013 別の惑星にやってきた(アイスランド)

デンマークの首都コペンハーゲンから飛行機でアイスランドへ向かう。Iceland Expressという低価格のエアラインなので、機内食は有料。合理的で良いと思う半面、無理やり食べさせられるという不自然な習慣がなくなるのも、ちょっと寂しい気がする。

アイスランドの首都レイキャビクに到着した。よく使われる表現だけど、別の惑星に来たような、そんな景色。木がほとんどなく、溶岩でできた黒い大地が広がっている。建物は無機質な印象で建築模型のように見える。

霧が出ていてあたりが白く幻想的。この旅で初めて遠くに来たなと思った。

ネットで予約しておいた音楽フェスティバルIceland AirwavesのチケットをCDショップに引き取りに行く。ちゃんと買えているか不安だったけど、無事入手できた。

無線LANが使えるカフェがあるので、自分のノートパソコンを持って行ってみる。でもエラーが出てうまくつながらない。

スーパーで買い物をすると、びっくりするほど高い。あらゆるものが日本の倍くらいの値段だ。

宿で水道をひねると、出てくるのはすべてお湯で、硫黄のにおいがする。さすが火山の国だ。屁をしてもばれない。

* * *

インターネットカフェにいって、昨日無線LANが使えなかった理由を調べる。マイクロソフトのページに何やら設定方法が載っていたので、それをメモして帰り、カフェで試してみたところ、うまくネットにつながって感激。自分のパソコンを使えるのは快適だ。ウイルスソフトの更新などをしておく。

 

夜からIceland Airwavesが始まった。オープニングから見に行ってみると、まだ早い時間だからか、客がほとんどいない。演奏しているバンドがちょっとかわいそうになる。時間が進むに連れてだんだん人が入ってきたけど、大騒ぎするほどの盛り上がりではなかった。

夜、宿で同部屋のフランス人と話をする。大工をしていて、仕事を探しにアイスランドに来たらしい。仕事をしながら世界を回りたいそうだ。手に職があるのはうらやましい。

* * *

同じ宿に、Iくんという日本人旅行者がやってきた。彼が日帰りツアーに参加するというので、一緒に行くことにする。自分ひとりだと動くのがおっくうになるので、誰かと一緒に観光できるチャンスは逃してはいけない。

滝、間欠泉、国立公園の3箇所をバスで巡るツアー。街を少し離れると、溶岩の世界が広がる。ほのぼのした風景ではなくて、SF的だ。原始的な風景に、なにか宇宙を感じる。Iくん情報によると、実際にNASAの宇宙飛行士がアイスランドで訓練をしていたらしい。彼はアイスランドについてちゃんと下調べをしてきていて、道中いろいろ教えてもらう。

ツアーにはガイドがいるのだけど、自分の英語力が足りなくて完全には理解できない。それもIくんに通訳してもらったりして、彼サマサマである。彼がいなかったら、集合時間なども間違っていたかもしれない。

ガイドさんは英語とフランス語で解説をするのだけど、話す順番を前半は英語→フランス語、後半はフランス語→英語の順にと配慮していた。

外は風が強くて、寒い。とくに滝では水しぶきが凍り始めるほど気温が下がっていて、顔が固まりそうだ。手持ちの服を総動員して防寒MAXで臨んで正解だった。タイツはいらないかと思ったけど、履いてきてよかった。

夜は、エアーウエーブの2日目。昨日よりは盛り上がっている。それはいいのだけど今度は逆に、狭い会場で人気アーティストが出るときには、入場待ちの行列ができてしまう。寒空の下、長時間待つのはなかなかつらい。

ひとしきりライブを堪能して、夜中の2時くらいに宿に戻って寝る。

* * *

昼間、レイキャビクの市内を歩く。スーパーがあったので買い物をする。外食は高くて手が出ないから、基本的に宿のキッチンで自炊するしかない。安いパスタなどを購入する。少しでも安く上がるように入念に選ぼうと、たいした買い物じゃないのに30分くらいスーパーをウロウロしてしまう。

