判断すべき角度を狭めてくれる

エミリー・オスター著『お医者さんは教えてくれない 妊娠・出産の常識ウソ・ホント』を読んだ。原題は『Expecting Better』。より良く期待しよう、みたいな意味だろう。

アメリカの経済学者である著者は、最近出産を経験し、そのときに確率的に物事を判断することを迫られた。

例えば、妊娠時にお酒を飲んでいいのか? コーヒーを飲んでいいのか?

一般的にはダメとされているが、それはどのくらいダメなのか。医者も言うことがマチマチだ。ワイン1杯飲んだだけでアウトなのか、コーヒーを毎日カップ1杯だけ飲むのもダメなのか?

著者は経済学者として根拠となるデータに当たり、その質を検討し(ここが重要)、現実的なリスクを正確に割り出そうとする。

データの質が重要なのは、相関性と因果関係は別物だからだ。

つまり、飲酒が妊娠に悪影響を与えたというデータがあったとしても、お酒を多く飲む人はタバコも多く吸う人だったかもしれないし、食生活や他の生活環境からの影響もあったかもしれない。そういった他の可能性が極力取り除かれているのが質の高い研究データである。

調べた結果、著者の結論としては、週に1杯くらいのお酒は問題ないというものだった(お酒は肝臓の処理能力に依存するから、量だけでなく飲むペースにも気をつけないといけないが)。コーヒーも1日2杯くらいまでなら問題ないと言っている。

コーヒーの影響は、実はつわりと関係しているのではないかという指摘もしている。

これまでの研究で、つわりが少ない人は流産の可能性が高いことが分かっている。そして、つわりの少ない人はコーヒーを飲むことに抵抗がないと予測される。逆にいうと、つわりがあるとコーヒーなんて飲みたいと思わない。だから、本当の原因はコーヒーではなく、つわりの方にあるんじゃないか、というのが著者の仮説だ。

著者はこのように、妊娠から出産までに夫婦がしなければならない判断について、根拠となるデータを調べ、より精度の高い判断基準を導き出していく。こうやって、より良い判断をするための考え方を提供するのが、著者が専門とするミクロ経済学の本質なのだという。

統計データは客観的な一般論なので、自分の子どもがどうなるかという答えまでは教えてくれない。でも、より自分らしい決断をする材料を提供してくれる、ということについては、たしかにそうだなあと思った。

自分も含めて普通の人は、全方向的に分からないから医者の勧める方法に従ってしまいがちだけど、こうやってデータから分かることをきちんと示すことによって、自分が判断すべき角度が狭くなって、狙いが絞られる。そうやって、角度を狭めてくれるのが科学的なアプローチなのだと思う。

科学の力を借り、判断する角度を狭めて、自分なりの針路を決めていく。それが今の時代の合理的な生き方なのだろう。もっとも、そんなことは無視して真逆の方向に走り出す人もいるから、世の中はおもしろいのかもしれないけど。

お医者さんは教えてくれない妊娠・出産の常識ウソ・ホント

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