030 最終的には、自分のコミュニケーションの容量に見合った範囲に落ち着くのだと思う(スペイン)

早朝バルセロナ着。

リュックをしょって歩いているとき、左肩だけ痛いなと思って調べてみると、ひもの長さが左右で全然違っていた。調整してしょい直すと、断然軽く感じる。だから、つらかったのか。今までひたすら重さに耐えていたけど、我慢するだけじゃなくて、原因を追究すべきだった。

昼ごろ、宿の近くの地下鉄で日本人の女子3人組に遭遇。彼女たちは3ヶ月のヨーロッパ旅行らしい。その場はあいさつ程度で別れたけど、夕方にまた再会したので、夕食を食べながら話をする。

長崎出身で、3人同時に会社を辞めて旅行をしている。日本では接客の仕事をしていたそうで、「ヨーロッパの接客は人間対人間の感じがする。日本のマニュアル対応とは違う」と話す。

古いものを大切にする文化にも好感を持ったそうだ。同感だ。自分もできれば古いものを大切にしたい、同じものを長く使いたいとは思っている。なのに、どうして使い捨てしてしまうんだろう? 単にそのほうが経済的だからだろうか。

お金持ちほど長く使えるものを手にして、お金の無い人ほど使い捨てをしなくちゃならないというのは、ちょっと矛盾だ。

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朝起きた瞬間、どこにいるのかわからなくなることがある。部屋が暗かったりすると今いる場所を思い出せない。で、明かりをつけて、ああここだったか、とわかる。

ガウディが設計したグエル公園を見に行く。天気が良くて気持ちいい。これだけスカッとしていると、人が陽気になるのもわかる。

バルセロナオリンピックの会場にも行ってみる。岩崎恭子が金メダルを取ったプールも見たが意外と小さかった。五輪後に設備を縮小したのかもしれない。

そういえば、トリノ五輪も近づいている。せっかくヨーロッパにいるのだから、トリノ五輪を見に行くのはどうかと思ったけど、競技のチケットは日本の代理店を通してしか買えない。そうWebサイトに書いてあった。しかもめちゃ高い。やめておくか。

オリンピックは夏より冬のほうが好きだ。長野五輪もテレビでしか見なかったけど、無理してでも現地に見に行けばよかったと後で思った。貴重な機会を逃した。そしてトリノもまた見逃すことになるのだろう。

美しい景色にみとれて歩いていると、犬のウンコを踏んだ。旅行中はしょっちゅうウンコを踏んでいる気がする。

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ベリーダンスの修行をしている日本人の友人と会う。日本を出たのが自分とほぼ同時期で、旅の途中のどこかで会おうと約束していた人だ。

打ち込めるものを持っている人はうらやましい。とはいえ、彼女もトライアンドエラーを繰り返した結果であり、行動力のたまものだろう。行動すべきタイミングを逃さないところを見習いたいけど、なかなか簡単なことではない。

感覚に頼る部分と、じっくり考える部分をうまく使い分けられる人はすごいと思う。感覚で判断すべきときにうだうだ考えてしまい、しっかり考えないといけないときに、エイヤと決めてしまったりする。この旅行は、考えたあげくエイヤと決めて出てきてしまったのだけど、果たして吉と出るか凶と出るか。

彼女は単身トルコに乗り込み、そこでネットワークを広げ、エジプトでも修行をしたあと、有名な先生に習えることになって、今度はパリに行くのだそうだ。アイルランドで会ったモンゴル人の理容師もそうだけど、「やってみれば道は開ける」というのは、本当にそうだよなあと思うことが多い。

ガウディ建築で有名な教会サグラダ・ファミリアを見に行く。地下鉄のサグラダファミリア駅の出口を出たら、いきなりそれはあった。もうちょっとアクセスしにくい場所にあってもよかったのに、と勝手なことを思う。

サグラダ・ファミリアは、作り始めてから100年以上たった今も未完の建築物である。工事用の足場が組まれ、クレーンが動き回っている。観光名所というよりは、工事現場の社会見学といった趣きだった。

ガウディは異常なまでの凝り性なのではないだろうか。何ひとつシンプルに済ますところがない。もうちょっと簡単にやりましょうや、という周りからの意見もあっただろうに、それをものともしないのは執念としか言いようがない。とにかく、完成にはまだまだ時間がかかることが実感できた。現代の技術を駆使してさっさと完成させればいいのに、と思っていたけど、こりゃ時間かかるわと実感した。

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昼下がりに市場をぶらぶらしていると、簡単な食事ができるスペースを発見。昼飯をそこで食べることにする。メニューを見てもよくわからないので、おじさんに言われるがままに注文すると、予想以上に本格的な料理が出てきた。魚介類がおいしい。勢いでワインも飲んでしまったけど、それもおいしかった。

食べ物は本場で食べるとうまい、というのは本当だと思う。実際に味が違うのか、気持ちの問題なのかよくわからないけど。とくにスペインは食材が豊富だ。野菜、果物、肉、魚すべてが充実している。

ピカソ博物館に行ってみる。印象に残ったピカソの言葉2つ。

「やれやれ仕事が終わった、明日は日曜日だ、とは決して言ってはいけない。すぐ次の仕事に取り掛かるべきである」

絵の感じとは裏腹に、ピカソはほんとうに働き者だったみたいだ。

「そのときに発見したものを描くべきである。自分が探しているものを描くのではない。意図は重要ではないのだ。」

何かを狙って、それを思い通りに表現しただけでは、おもしろくないのだろう。それではモチベーションがもたないのかもしれない。その場その場でたくさんの発見があるからこそ、続けられることなのだと思う。

