022 ロックイン事件(ベルリン)
ベルリンでホステルに泊まっていたときのこと。
朝、目を覚ますと、なぜか部屋に鍵がかかっていて外に出られない。同じ部屋の人が外出するときに、外から鍵をかけてしまったのだ。鍵は部屋にひとつしかないので、他の人がまだ中にいる場合は部屋に残していくべきなのだが、それに気づかなかったのだろう。
とにかく閉じ込められてしまった。内側からはドアが開かない。
とりあえずドアをドンドンとたたいて、「誰かー」と声を出してみるが、誰も気づいてくれない。奥まった場所にある部屋にいること、宿泊客も少ないこと、朝寝坊してしまったので人が行き来する時間帯を過ぎてしまったこと、そんなことが重なってか誰も廊下を歩く気配がない。
とはいえ、誰かが通りかかるのを待つしかない。
すぐ出かけなければならない用事があるわけでもないし、まあ、いずれ掃除の人とかがやって来るだろうから気長に待てばいいのだが、直近の問題としてトイレに行きたい。部屋の中にはトイレがないのだ。
自分の体と相談して、なんとか1時間くらいは耐えられると判断。それまでに助けが来ることに賭けることにする。
本気で大声を出して騒げば、「クレイジーなヤツがいる」と、誰かが気づくのかもしれないが、そこまで深刻な事態なのかどうか自分でも自信がない。ただドアが開かない、というだけのことだ。
しかし、いつ来るかわからない人を待って、ずっとドアの内側にへばりついているのも、つらい。そこでドアの近くに椅子を持ってきて、読書をしながら待つことにした。ピンチなのか、リラックスしているのか、自分でもよくわからなくなってきた。
しばし、本に熱中。
ふと気がつくと、誰かが廊下を歩く音がしているではないか。慌ててドアをドンドンやってみる。しかし、すでに通り過ぎてしまったらしく、反応なし。しまった、遅かったか……
まるで無人島に遭難してSOSを出している気分だ。助けの船が来たと思って喜んだら、気づかず素通りされてしまうパターンである。
尿意がだんだん限界に近づいてきた。ふと部屋を見わたすと、ペットボトルがある。昨日買ったミネラルウォーターのやつだ。容量は1.5リットル。十分ではなかろうか。最悪の場合はこれに……
いやいや、なぜにそこまでの屈辱を味わないといかんのだ。こんな大都会の真ん中で、冷暖房完備の部屋にいて、財布にはお金も十分ある。それなのになぜペットボトルに……、VISAカードだって持っている。
世の中には、お金で解決できないこともあるのだと思った。
幸運にもほどなく宿の人が通りがかり、今度はジャストタイミングでドアを叩けたようで、こちらに気づき、状況を理解して鍵を開けてくれた。
「ずっと中で待っていたのか? それは悪いことをした」
となぜか謝られたが、同情されるのも恥ずかしい。そそくさとトイレを済ませ、何事もなかったように外出した。
ということで、結果的には「午前中は読書をし、午後から外出した」という、何ということもない1日の出来事でした。
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