反対する理由が見つからないけど、賛成する理由も見つからない

『明日の食卓---有機農業と遺伝子組換え食品』という本を読んだ。

有機農業家である夫と、遺伝子組み換えの研究者である妻によって書かれたもので、有機農業と遺伝子組み換えの組み合わせが将来の農業にとって最善の戦略ではないか、と提案をしている。

「遺伝子組み換え」と聞くと、すぐに危険か安全かと考えてしまうけど、そもそも遺伝子組み換えとはどういうものか、よくわかっていなかった。この本を読んで、あいまいにしか知らなかった遺伝子組み換えのことが、少しずつわかってきたような気がする。

まず、遺伝子組み換えをひとくくりに見るのではなくて、できた品種を1つ1つ検証することが大切だ。これまでの育種法でも遺伝子の組み換え自体は起こっている。人為的に放射線や薬品による刺激を与えて、遺伝子に変異を起こすことで新しい品種を生み出してきた。だから遺伝子が変わること自体よりも、それによって性質がどう変わるかが問題なのだという。

この本の出版時点で、市場に出ている遺伝子組み換え作物(GM作物)は、土壌細菌が出す毒素(Bt毒素:害虫に効果がある)を含んだ作物と、モンサント社の除草剤グリフォサートに耐性のある作物、この2つがほとんどだそうだ。種類としては意外に少ない。

市場に出ている作物については、特別な健康リスクはないと考えられている。少なくともそれに異を唱える科学者はいないようだ。ただ、現在栽培されているもの以外にさまざまな作物が遺伝子組み換えされるようになると、状況は複雑になるかもしれない、と著者は書いている。

GM作物のメリットは殺虫剤や農薬の使用を減らせることだ。これが有機農業との組み合わせが理想的だと著者が考える元になっている。実際のところ、どのくらい減らせるのだろう? この本では2006年のアメリカのデータで、Bt毒素入りGMトウモロコシの栽培者は非GM栽培者に比べて殺虫剤の使用が8%少ないと書かれている。8%ってちょっと微妙だ。たいして減ってない気がする。

一方、別の記述では、中国で害虫抵抗性GM綿花により農薬の使用が80%減少したと書かれていて、これなら大きな変化だと言える。中国の綿花はもともと農薬使用が大量だったということかもしれないけど。

GM作物は貧しい地域の人を救うために必要だという意見もよく聞く。でもそれは社会的・政治的な状況による。技術や権利を得た大企業は果たして貧しい地域の発展に力を入れるだろうか。研究開発費を回収し、利益を出すために、より高く売れる場所を探すのが企業として普通の行為だろう。

だから、GM作物が広まれば食品が安くなるかというと、必ずしもそういうことではなさそうだ。栽培が効率化できたとしても、研究開発費が乗っかってくるわけで、結果として値段が上がるかもしれない。

そう考えると、GM作物は普通の消費者にとってメリットはあるのだろうか?という疑問が浮かぶ。農薬を減らせるのはひとつ。でもすでに無農薬や減農薬、有機の作物を食べている人にとって、あえてGMを食べよう、推進しようという理由にはならない。GMに反対する理由が科学的に見つからないとしても、賛成する理由も見つからない。

たしかに研究者はおもしろいかもしれない。どういう遺伝子を掛け合わせればどんな結果が出るか。従来の交雑法より結果が出るまでのスピードが速いので、研究のしがいがあるんじゃないかと思う。

でも聞いてみたいのは、生産者の人の声、貧しい地域、食に困っている地域の人の声だ。そういう人が実際にどう考えているのか、GMを切実に求めているのか。そういうことを次に知りたくなった。

『明日の食卓』

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