019 急に労働をしたい欲求が湧いてきたけれど(北アイルランド)

1ヶ月過ごしたアイルランドのコークから、北アイルランドの首都ベルファストにやってきた。北アイルランドは英国領である。途中、バスで国境を越えたはずだけど、特に検問などもなかった。

バスターミナルで韓国人の男の子と知り合う。彼はロンドンの語学学校で、英語を勉強しているのだそうだ。旅行もよくして、これまでにヨーロッパの国はほぼ制覇したと言う。ちょっと嫉妬。が、彼はアイスランドとロシアには行ったことがないらしく、この点でイーブンに持ち込む。

宿を決めていなかったので、彼が予約しているホステルについて行くことにする。日曜の夜だからか、ベルファストの街は誰も歩いてなく、クリスマスのイルミネーションだけが輝いていた。

夕食はスーパーで冷凍食品を買ってきて食べる。

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ベルファストの街を歩く。いい感じの街だけれど、ちょっとロンドンに似ている。

先日亡くなった元サッカー選手ジョージベストの葬儀が、ここベルファストで行われた。葬儀を見るためにやってきたというアイルランド人に宿で会ったりもしたし、ここ数日はその話題で持ちきりだったようだ。

ベルファスト郊外におもしろい博物館があるというので、列車に乗って行ってみた。広大な敷地に、交通博物館と民族博物館が併設されている。

交通博物館は体育館のようなところに、電車・バス・車・バイクなどの実物が所狭しと並べられていて、楽しい。デロリアンは北アイルランドで製造されたとか、チューブ式のタイヤを発明したのはダンロップさんだとか、豆知識を得る。

民族博物館は屋外に昔の町を再現してあったのだけど、雨が降ってきたので退散。

夕方、バスで北アイルランド第2の街、ロンドンデリーに移動。夜8時ごろに着くが、正確な地図を持ってなかったので宿の場所がわからない。なんとなく地理がつかめてくるまで、ひたすら歩いて、ようやく発見する。居心地のよさそうな宿でよかった。

寝るとき、定住地がないことが急に不安になる。

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ロンドンデリー市内を散策。冷え込んでいるが、天気が良くて気持ちいい。城壁を歩いて1周する。ちょっとした起伏もあって、歩くのが楽しい。ロンドンデリーがこんなきれいな街だとは思っていなかった。

しかし、監視カメラがたくさん付いた鉄塔がいたるところに立っている。いまは平穏とはいえ、テロを警戒してのことかもしれない。

ここにきて、急に労働をしたい欲求が湧いてきた。街の中でフェアトレードなどをやっているNGOのショップを見つけて、そういえばコークにいるときに、同じショップがボランティアを募集していたのを思い出す。労働ビザがないのでお金をもらって働くのは違法だけど、ボランティアなら問題ないだろう。

ネットで調べて思い切って電話をすると 、まだ募集をしているらしい。まずはコークの店に来て、申し込みをしてくれと言われる。なので、予定を変更して再びコークの街に戻ることを決意。何か妙にアグレッシブになってきている。

露店でTシャツを1枚購入。

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ジャイアンツ・コーズウェイという見どころがあるので、コークに戻る前に行ってみることにする。海岸沿いに奇妙な岩々があるらしい。

電車とバスを乗り継いで行く。風が強くて寒い。天気も悪く、バスを待つのがつらかった。

ジャイアンツ・コーズウェイは、海沿いに、六角柱の奇妙な岩が敷き詰められたように並んでいる。確かに自然現象とは思えない、なんじゃこれはという風景である。でも、それほど大規模なものでもないので、すぐ見終わってしまって、帰りのバスまで時間をもてあます。

ロンドンデリーに戻って、北アイルランド紛争に関連した壁画のある地域を歩いた。天気も悪く、なんだか落ち着かない気分になる。

泊まっているホステルは小さいけど快適。同じような価格帯のホステルでも、快適な所とそうでない所がある。水周りがきちんとしていると、その宿の心意気が伝わってくる気がする。

