020 レコードショップには、坊主頭に黒メガネの人が必ずいる(スコットランド・イングランド)

北アイルランドから船で海を渡り、ブリテン島の北部、スコットランドに向かう。

出国するときにパスポートを入念にチェックされ、「北アイルランドで誰かに会ったか?」とか執拗に質問された。ヨーロッパ人はフリーパス。ほら、あの人のほうが絶対人相悪いって、と思う人が次々と横を通り抜けていく。

船とバスを乗り継いで、スコットランドの都市グラスゴーに到着。

宿にチェックインすると、なぜか女性用の部屋に入れられ、驚いた日本人らしい女子に無言で逃げられた。

街にはスケートリンクがあり、人々が楽しんでいる。

* * *

宿の同室にアラブ人風の男性がいる。歯磨き粉がないというので貸してあげた。

「どこから来たの?」

「イラクだ」

バクダッド出身で、ロンドンで勉強するためにイギリスにやって来たそうだ。

ホステルの食堂で、彼と一緒に朝飯を食べる。ちょっとためらいつつも、イラクは今どうなのかと訊いたら、バグダッドは危険だが、それ以外の地域は大丈夫だという。

「日本の自衛隊は役に立っている?」

「イエス。アメリカやイギリスは金のためだが、日本のアーミーは人助けのためにやっている」

「ちょっと力を貸してくれないか」と彼が言う。

「実はおとといの晩、飲んでケンカして、財布とパスポートをなくしたんだ」

フランスにいる親戚から送金してもらおうとしているが、パスポートがないので受け取れないらしい。

「代わりに受取人になってくれないか」

受け取るだけなら損をすることもないし、と思い、引き受けることにした。

午前中いっぱいかけて、彼と一緒に銀行や郵便局をうろうろして、何とかお金を受け取ることに成功した。彼は不明なことがあると、躊躇なくまわりの人に聞きまくる。相手が老人だろうが、ギャルだろうが、 おかまいなし。グラスゴーの人も、たいていは親切に教えてくれていた。

そして、彼はキレイ好き。食事の前後には入念に歯磨きをするし、食べたあとのテーブルはきれいに拭く。トイレがちょっとでも汚いと、「別のところに行く」と言って使わない。

夜のバスで、エジンバラに移動。

* * *

スコットランドの首都エジンバラを散策する。ヒストリカルな雰囲気のある街という言葉が思い浮かぶ。晴れると冷んやりした空気が気持ちいい。

ピザのチェーン店でビュッフェ(食べ放題)の昼食。イギリスは食費が高いので、自分にとってはファストフードもごちそうだ。 久々にお腹いっぱいになり、歩く気力がなくなった。ネット屋で時間をつぶす。

英語で日記をつけるという密かな試みを実行していたけど、ここにきて続かなくなる。やはり言語と言うものは、一朝一夕に学ぶものではなく、徐々に習得していくものだ。人間は人の顔を覚えるとき、写真のように正確に記憶するのではなく、わざとあいまいに記憶するらしい。だから少々髪形が変わっても、後ろ姿だけを見ても、その人だとわかるようになるのだ。

何かの本にそう書いてあった。言葉もこれと同じで、ゆるやかに覚えていくべきなのである。と、自分なりの言い訳を考えるが、言い訳になってないような気もする。

スコットランドの北のほうも回ろうかと思っていたけど、日程的に厳しいのでグラスゴーに戻ることにする。

* * *

泊まっている宿は朝食つき。できるだけエネルギーを蓄えようと、トーストを4枚食べた。

グラスゴーは音楽どころ。ギターポップの聖地とも呼ばれ、グラスゴーという地名だけで、なんとなくいい感じの響きがある。とくに見所もないよ、と前に出会った日本人が言っていたけど、ここに来ることに自体に価値があるような気がしていた。

モノレールミュージックというレコード屋に行ってみる。「お店が選ぶ今年のベストアルバム」の中から1枚CDを買った。

街を歩いていると女の子に話しかけられた。と思ったら、宗教の勧誘だった。昼食はバナナと水。

午後、イングランド中部の街、ヨークへ移動。列車に乗ったら、きれいな車両で快適だった。電源もあってパソコンの充電もできた。ただひとつ、座席が後ろ向きのまま進むのだけは何とかして欲しい。日本みたいに進行方向に応じて、バッタンと座席の向きを変えることができないのだ。

