コミュニケーションの仕事とは、不自然を不自然じゃない形にすること

コミュニケーションについて、もっと知りたい。世の中でどういうことが言われ、どういう取り組みがされているのか知りたい。そう思って、平田オリザさん『わかりあえないことから──コミュニケーション能力とは何か』を読んだ。

劇作家の平田オリザさんは、今は大阪大学コミュニケーションデザインセンターの教授を務めていて、この本ではおもに演劇の観点から見たコミュニケーションについて書かれていた。

なるほどと思ったのは、仲間うちの会話だけでは、その人たちが置かれている状況が説明できない、ということ。

たとえば、娘が食卓で父親に「お父さんの職業は何?」とは訊かない。そこで演劇では第三者を登場させる。娘の婚約者が出てきて「で、お父さんは何を?」と言わせるのだ。それによって、家族の状況を観客に伝えることができる。なるほど、そうやって、演劇の台本を作っていくのか、と思ったのだった。

考えてみれば文章でもそうだけど、自分で自分のことを説明されると、ちょっといやな感じを受ける。野暮というか「知らんがな」という気分になる。「私って~じゃないですか」という言い方を不快に感じるのも同じだ。そこで演劇では、他者を登場させて、その会話を通じて自分を説明する。面接の自己アピールなども、この術を使えば嫌味じゃなくなるのかもしれない。

日常会話で、自分のことを自分で説明するということは普段はない。だから、文章で唐突に自分の説明が入ると読み手には違和感があるし、不自然さを感じるのだろう。

そして、そのような不自然さを乗り越えることが、コミュニケーションなのだ、と思う。コミュニケーションとは、いかに不自然なことを不自然でない形にするかということなのだ。平田さんがタイトルで言っている「わかりあえないことから」という言葉に、それが表れているように思う。

この本で挙げられていた例でいうと、旅行中に隣の席に座った人にはふつう話しかけづらいけど、もし相手がサッカー雑誌を読んでいて、自分もサッカーに興味があれば、話しかけやすくなる。そういう状況を考えることが、わかりあえないことを前提に、わかりあえる部分を探っていくというコミュニケーションのアプローチなのだ。

演劇にしても、文章表現にしても、普通にやれば不自然だという状況があって、それをどうやってどうやって不自然じゃない形にすればいいだろうか、と考えることが、コミュニケーションにかかわる仕事なのだ。この本を読んで、そのことがクリアになった気がした。

わかりあえないことから

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