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ボランティアワークに申し込むため、再びコークに向かって移動。バスを乗り継ぎ、10時間くらいかけて到着する。しかし、今さらながら、果たして戻る必要があったのかと後悔し始める。

コークに着いたのはもう夜だったが、その店は開いていたので、「ボランティアしたいんですけど」とスタッフに声をかける。すると「これに記入して明日持ってきてください」と申し込み用紙を渡された。

しかし、宿に戻ってよくよく考えてみると、とくにどうしてもその店で働きたいわけではないことに気がついた。ボランティアなのでもちろん給料はないし、滞在費だけがどんどんかさんでいくことになる。

そんなことは承知の上で、外国での労働体験のほうが価値があると思ったはずなのだけど、いずれにしても、長い期間働けるわけではない。ビザの問題もある。

などと考えて、だんだん腰が引けてきた。店に行ってピンと来なかった、というのが大きな理由かもしれない。そういうことは、足を運んでみないとわからない。 それより旅を進めるべきだろう。じゃあ何のためにわざわざコークに戻ってきたのか、と思うけど、今回のボランティアは見送ることを決める。

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すでに宿に2泊分の料金を払ってしまっていたので、もう1日コークに滞在。1週間前までここの語学学校に通っていたので、まだ残っているクラスメートもいる。

彼らに出会ってしまうと、ちょっと気まずい。なぜここにいるのか説明するのが面倒くさいし、大々的に別れたはずの人と、また会うというのは興ざめである。

なので、基本的には日記を書いたり、洗濯をしたりして宿で過ごす。夕方、スーパーに買い物に出ると、元クラスメートらしい人影を見かけたので、思わず気づかれないように進路を変えてしまったりした。

ところで、ヨーロッパでのカルチャーショックのひとつは、食器の洗い方だ。お皿を洗うとき、お皿についた洗剤を水で洗い流さない。アワアワがついたまま乾かして、そのまま使うのである。

欧米の映画でアワアワのお風呂に入っている人を見るたびに、いったいいつあれを洗い流すのか?と疑問に思っていたけど、たぶん「洗い流さなくても気にしない」が正解なのだろう。

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コークからダブリンに向けてバスで移動。1週間前と全く同じ行動で、ビデオテープを再生しているかのようだ。

ダブリンでは、コークにいるときに同じ宿だったロシア系ドイツ人の女の子が教えてくれた宿に泊まる。安くていい宿とのことだったけど、とくに安いわけではなかった。その女の子も、この日はこの宿にいると言っていた気がするが、いないようだった。

年末にヨーロッパをいろいろと移動するので、交通手段を確保しようとしているのだけど、値段設定が複雑で悩む。

航空業界の競争のおかげで、飛行機の値段が下がっているのはうれしい限りなのだけど、バス<電車<飛行機という基本的な価格順さえ崩れているので、いざ移動しようとすると、すべての移動手段をチェックしないと損をしてしまう。

しかも、せっかく安いフライトを手に入れたと思っても、空港税がやたら高かったり、空港までの交通費がかなりかかったりして、トータルにするとけっこうな値段になるという、引っ掛け問題みたいなことになっている。

日によって値段が変動するし、ネット価格と窓口価格が全然違ったりもして、毎日パソコンとにらめっこしないといけない。その労力とネットカフェ代も馬鹿にならないので、結局何が得なのかわからなくなる。

夕方スーパーで買い物をしていると、おばあさんが売り物のレタスをむしゃむしゃ食べていた。

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ダブリンから北アイルランドのベルファストに移動。これも1週間前と同じ行程だ。

ネットカフェに行くが、なぜかホットメールにアクセスできずイライラしてしまう。

宿で、洗濯物をヒーターの上に置いて乾かしていると、いつのまにか女物の濡れたブーツがその上に置かれていた。そのブーツが臭い。というか、人が先に干してるのに。

明日にはようやくアイルランドを出て、イギリス本島、スコットランドに向かう。

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