011 そっちのカーディガンじゃなくて(ストックホルム)

夜行のフェリーでストックホルムに到着した。

フェリーで隣に寝ていた学生だというナイジェリア人が、船で財布をすられて失くしてしまったという。

「目的地まで行く交通費がない。10ユーロを貸してくれないか」

おお、なんと不運なやつよ。貸してやるとも。

と言いたいところだけど、本当だろうか。昨日寝ているとき彼の足がくさかったが、この話も嘘くさいのではないだろうか。貸すといっても返してもらう方法もわからない。

しかし問題は、財布をすられたのが事実かどうかではない。彼が問いかけているのは、今ここで金をくれるのかくれないのかということだ。デタラメ言うなと突っぱねてお金を渡さない場合の後味の悪さと、旅の序盤でまだ財布に余裕がある状況から失われる10ユーロ。この2つのどちらを取るかを決めて、答えを出さなければならない。

彼に10ユーロ札を渡し、グッドラックと言って別れる。

* * *

ストックホルムは、ヘルシンキに比べて大きな街だ。都会のにおいがする。

街の中心の宿は空いてなかったので、少し離れたところにある宿まで行く。荷物が重い。物価の高い国で行き当たりばったりで宿探しするのは、なかなかつらい仕事だ。

ホテルのようにきれいなユースホステルに荷を降ろして、昼飯を食べようと通りを歩いていると、ランチビュッフェを発見。中華料理食べ放題。朝から何も食べてなかったし、1日分の栄養を取ろうと一心不乱に食べる。味もおいしく、食が進む……

食べ過ぎた。席から動けない。食べすぎで動けないなんて、マンガの世界の話かと思っていたけど、ほんとに席から立つこともできなくなってしまった。

苦しくなり、気分が悪くなる。調子に乗って食べ過ぎたことを後悔するが、腹に入ってしまったしまったものはどうしようもない。せっかくの栄養がもったいないので、吐くことは許されない。なんとか消化してくれるのを待つばかりだ。

20分くらい休んで、なんとか立って歩けるようになった。1人で食いすぎて、1人で苦しんで、いったいおれは何をしているのだ、と思う。

ストックホルムは北欧のイメージ通り、おしゃれな店が多い。街の中心を離れても、おしゃれな雑貨屋さんがいろいろある。色使いがポップで見ていて楽しい。

* * *

ストックホルムの街には「スシバー」がたくさんある。健康志向で寿司が流行っているのだそうだ。サラダバーのような店もある。それらはハンバーガーショップの数よりより断然多い。

「スウェーデンはマクドナルドの店舗が初めてつぶれた国なんだ」

とロシアで会ったスウェーデン人が言っていた。

現代美術館に行った後、昼食にスシバーに入ってみる。北欧だからかサーモンがおいしい。お米も違和感なく食べられて悪くなかった。

デパートで「カーティガンズ」の無料インストアライブがあるという情報を入手した。スウェーデン出身のカーティガンズは世界的に有名だし、聴けばわかる曲もあるはずだ。どこでやっているのかわからないので、デパートのインフォメーションで訊ねる。

「カーディガンズのイベントはどこですか?」

「4階よ」

4階に行ったら、衣料品売り場だった。いや、そっちのカーディガンじゃなくて……。

夜は、街の中心にある文化センターでやっているイベントを見に行く。音楽、ダンス、ファッションショー、その他、学校の文化祭のような行事がいろいろあり、おもしろい。すべて無料で来場者も多かった。たぶん市か国かが主催しているのだろうけど、その他の娯楽が多い日本では、こんな賑わいはみせないだろうと思う。

ところで日本にいるときは「おしゃれ」はどこか気恥ずかしく、「おしゃれすぎないおしゃれが一番おしゃれ」みたいな感覚があったけど、北欧の国に来るとそれがなくなる感じがする。とくにファッションに興味がなかった自分も、もっとおしゃれしないと、とか思ってしまう。同じだったら、おしゃれな方がいいだろう。

* * *

穏やかだった昨日までとは違い、風が強く、冷え込む。今の時期のストックホルムではこのくらいの寒さが普通で、昨日までが特別に暖かかったらしい。

フリーマーケットに行ったり旧市街を歩いたりするが、少し歩いてはどこかの店に入って、小刻みに暖を取りながらでないと歩き続けられない。

外食は高いので、夕食はスーパーで買って食べる。ちょっと疲れがたまっている。風邪も治らない。

明日の飛行機でデンマークへ向かう。 アイスランドでの音楽フェスティバルに間に合わすために、急に駆け足の旅になっている。でも面倒くさがりの自分にとっては、移動する理由があるのはいいことだ。

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