ほんとの意味でクリエイティブな調査
まったく知らなかったけど、徳島県の海部町は全国でも有数の自殺率の低い町だそうだ。『生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由(わけ)がある』という本を読んで、そのことを知った。
大学院で研究をしている著者の岡さんは、海部町に住み込み、住民から聞き取りを始める。そして、同じような環境なのに自殺率が高い近隣の町と比較したり、全国の土地データから自殺率の低い場所に共通する特徴があるかどうかも調査する。自殺を抑えている要因を見つけ、それを将来の自殺防止対策に生かしたいという思いからだ。
その調査から得られた結果が、5つの自殺予防因子として、この本にわかりやすくまとめられている。その結果には、やっぱりそうかと思うこともあれば、意外だと思うこともあった。でも、ある種の真実が、この調査によって明らかになったことは確かなようだ。
実際、町の人に「長い間感じていたことをよく言葉にしてくださった」と言われたり、ネガティブな結果が出ても「やっぱりそこに真実があるなあ」と納得されたりというエピソードからもわかるように、これまで言葉にされていなかったことが、調査によって言葉になった。これはすごくクリエイティブな仕事だと思う。
自分が科学的、学術的なアプローチに惹かれるのは、本当の意味でのクリエイティブがそこにあるからかもしれない。前に、クリエイティブなイメージだけど実は職人技が多いコピーライティングの話を何かに書いたけど、それと対比しても、いろいろ考えさせられる。
もうひとつ、読んでいておもしろいとおもったのが、「野暮ラベル」の話。
海部町では昔からコミュニティ作りにそぐわないような行為は「野暮」と言われて、避けられるような雰囲気があった。野暮という「ラベル」があることで、その場の短期的な損得勘定ではなく、もっと長い目でみた価値観が生まれる。
損得ではどうも説明できないけど、なんとなくそれはやっちゃだめだろう、ということ、それはつまり「野暮」なのだ。「野暮ラベルを貼る」というのは、日常生活でも仕事でも、なにか役に立ちそうな考え方だという気がした。
『生き心地の良い町』
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