普通の人でもできそうなノンフィクション作家の始め方

 常々、日記をきちんと書きたいと思っている。とくに海外に出かけたときなどはそうだ。でも旅先では忙しかったり、疲れていたりして、なかなかきちんと日記が書けない。出来事もいろいろあるし、新しいことも目にするし、気づくことや思うことも多いから、なかなか全部書けない。そのときはいちいち書いておかなくても忘れないだろうと思うけれども、後になったらやっぱり忘れている。

 早稲田大学の探検部の出身で、ノンフィクション作家の高野秀行さんと角幡唯介さんの対談本『地図のない場所で眠りたい』によると、高野さんは、毎日朝に1時間から1時間半かけて前日の日記を書くそうだ。デビュー作となったコンゴの怪獣探しの探検のときから続けている。

 現地で話を聞くときは、キーワードや忘れてしまいそうな数字、地名、人名などをメモし、次の日にちゃんと読める文章で詳しい日記を書く。日本に帰ってきてから、その日記をしっかりと読み返し、そこで日記はいったん閉じて、新たに文章を書き始める。そんな方法を用いているそうだ。

 日記を書くことで、次の課題や、次の日に見るべきこと、調べるべきことが明確になる効果もあるという。たしかにそうだろうなあと思う。これをずっと続けてきたことが、高野さんの活動や文章の土台になっているのだろう。

 高野さんは、海外に行って日本語教師でもしながら1年くらい暮らして、いろいろ話を聞いたり見たりしたら、それで1冊くらい描けるのに、どうして若い人はそれをしないのだろう、とも言っていた。興味のある場所に行って、少し勇気を出して人に話を聞き、毎日しっかり日記を書く。これを繰り返せば、何かが見えてくるのかもしれない。いや、日本にいても毎日しっかり日記を書くことから始めれば、何かが変わってくるのではないか。

 日記をしっかり書きたいと思いつつ、そんなことに時間を使うのは無駄なんじゃないかと思う自分もいて、書いたり書かなかったり、時間を確保することを怠けていたりしていたけど、それを地道に続けてきた高野さんに、その方向でいいんだ、と背中を押されたような気分になった。

 言葉を習うところから始める、という方法もなるほどなあと思う。高野さんは、海外のある地域を取材して本を書こうと考えたときに、まず日本に住むその国出身の人を探し、その人に言葉を教えてもらう。同時にその国のことについて聞いたり、コネクションを作ったりする。言葉を習う名目があることで、実際に人と会ってじっくり話をする機会が得られるし、ちゃんとお金を払うので遠慮なくいろいろと聞ける。そうやって取っ掛かりを作って進んで行くのだ。

 高野さん流ノンフィクション作家への第一歩は日記を書くこと、第二歩は興味のあることを習うこと。これなら自分にも実践できそうな気がしてきた。

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