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薔薇の角砂糖


雨が降っている。
もうすぐ夜中の1時。
子供達の寝息が聞こえている。
雨の音と寝息が暗闇の中でとても静かだ。

今日、お風呂上がりに髪を乾かしていたら白髪を見つけた。
はるみちゃんは、お母さんの白髪を抜くと1本で10円くれるんだ、と言った。
小学2年生の時、当時はひろこちゃんとかゆきこちゃんとかが名前の主流だった時代にその女の子ははるみちゃんといって、妹もたまこちゃんで、すごく洒落てて良いなあと思っていた。
はるみちゃんはとても清楚な優しい女の子で、お母さんも綺麗で上品で、子猿のように活発だった私に対して嫌な顔ひとつせずいつもにこにこお家に迎え入れてくれた。
はるみちゃんの家ではもっぱらバービー人形で遊んだが、持っている人形やドレスが自分の家とは比べものにならないくらい豊富だし、同じバービー人形なのにうちのよりも全然可愛い感じがした。
はるみちゃんのお母さんは人形の髪をキリッと三つ編みに編んでくれた。小さな小さな三つ編み。
見たことがないくらい細かく綺麗に。
そういえばはるみちゃんもいつも綺麗に髪を結ってもらっていた。
3時のおやつにはクッキーが出て、いつもソーサー付きの素敵なティーカップに暖かい紅茶を淹れてくれた。そしてソーサーの上に置かれたスプーンには小さいピンクの薔薇の花があしらわれた可愛い白い角砂糖が乗っていた。私はそれが大好きで大好きで、見るといつも胸がきゅっとした。角砂糖は紅茶の中でゆっくりと溶けていき、とても甘く美味しくなる。うちには無い薔薇のあしらわれた角砂糖、うちには無い穏やかな時間。はるみちゃんもお母さんも優しいしきれいだし、本当にお姫様の家のようだと思っていた。
その日もいつもと同じように私ははるみちゃんの家のソファに座って小さな薔薇の装飾が施された角砂糖を見て胸をきゅっとさせながら、はるみちゃんとお母さんと妹のたまこちゃんと3時のおやつを食べて、甘い紅茶を飲みながら、みんなでテレビを見ていた。テレビにはロケットが映っていた。手を振る外国の男女の宇宙飛行士たち。私は、女性でもあんなふうに宇宙飛行士になれるのだなあと思った。
やがてカウントダウンがされて、たくさんの煙を吐きながらロケットが地上を離れ空に飛んで行った。はるなちゃんのお母さんがわあっと声を出した。打ち上げられたばかりのロケットが爆発したのだ。青かった空は白い煙に覆われた。そのコントラストばかりが鮮やかにわたしの目に焼き付いた。
わたしはまだ子どもで、色々なことはよく分からなかった。そのあともはるみちゃんと普通に遊び、またねと手を振って家に帰った。ただ、笑顔で手を振っていたあの女性の宇宙飛行士はもういないのだと思うと、なんだか胸が苦しいような怖いような気持ちがして、なんだか色んなことがよく分からなかった。

はるみちゃんとたまこちゃんは可愛かった。わたしの子どもたちが居間でテレビを見ている声が聞こえる。薔薇のあしらわれた角砂糖には小さな緑の葉っぱもついていた。角砂糖が紅茶にゆっくりと溶けていく様子をじっと見るのが好きだった。みんなどこに行ってしまったのだろう?子どもたちがわたしを呼んでいる。なんだかよく分からなくても大丈夫、子どもたちが待っている。わたしは居間に戻る。










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