom's coming

アダージョ。ロ短調。
一応、この曲が本交響詩の中心コンセプトになるのかな。チェロで奏されるアルペジオが主旋律というか第1動機。その後、併せて3つの動機で構成されています。
他の曲はカウンターメロディをいろいろ組み合わせていますが、この曲だけは全曲通じて単旋律中心、さらには一度に多くの楽器を鳴らさず、室内楽的な雰囲気を狙っています。
3つの動機は、まあ大体同じような雰囲気で、ちょっと長いというかダレ気味になるきらいもありますが(自分で言うか?)、当初の楽想にできるだけ忠実に作りました。
作曲法上変わったところで、第3動機の後いわゆる「鏡面形」を試しました。シェーンベルクやウェーベルン、あるいはメシアン師匠もやってたやつです。第1動機の展開部分をそっくりひっくり返して音符配置してます。やってみたらその部分の雰囲気が結構変わって面白かった。

第3楽章「ワルキューレの蛇行」 Meandering of Valkyrie

アレグロ。ロ短調。
はい。ワーグナーのパクリです。もう隠す気もなく「ワルキューレの騎行」の影響そのまんま。
曲名もそういうことでパロディにしました。
曲は第1楽章「序曲」冒頭のリプライズから始まりますが、展開後は第2楽章と同じキーであることに今さらながらに気がついた。
とはいえ、主旋律が激似なだけで展開はちゃんとオリジナルなものを考えましたよ。メインとなる動機をいろいろ転調させながら作っていくのがかなり楽しかったですね。
終盤、第1楽章の不穏な動機なんかも登場しますが、曲はフィナーレっぽい展開で唐突に終わります。これは曲を作りながら自然にたどり着いた展開でした。

第4楽章「マーレリアーナなスケルツォ」 Scherzo With Gustav Mahler Style

ワルツ。嬰ハ短調。
実はこの楽章は当初の楽曲構想にはありませんでした。第3楽章と第5楽章を繋ぐブリッジ部分がいるなあと思い、ワルツのスケルツォを思いつきました。
で、スケルツォなら思いっきりマーラーっぽくしたいと思い、パクりじゃなくてそういう雰囲気の曲にしました。この辺りからいわゆる「ハナウタ作曲」をフル活用。とにかく思いついたメロディをどんどん録音して、それを採譜して展開する手法を取っています。
ワルツであることと冒頭の動機など含め、マーラーの第7交響曲第3楽章に強くインスパイアされています。あの不気味な雰囲気のスケルツォ、大好きなんですよね。
第2動機のすっとぼけた感じを含め、自分としては結構上手く行った曲なのではないかと考えています。

第5楽章「終曲」Finale

アンダンテ。ホ長調。
最終楽章はこれまでの動機をいろいろと織り交ぜながら、大団円っぽくなりました。
冒頭の動機は第1曲「序曲」のテーマと密接に関係しています。このテーマも当初から頭の中にあったものです。その後、第1楽章の短調動機と第3楽章冒頭の動機が絡んだりして、曲はロンド形式に近い形で展開します。
この曲が一番作ってて楽しかった。4つの楽章で出てきた諸動機をどのような形で組み合わせるか・次どんな展開にするか、毎日頭の中で考えてました。アイディアが上手くまとまると実に楽しい。特に第2展開部、アレグロになるところが自分でも気に入っています(30:17辺りから始まる部分・滝の映像)。
この曲のクライマックスと考えるファンファーレの動機が出てから曲は実質的な再現部に入り、最後は第2楽章のアルペジオ動機を長調で展開し、終わりを迎えます。これも小学生の頃から考えてた展開でした。43年ぶりに形に出来た。

いやー、やりきった。
作り始めた曲は最後まで仕上げないと気が済まない質なのですが、今回は流石に本当に終わるのかどうか自分でも疑問でした。
管弦楽曲の作曲としては、現時点での集大成だと思います。この後このくらい大規模の曲を書けるのかどうか、も結構疑問ですが、楽しみながら続けたいと思います。



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