不満はチャンス

 人がうつ病になる前に最も見られる出来事のひとつが、夫婦間の不和だという。『対人関係療法で改善する夫婦・パートナー関係』(水島広子著)を読んだら、そう書いてあった。

 この事実からも、心の健康には家族との関係が重要だとわかる。つまり、家族の関係がよければ、多少の社会の荒波は乗り越えられるということ。対人関係療法とは、そういった近しい他者=「重要な他者」にスポットを当てる心理療法だ。

 配偶者やパートナーとの関係は身近なテーマだ。どんな人でもケンカのひとつは経験したことがあると思う。自分の身にも、この本に書いてあった典型的なケンカのパターンに覚えがあった。「そもそも君はいつも……」「だいたいあなたは前にも……」という物言いだ。

 以前、その「いつも……だ」という言葉に反応して、つい怒ってしまったことがあった。この本によると、「いつも……」は個別の行動を指摘しているようで、人格を決めつけているのと同じだという。その決めつけに対して、反射的に反応してしまったのだろう。

 でも、それを怒りで表現してはいけない。「怒りが持つ暴力性を忘れてはいけない」と著者はいう。自分の感情をないことにするのはよくないが、それを怒りとしてぶつけてしまうと、攻撃に対する反撃となり、争いが激しくなってしまう。怒りではなく、状況を共に改善する方向に持っていかなければならない。

 では、実際にどのように伝えればいいのだろう?

 それは客観的な事実のように語るのではなく、私を主語にすること。「私はこういうふうに言われると不安になる」などと自分の状態を伝えることで、状況を改善する方向にコミュニケーションが変化するという。「不満」から「期待」に変わると話は前に進む、という言葉にはなるほどなあと思った。

 水島さんは、夫婦・パートナー関係の治療として、相談者の話を聞くのは大好きだと書いてあった。コミュニケーションを重ねると、改善に向かうことが多いからだという。コミュニケーションは改善される、不満は期待に変わり得る、そんなことを教えてくれる本だった。不満を発見したら、それはある意味チャンスなのかもしれない。

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