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スペイン名物パエリア(パエージャ)を食べてみる。日本の雑炊みたいなうまさだ。お米を新鮮な魚介のスープで炊き込んでいるのだから、おいしくないはずはない。スペイン料理は素材の味を生かすことと、味のハーモニーを楽しむことの、どちらも心得ている感じがする。

夜、金縛りにあう。よくあることだけど、なんとも言えない恐怖が襲ってくる。

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バルセロナには服屋や雑貨屋がたくさんあって、買い物意欲をそそられる。オシャレなものが手に届く値段で売られているのがいい。物価が安いわけではないけど、ブランドものではない格好いいものが、手ごろな価格で手に入るのは魅力的。とくに靴が欲しくなった。

スペインは治安が悪い、と聞いていたけど、財布を盗られるよりも、買い物をしすぎてお金を失うことの方がキケンである。

現代美術館があったので入ってみる。でも最近現代アートばっかり見ていてちょっと食傷気味なのか、すぐ出てきてしまう。

以前は、世界を広げたいという気持ちが強かったのに、今では、世界を狭めたいと思っている。世界を広げるという作業は、この旅で一区切りなのかもしれない。

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バルセロナから電車で1時間くらいのモンセラットという場所に行く。切り立った山がそびえ立っていて、独特な景色だ。ただテンションが上がるかというと、それほどでもない。その理由はアクセスが良すぎるからだ。

「はるばるやってきた感」は重要だ。それをコンセプトにしているのが、巡礼であり、バックパック旅行である。自らはるばるやってきた感を演出するわけである。

街では中東のベジタリアンフード、ファラフェルが人気。

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アイルランドの語学学校で知り合ったスペイン人の友人と会う。

言葉の話になる。バルセロナがあるカタルーニャ地方では、スペイン語ではなくカタルーニャ語が話されている。スペイン語とフランス語とイタリア語をミックスしたような言葉らしい。

スペインの学校で学ぶ外国語は、同じラテン語系のフランス語がかつては一般的だったけど、今では英語かドイツ語が主流になっている。フランス語はちょっと取り残されているらしい。

言葉と気質は、やっぱり関わりが深いと思う。ラテン系の言葉を使う人々は、だいたい陽気だし、性格の似ているフィンランドとハンガリーと日本は、やはり同じような性質の言葉を使っている。

旅先で会った人とは連絡先を交換する人もいれば、そうでない人もいる。連絡先を交換するか否かは、その人と気が合ったかどうかよりも、その場のノリで決まる。あの人の連絡先を聞いておけばよかったなあ、と後悔することも多いけど、最終的には、自分のコミュニケーションの容量に見合った範囲に落ち着くのだと思う。会うべき人には連絡先を聞いていなくても、きっとまたどこかで出会うのだ。

サッカーのFCバルセロナの試合があるので、見に行こうと思う。が、チケット屋で値段を聞いたところ、予想外に高く手が出なかった。でも、とりあえずスタジアムまで行ってみることにする。

スタジアムから漏れてくる歓声を聞いて、無理してでも買えばよかったと後悔。しばらくスタジアムの周りをうろうろしてみたけど、すでに試合が始まってから時間がたっているからか、ダフ屋も見当たらず、しぶしぶ引き返してきた。スペインサッカーには縁がなかったな、と納得しようと思うけど、単にチケットに金を払う度胸がなかっただけである。

サッカーの試合開始時刻が夜の10時というのが、スペインらしい。スペインでは生活の時刻が後ろにスライドしている感じだ。昼の2時とか3時に昼食を食べ、夜の10時や11時に夕食をとっている。夜が長い国だ。

ところで、どうしてヨーロッパの人は、野球をやらないのだろうと不思議に思う。野球じゃなくても、例えば握りこぶし大のボールが転がっていたら、それを投げたくなるだろう。ボールを投げつけられたら、棒でそれを打ち返したくなるだろう。そういう本能をどこに追いやっているのか。

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倹約モードに突入。だれかと一緒にいるときは気が大きくなって、お金なんて使ってなんぼだ、と思うけど、1人になると、とたんにケチくさくなる。昨日はあんなに後悔していたサッカーも、今では見なくて正解だったと思うから不思議だ。

そんなところに、楽器屋で小さくて雰囲気のいいギターを発見。持ち運びができる楽器が欲しいと思っていたので、かなり惹かれる。がんばれば手が出る価格である。

悩む。とりあえず冷静になって考えようと、その場は保留にし、カフェに入る。さんざん考えて、よし買おうと思って、再度その楽器屋を訪れたところ、ちょうど店が閉店した後だった。何ごとも一期一会である。

急に街で日本人らしき人を見かけるようになった。学生が春休みに入ったのか、2月になって航空チケットが安くなったのか。

ビザの手続きで再度マドリードに行かねばならない。夜行バスで移動。最初に行ったときに手続きしておけば、また行くことはなかったのに、そのときは、ビザのことなんて考えてなかった。ミスである。ルート作りがうまく一筆書きに進まなかったのが悔しい。

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