夜は今日もエアーウエーブ。昨日までとは雰囲気も変わり、俄然、盛り上がってくる。やはり週末になると、地元の人の気分も違うようだ。

会場で何回か出会って顔見知りになる人も出てきた。おすすめのアーティストなどを教えてもらったりする。東洋人の客は少ないようで

「お前はブルースリーか」

などと冗談を言われたりもした。

会場内でビールを飲もうとすると、1杯1000円くらいして驚く。タバコも1箱1000円くらいする。さっきスーパーであれほど悩んで節約したお金が、あっという間に吹っ飛んでしまう。

来場者が増えて、比較的大きな会場にも入場待ちの行列ができ始めた。いったん入った会場から安易に外に出てしまったため、再入場するのに長い列に並ぶ羽目になってしまった。

入場を待っている間、ふと空を見上げると、オーロラが見えた。街でもたまに見えることがあると聞いていたけど、本当に見られるとは思っていなくて驚いた。オーロラが見たくてアイスランドに来たわけでもなく、とくに期待していなかったのだけど、実際に目にするとやっぱりなんかすごい。今まで他に見たことのない現象で例えが難しいけど、うにゃうにゃしていて「天女の舞い」という感じ。緑色の光が液体のように動いて、浮かんでは消え、浮かんでは消えする。

ずっと会場内にいたら見られなかった。何が幸いするかわからない。僕が空を見上げていると、行列待ちの他の人も「あ、ノーザンライトね」という感じで気がついたが、そんなに珍しい様子でもなかった。虹くらいの感覚なのかもしれない。

* * *

宿にKくんという別の日本人の男の子がやって来た。大学を休学して、ヨーロッパ旅行中なのだそうだ。

「ブルーラグーンに行きませんか」

と誘われたので、一緒に行くことにする。いいタイミングで誰かが観光に誘ってくれるので、めんどくさがりの自分にはありがたい。

ブルーラグーンは、溶岩の大地から湯が湧いている天然温泉。風呂というよりは池といったほうがいいくらいの巨大な露天風呂だ。ブルーという名の通り、乳青色のお湯が湧いている。

お湯も38度くらいの適温で気持ちいい。旅に出て以来、湯船につかってなかった。幸せを感じる。泥パックをしたり、滝に打たれたり、サウナをしたりと、めいっぱい楽しむ。

しかし外は寒い。気温は昼間でも2~3度くらい。湯から上がると、ダッシュで更衣室に行かないと凍えてしまう。

結局2〜3時間くらいブルーラグーンにいた。帰りのバスでは疲れて寝てしまう。後で聞くところによると、湯あたりするので、あまりつかりすぎるのも良くないそうだ。

夜はエアーウエーブ4日目。最終日の明日はほとんどイベントがなく、今夜が実質のファイナル。知り合いになったイギリス人と一緒に見に行く。彼は酒代の節約のため、マイボトルにウイスキーを忍ばせて会場入りしていた。それを少し飲ませてもらって、体をあたためる。

さすがにフェスティバルもクライマックスで、会場も盛り上がっている。それに比例して入場待ちの列もとんでもない長さになっていて、もはや会場を渡り歩くことは不可能だった。

ライブハウスで、留学で来ているという日本人の大学生に会った。彼はこの9月からここに来て、アイスランド語を学んでいるという。今、日本から留学に来ているのは5人くらいしかいないそうだ。この国で1年間暮らせるとは、うらやましい。

「アイスランドは人口が少ない国だから、何でもすぐにトップになれて世界が近いんです」

皆知り合いのようなものなので、政治家の汚職などもほとんどないらしい。そういえば、街にある国会議事堂だという建物も普通の家のようで、ピンポン押したらすぐに入れそうだった。

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