イギリスの電車は高いと聞いていたけど、ネットで購入するとバスより安かった。がんばって検索した甲斐があった。得した得した。

と喜んでいると、降りた後、列車の中にマフラーを置き忘れたことに気づく。お気に入りだったのに。

夕食は、サブウェイ。細かく注文しないといけないのが面倒だ。

* * *

ヨークも歴史がしっかり残っている街。城壁に囲まれていて、中世にタイムスリップしたような雰囲気、という言葉が浮かぶ。実際に、昔から街並みはほとんど変わってないように見え、よくぞここまで景観を保ってきたなあと感心した。ヨークを訪れたのは、スウェーデンで知り合った英国人が勧めてくれたからだけど、たしかにいい所だ。

タロット占いの露店があったので、占ってもらった。結果は全体的に何かよろしくない感じ。Loveは争っても勝てるらしいが、仕事は退屈、来年の中ごろにお金のトラブルが起こるそうだ。まあ実際、旅が終わるとお金も仕事もないわけで、その点で当たっているのかもしれないけど、改めて言われると、ちょっと落ち込む。

これまで占いを信じたことはないし、今年引いたおみくじが何だったかも忘れてるけど、でも、面と向かって言われると、何か心に残るものがある。

列車で、ヨークからマンチェスターへ移動。

マンチェスタームーブメントという音楽の盛り上がりが70年代から80年代にあった。その中心的存在だったクラブ「ハシエンダ」があった場所に行ってみると、今はハシエンダアパートメントという集合住宅になっていた。

そういうことに興味があるかと見せかけて、1人でクラブに行く勇気もないので、ぶらぶら歩いて土地の雰囲気を感じるという安上がりな観光スタイルをとる。

出店で豚肉のハンバーガーみたいなものを食べた。値段のわりに味は今ひとつな感じ。よくイギリスの料理はまずいと言われるけど、「値段のわりにまずい」が正しいんじゃないだろうか。

* * *

朝、マンチェスターの街を散策。雰囲気の良さそうなローカルのレコードショップを見つけたので入ってみる。ここでも店の本年度ベストアルバムを1枚買った。レコードショップには、坊主頭に黒メガネの人が必ずいるような気がする。

マンチェスターからバスでリバプールに移動。ビートルズの出身地だ。

ビートルズツアーというのに参加してみる。その名もマジカルミステリーツアー。これが良かった。潜水艦のようなデザインのバスに乗って、ちょっと音の割れたスピーカーから流れるビートルズの曲を聞きながらリバプールの街を走ると、それだけでロードムービーの中にいるような気分になった。

メンバーの生家、ペニーレイン、ストロベリーフィールズなどを見る。

* * *

リバプールからロンドンを経由して、南の海沿いの街ブライトンに移動。「メガバス」という格安バスを使う。ネットで予約すると、最安1ポンドから、という格安価格でチケットが購入できる。いわゆる価格破壊である。安くなるのは歓迎だけど、なんとなく末恐ろしい気がする。バスに乗る場所がバンガローヒルで、ビートルズはこのへんの地名を曲に入れまくってるなと思う。

公共の場所にある時計は、時刻が狂っているものが多い。意外とそういうところに無頓着なイギリスである。

バスは高速道路を走るだけなので退屈。数独をして過ごす。

ブライトンはとても寒い。南に来たはずなのに寒くなった気がする。

* * *

イギリスは雨ばっかりだと聞いていたけど、今日もいい天気。

海沿いにあるブライトンは風光明媚な街で、高級ホテルも立ち並ぶ。一方、裏通りには若者向けの店も多く、雑多な感じもある。観光地だけど、ちゃんと街として機能している雰囲気がいいなと思った。

また、ブライトンは映画「さらば青春の光」の舞台にもなった場所だ。でも、それ以上のことはとくに知らない。

昼食はインドカレー。ハッピーアワーとして15時から17時は安く食べられる。街で女性のシンガーが弾き語りをしていて、けっこういいなあと思ったけど、地元の人は誰も聞いていない。

翌朝3時に起きなければいけないのに夜眠れない。同室の人を起こさないためにパッキングも済ませてあるし、共用スペースで紅茶を飲んで過ごす。泊まっているのは仕事で来ている人が多い。冬の休暇シーズンだけのバイトのような感じかもしれない。

マンチェスターの宿でも、同部屋の人のほとんどは、ポーランドから仕事で来ているという人だった。たいてい夜の仕事をしているらしく、昼間に眠り、夜出勤という生活をしていた。

共用スペースで男女がいちゃいちゃし始めたので、宿を出て空港に向かう。

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