自分を律することができるかどうかが人間の質を決める

同居人は田舎暮らしというか、自然の中で暮らすことに憧れており、自分はどちらかというと警戒感を持っている。そんな田舎暮らしのネガティブな面をおさらいしたいと思ったからか、丸山健二著『田舎暮らしに殺されない法』という本に手が伸びた。

著者は長野の安曇野に住む作家。子どもの頃は長野で育ち、都会に出て作家になった後、再び長野に戻った人だ。都会も田舎も両方知っているという視点から、安易に田舎への移住を決める人々、とくに定年後の世代の人に警鐘を鳴らしている。

文章は丁寧だけど、書いてあることは辛辣だ。

田舎はあなたが思うほど良いところではない。田舎の人はあなたが思うほどきれいな心を持っている訳ではない。猥談好きでプライバシーもない。よそ者が来たらまずウサギの死体を投げ込まれる。仲良くなったと思ったらズカズカと家に上がり込んでくる、等々。

田舎の自然の美しさは生活の厳しさの裏返しであり、自然災害や野生動物の脅威が常にあり、静かに暮らせるかと思いきや農繁期には1日中農機の音がうるさく、誘致した工場も周りに何をばらまいているかわかったものではない。選挙でも誰に投票するか事前に地域で決められていて、自分だけ違う候補に投票したとしてそれがばれないとでも思うのですか。と、畳みかけてくる。

田舎は行政サービスや医療も不十分で、老いていけばいくほど厳しくなる。そんなガードが甘くなった田舎を狙う強盗団もいるから、常に武器を携帯し、やられる前にやれ、躊躇なくやれ、相手が逃げようとしてもとどめを刺せ、と、そんなこと書いてもいいのかと思うような内容が、独特のですます調文体で書かれている。丁寧口調で畳みかけてきて、気がつけば1ページ半くらい句点がない。これは本気で読むべきなのか、冗談として読むべきなのかわからなくなってきて、もう笑ってしまうような、そんな話芸というか文芸なのだった。

しかし、そこまでこき下ろす田舎に、著者自身は長年暮らしてきたのである。それは人間の本性を知りたいという作家としての好奇心があったからだ。そして田舎暮らしを希望する人には、自分を律し、自立し、自分を見つめ、人間の本性を見つめ、厳しい自然を見つめる修行の場だと思えばいいと説いている。それは著者自身も実際に行ってきたことなのだろう。

著者は、酒やタバコ、腹一杯食うことなど本能に任せた行動を嫌い、自分を律することができるかどうかが人間の質を決めると考えている。

この本を読んだ後、菓子パンでも買って食べようかとコンビニに入ったのだけど、著者の言葉が思い出されて、何も買わずに店を出てしまったのだった。

田舎暮らしに殺されない法

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