考えてみたこともなかった白いワンピース問題

 小説を書いたり翻訳書を出したりしている松田青子さんのエッセー集『ロマンティックあげない』を読んだ。女子の視点からみた世界が興味深く、同じ世界に暮らしていながら知らなかったことをいろいろ教えてくれる。

 とくに考えたこともなかったと思ったのは、女子の白いワンピース問題。世の男性たちはしょっちゅう女子に白いワンピースや白い水着を着せたがるが、これは女子にとって迷惑な話だという。とくに生理のときは非常に気を遣う。

 そういう視点は世の中の男性にはきっとないだろう。自分にももちろんなかった。かつて少し関わった仕事で、白いワンピースを着せた女の子の写真を広告イメージとして使ったものがあったことを思い出したが、それも男性目線で選ばれていたはずだ。この本を読まなかったら考えもしなかったことだ。

 松田青子さんは、こういった男性の期待に沿うような女子像に対してアンチテーゼを表明している人や物事への関心が高い。フェミニズムと言ってしまうと語弊があるかもしれないけど、つまりは自立した女性に対して拍手を贈っている。自立ということは男も女も関係ないわけで、男性の自分も「そうだそうだ」という気持ちで読めたのである。

 例えば、寮でレイプ被害にあった女子大学生が、その被害をまともに認めてくれない大学や周囲に抗議するために、ベッドのマットレスを四六時中背負って登校するパフォーマンス(Mattress Performance)をした出来事や、リベンジポルノの被害にあったデンマーク人女性が、プロのカメラマンに美しいヌードを撮ってもらい、ネット上に広まった自分の写真を別のイメージで上書きする形でリベンジポルノにリベンジしたという痛快な話も初めて知った。

 シリアスな話題だけでなく、ニューヨークではスパッツを着用するファッションが流行っているとか、「ノームコア」というキーワードとか、思わずネットで検索して、ああ、これのことかと納得したりした。テイラースウィフトの曲も気になってYouTubeで聴いてみたりした。

 女性目線の興味深さだけでなく、そもそも松田青子さんをおもしろいと思ったのは、世の中に対する細かくも鋭いツッコミがあるからで、以前からよく書いている「写真はイメージです」という注釈の話や、映画館の座席配分の話には膝を打つ思いがするし、使っていないものが部屋にあるとストレスだとか、服を捨てるガイドラインがないことへの不満とか、フィギュアスケートのジャンプの回転数はどれだけ見てもわからないとか、そうそう、と共感してしまうことも多い。

 一言でいうと、おもしろいエッセー集であり、自分もこんな文章を書けたらなあと思う。共感したり、視点がユニークだと思ったり、新しいことを知ったり……。自分が本を読んでおもしろいと思うのは、考えてみればそういう点だ。楽しく読みながら、おもしろいエッセーのポイントも教えられた気がした。

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