おっさんにはなりたくないが、おばさんにはなりたいと思う

5月(2)
月曜日
夕食はキヌサヤの卵とじ。この時期はキヌサヤ、スナップエンドウが豊富だ。食べるのは普段より遅くなった。夜7時過ぎまで引越し屋さんに来てもらっていたからだ。サッカーで全国大会に出たことがあるという若者が見積もりに来た。予算より金額が高く、一部だけ運んでもらうとかいろいろ交渉したあと、自分たちも手伝うという条件で即決価格を提示された。こんなもんかなと思ったが、Fは納得しきれず、ごめんなさいということで、帰ってもらった。しかし、自分たちで一部を運ぶのもきついだろう、団地の5階、エレベーターなしだし、と考え直して、やはりお願いすることに決めて、その人の携帯に電話する。が、即決価格なんで、上司に相談してみないといけないとのこと。

火曜日
朝はFがフレンチトーストを作ってくれた。うちで焼いたパンなので少し酸味がある。昨日の引越し屋さんから着信が入っていて、かけ直すと、上司に相談した結果、昨日の価格では難しいとのこと。午後から別の会社に見積もりに来てもらう。ここも若者。普段はドライバーだが、営業が足りないので、スーツを引っ張り出して来たそうだ。大手だけに最初の定価は高かったが、Fが粘り強く交渉し、昨日のところに近い金額になった。クオリティも良さそうなのでここに決めよう、良い交渉ができた、と思って、サインして、ダンボールももらって、もう1件別に頼んでいたところに断りの連絡をしたところ、見積もりだけでもさせてほしいというので、来てもらう。いきなりさっきの金額より低い価格を提示され、困ってしまった。あれだけ値切って負けてもらったので今さら断れないと言うと、さらに1万、2万と下がり、あれよあれよという間に半額くらいになってしまった。任せてもらえませんか、と押されたが、安かろう悪かろう…な感じもしたので、泣く泣くお断りする。差額が頭の中で回り続ける。最後の人は10年住んだこの家に入ったなかで一番アクの強い人だったかもしれない。昼ごはん食べました?という質問はどういう意味なのだろう?食べましたよ、食べてないんですか?と返すと、○○さん(この引っ越し屋の愛称)はごはん食べないと力が出ませんからとのこと。頭には寝癖があって、スーツの上下の色が微妙に違っていた。手品師のような黒いアタッシュケースみたいなカバンを持っていた。

水曜日
昨晩寝る前にFとビールを飲んだからか、朝、目が覚めると、目まいがする。起き上がって動こうとすると吐き気がしたので、そのまま寝ていることにした。午前中いっぱい横になっていた。昼に起きて朝食用のサラダを食べる。昼食のクスクスも少し食べる。マシになってきたので午後は仕事をする。その後、図書館に届いた本を取りに行く。お金についての本だ。今後の生活の何か参考になればと思って借りた。自転車に乗りながら今の仕事を時給換算してみたら、思ったより少ないことに気がついた。そして、レンタル収納スペースみたいな施設が増えていることにも気がついた。部屋に置く荷物は最低限にして、趣味のものなどはレンタルスペースに入れておく流れなのだろうか。

木曜日
昨日の夜はデザートによもぎ団子を作って食べた。よもぎは冷凍しておいたもの。団子の水分が少し足りなかったのか、ちょっと固めになる。水を入れすぎると後戻りできないので慎重に入れた結果、そうなった。餅や団子が好きだ。前に家に遊びに来たイギリス人が、「死ぬ前に最後に何を食べたい?」と聞くので、いきなり聞かれてもわからないなあと思いながら「納豆かな?」と返したのだけど、次回は餅と答えたい。よく老人が正月に餅を喉につまらせて亡くなるのは他人事とは思えない。餅好きには餅で死ぬのは本望か。餅米を食べるためだけにラオスあたりに行ってみたい。

金曜日
引越し屋さんにもらったお米と、畑で採れた赤エンドウで豆ごはん。「引っ越すとお米を頼みにくくなる」とFが言う。滋賀県から宅配で無農薬の玄米を取り寄せているのだが、1回分が20キロと重いので、宅配の人に持って上がってもらうのが申し訳ないと。引越し先はエレベーターのない団地の5階。

土曜日
昨日は親戚のおばさんが亡くなったので神戸に告別式に行った。その前に商店街で豚まんを1つ買って食べる。さっきまで通りかかりのおばちゃんとおしゃべりしていた奥さんが無言で豚まんを手渡してくれた。100円。小さなころ夏休みやお正月にはこの界隈を訪れていた。お年玉を握りしめて行ったおもちゃ屋がまだあるのに驚く。小さな店に所狭しとおもちゃの箱が積み上がっていて、子どもでなくてもテンションが上がる感じだ。おばさんのシュークリームが美味しかったと親戚のおじさんと意見が一致する。この人が誰なのかよく知らない。Fに名物のういろうを買って帰る。

日曜日
昨日は義父母とFとみんぱく(民族学博物館)に行く。途中でラーメン屋に寄る。一度行ってみたかったチェーン店だが、来てみると来週いっぱいで閉店するとの張り紙があった。帰り際に義母が店の人に「店がなくなったあとはどうなるの?」と聞く。見ず知らずの人に自然に話しかけられるのはすごい能力だと思う。日々取材してインタビューしているようなものだ。おっさんにはなりたくないが、おばさんにはなりたいと思う。店は別のラーメン屋になるそうだ。

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