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06島んちゅな一日
3月14日(木)晴れのち曇り
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4時半くらいにアナウンスがかかり、電気もついてるため自然に目も覚めた。周りの乗客も奄美・名瀬港で降りるのか、バタバタとしている。
まだ外は真っ暗だが、かすかに島の明かりがぼんやりと窓の外に見える。とりあえず着替えて荷物をまとめて船の外に出る。南国かと思って舐めていたが、日の出前は流石に寒く、体が震える。
島についてからは、「島人マート」というご当地コンビニに行こうと企てておいたこと以外は、相変わらず何もすることを決めていない(というか事前にバスの路線図と睨めっこしても何もわからなかった)ので、ターミナルの階段を降りて真っ暗な街へ繰り出す。
階段を降りて、ふと後ろを振り返ると「せとうち海の駅」行きのバスが暗闇の中で停車している。それを見た瞬間、引き寄せられるように体が勝手にバスへと向かう。そして運転手に「1日乗車券下さい」と駆け寄った。今日はこの魔法の切符で島内のバスを乗り倒すことにしよう。
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港のある名瀬から瀬戸内と言われる地域は、島の反対側でバスで1時間かかる。思っていたよりこの島はデカそうだ。走り始めてすぐの間は街中を走っていた感があったが、少しすると山の中を走るようになる。暗くて全貌が掴めないが、おそらくマングローブと言われるやつだろう。
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空が明るくなり始めると、その光を反射して同時に明るくなる海面が、意外と海の近くを走っていることを知らせてくれる。ただ、坂も多い島内は、海が見えたと思ったらトンネルに入ったりと、なかなか険しい交通事情であることが偲ばれる。まだ朝早い時間なのに、「こんなところで降りて何するの?」という山の中のバス停で降りていったおばさんがいた。まもなくして瀬戸内に着いた。
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この瀬戸内からは加計呂麻島などの離島へとフェリーが出る。まだ朝の6時過ぎだが、海上タクシーを待つ人々や動き出す船も数隻あり、まだ眠っている町の港だけが目を覚まし、忙しく動き始めた感じだった。ところで僕はやはり特にすることがないので適当に街を歩く。
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橋の上で歩きスマホしていると、視界の端に野良猫がよぎる。あと少しで猫ふんじゃった、するところだった。堂々と歩いているからずいぶんと野太いなあ、と思って見ていると後ろ姿の佇まいから「ついて来い」と言われている気がしたので、ついて行くことにした。
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たまに立ち止まって落ち葉を掻き分けているが、何をするのだろうと見ていると糞をし出した。元気な朝である。街中を10分くらい徘徊して、ふと立ち止まった猫の目の前で、弁当屋が営業している。まだ7時前だというのに。
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朝ごはんをどうしようか迷っていたのでちょうどよい。入ってみると恐ろしいほどに揚げ物しか入っていない弁当しかなかったが、しょうがなく買って港のベンチで食べる。猫に導かれた弁当屋で朝ごはんを買う。いい朝だ。
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もぐもぐしていると、太陽が山並みから顔を出し始めた。徐々に明るくなる街並みと、光を反射した港の海がきらきら輝き始める。思わず深呼吸をした。今この瞬間にしか摂取できない島の空気が、ここにはある。なんて美しい朝なんだろう、と見惚れながら弁当を食べ終え、再びバスに乗り込む。もう一度名瀬に戻って次の街へ向かおう。
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1時間バスに揺られ、気づいたら眠りに落ち、ふと目覚めて窓の外を見ると、さすがに無視できないとんでもない構造物を目にする。
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うおお、これは凄まじい。これがないと不便だから絶対に作ってやるぞという覚悟を感じる造形だ。豊かな自然の中の厳つい人工物に元気をもらいつつ、ここからは市街地までは、川に沿って美しい風景の中をのんびり散歩する。
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川の水、太陽の光、揺れる木々。ここは天国か何かかなと勘違いしながら市街地へ到着。目に入ったバス停の時刻表を見ると1分後に目的の方面へとバスが出るではないか。意外とこのしまバスの運行頻度はバカにできない。次に向かったのは、朝仁と呼ばれる地域だ。砂浜と生垣があるらしい。
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バスが着いたのは団地の中の公園のような場所で、どこにでもありそうな集合住宅のような建物が連なる景色だった。同じ奄美の島の中でもいろいろあるもんだなあと、団地の壁に描かれた謎の壁画を見ながら海へと歩く。
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海を分母に空を分子にしたら1を超えるだろうか。という書き出しの小説を読んだことがあるのだが、雲のうっすらとかかる青空は水平線との境が曖昧で、まさにそんな文章が頭の中で自然生成されるような海岸だった。
