ある化学物質が「あるとき」と「なかったとき」の世界の違い

歴史を知ることは、極端な思想や行動を諌める効果があるのかもしれない。

歴史がある、とわかっていると、簡単に善悪を決めることはできなくなる。そのためには、歴史は落ち着いたトーンで語られていなければならない。強いトーン、過激なトーンの歴史は学んでも有効に使えない。なんというか、歴史というのは、「歴史があるんだなあ」と実感するために必要なのだ。そんな気がする。

『スパイス、爆薬、医薬品 - 世界史を変えた17の化学物質』という本も、そのことを感じられる本だった。

この本は、人類の歴史を変えてきた物質について、化学的な視点を軸に網羅的に綴られている本だ。タイトルにあるように、胡椒や唐辛子といったスパイス、ダイナマイトなどの爆薬、抗生物質などの医薬品に使われた化学物質について、歴史上重要なものがピックアップされ紹介されている。

本の中に書かれている化学式を理解できるほどの知識は自分にはないけれど、でも新しい物質が発見され、その物質の化学的合成法が発明されるたびに、世界が劇的に変わってきたのだと理解できた。今ではそれがなきゃ始まらないくらいの物質が「あるとき」と「なかったとき」の世界の違いがよくわかる。

例えばゴム。輪ゴムやタイヤだけではなくて、今ではあらゆる機械にはゴムが使われていて、これなしでは工業の発展はあり得なかった。考えてみれば、今自分が履いているスニーカーもパンツも、ゴムなしでは成り立たない。

細菌との戦いもすさまじい。かつては手術をした人や戦場で傷ついた人の多くは、感染症で死んでしまっていた。それが抗菌物質の発見により、ほとんどの人の命を救うことができるようになった。現在、抗生物質の使い過ぎによる耐性菌が問題になっているけど、こういう歴史を知れば、菌との戦いが今に始まったことではないとわかる。

たいていの物質は、自然の中から有用な物質を発見→需要が高まる→化学的合成法を開発→多くの人の役に立つ、というパターンで世に広まっているようだ。化学というと環境や人体に悪いんじゃないかというイメージがちょっとあるけど、まずは歴史を知ったほうがいいなという気がしたのだった。

スパイス、爆薬、医薬品

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