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海沿いを犬を連れて散歩するおじさん、野良猫の隣で忙しなく生垣の手入れに勤しむおばさん、などなどいわゆる島時間が流れている。本当にこの島はどこをとっても豊かである。
バスに乗って今度はこれまた島の東の果てにある奄美空港まで行く。朝訪れた瀬戸内が西の果てなので、おそらくこれだけの移動ですでに1日乗車券のもとを回収したと思われる。
奄美空港までも1時間以上かかるので、気づいたら夢の中だったが、市街地を抜けるとバスの中の乗客も僕を含め3人くらいになる。朝のバス同様、たまに「ここで降りて何するん?」みたいなバス停で少年が降りていくが、こんなところに住んでいる人もいるのだろうと想像を巡らせる。
腹が減ったので空港で何か食べようと思いたち、次のバスまでに食べるとこを探すも、まさかのチェーンのファミレス「ジョイフル」しかなく、関東ではあまり見ないからよしとしたが、残念に思いながら唐揚げ定食を食べる。
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空港のお土産コーナーにサーダーアンダギーが売られていた。また、先ほどからバスに乗りながら、さんぴん茶やシークワァーサージュースを売る沖縄で見かけるuccの自販機も見るので、ここは四捨五入して沖縄なのだと思う。そんなことを考えながら、空港の近くにある"あやまる岬"へバスで行く。
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バスといってもほぼタクシーみたいなサイズのバスで、もはや乗客が降りたいところを運転手に告げるデマンドタクシー的な使い方をしている小学生しか乗せていない。奄美でしか聞けないと思われるご当地ラジオ番組を垂れ流す島民の足である。
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あやまる岬は、島のほぼ最東端に位置し、「奄美といえば」の観光地で最初から3番目以内には出てくるような場所だ。ツアー客を乗せた観光バスも2台ほど来ており、集合時間になっても集まらないツアー客をガイドさんが大声で呼び出していた。
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まあ空が広いこと。浅瀬にゴツゴツとした珊瑚が広がり、果てまで続く水平線には喜界島の影がうっすらと視認できる。この景色をゆったり眺めてるのも良いが、歩いてすぐのところにある歴史民族博物館を訪れてみようと思う。
パッと見、完全に廃墟で、外から中の電気がついているのがかろうじて確認できるくらいの建物のドアを恐る恐る開けると、奥の方からのそりのそりとおばあさんが出てきた。入場料100円を渡し、展示を見る。
なるほどなるほど、文化圏的に本土とも琉球とも干渉し合う複雑な場所に立地してるんだなあ、ということを1から理解させてやろうと民俗学の視点からも、地質学の視点からも詳しい展示がなされていた。琉球から持ち込まれたという象牙で作られたサイコロは、表裏の数を足し合わせても7にならなかった。不思議なもんだ。
ゆっくり堪能して、バスに戻る。行きと同じおじさんが運転手のバスが来た。「空港?」と聞かれ「あい」とこたえると「ん」と黙ってハンドルを握ってくれる。相変わらず島内に関するクイズについてのラジオがずっと流れている。
空港に戻ると、接続が良好な名瀬方面のバスに乗り換え、赤木名という集落で降りる。観光ガイドブックなどに何も頼らず、地図だけを見て行き先を決めているため、事前情報が恐ろしく欠如している。
さっきから意外と気になるのが、戦争の痕跡である。薩摩統治時代などの代官の屋敷の案内と並んで、防空壕や弾薬庫などの説明も豊富な案内図を見る。奄美というのはそういう場所なのだと、自分を無理矢理納得させる。
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到着した集落でも特にすることがなく、先ほど空港で買ったサーターアンダギーを海岸沿いのベンチで食べ、次のバスの時間まで1時間ほど本を読み、小雨の中、街の中を歩いた。帰宅途中の高校生とすれ違うと、大きな声であいさつをされて静かな街に声が響く。地元の小学生は横断歩道を渡るときに、しっかり手を挙げて、渡り終わった後に待ってくれた車にお辞儀をしていた。
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この風景にエキゾチックを感じてしまうのはなぜなんだろう。そもそも感じてもよいものなのか。今回の旅では一度も国境を越えていない。ただ、同じ島国を旅行しているだけでも、新鮮な風景に出会うことは、もしかしたら意外にも容易いのではないかということを実感させられる。
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バスに乗り、名瀬に戻り、フェリーターミナルで帰りのフェリーまでの時間を過ごす。18時くらいに戻ってきて、船が出るのは21時なので、意外とまだ時間がある。歩いてすぐのところにある港湾食堂でオムライスを食べた。なんだか元気が出た。
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フェリーに揺られ、すぐ眠りについた。今日の大広間は、いつもにもまして広く、家族や修学旅行と思われる人たちも同船だった。手持ちの電子機器のバッテリー不足が心配だが、そんなことは地球の呼吸を感じられる奄美を旅したあとなので大した心配事でもなく感じる。
明日は再び本州だ。今日は地に足の付かない、ふらふらとした気分だった。
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