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父の葬儀でモヤモヤしたはなし

昨年末、父が他界した。

77歳だった。医師によれば死因は「老衰」との診断であった。

父は6年ほど前から認知症を患っていた。徘徊したり暴力を振るうようなことこそなかったが、認知機能や身体機能は年々低下していた。要介護レベル認定も1から5まで毎年上がり昨年からは介護施設に入っていた。ここ数か月で身体機能が著しく低下し、自力で食事を摂ることが難しくなったのだ。

私は普段は関東に住んでおり、年末の仕事納めをしてから郷里(静岡)に帰省し、正月を実家で過ごしてから関東に戻るのがお決まりのパターンであったが、今回は父のことがあったので予定を1日早めて帰省した。そのおかげで父と最期の別れをすることができたのは何よりの救いであった。もし帰省があと1日遅かったら、きっと間に合わなかっただろう。

いまどき「77歳で老衰死」は早いという見方もあるかもしれないが、癌や脳卒中などの大病を患うことなく、最期まで苦しまずに逝けたのだからこれも天命であったのだろうと思うようにしている。

そんなことがあったので、今回の帰省は慌ただしいものとなった。以下、時系列で整理する。

2023/12/28(木) ・・・ 父他界。すぐに葬儀屋に連絡し、同日の夕方に介護施設から自宅まで遺体を運び、枕経をあげる簡易な仏壇を設置してもらう。

2023/12/29(金)・・・枕経をあげてもらい、葬儀屋およびお寺の住職と今後の段取りについて打合せをする(※曹洞宗)。その結果、通夜は1月3日の夕方、葬儀は1月4日の昼となった。

2023/12/30(土)・・・葬儀のプランについて葬儀屋と引き続き打合せ。

2023/12/31(日)・・・葬儀屋に依頼した遺体の防腐処理(エンバーミング)を施すため、遺体を運び出す。処理をした後の遺体は葬儀場で保管してもらうこととした。

2024/01/03(水)・・・納棺、通夜

2024/01/04(木)・・・葬儀(告別式、初七日)、出棺、火葬

今回、諸々を取り仕切ったのは地元の葬儀屋である。介護施設で息を引き取った後、その日のうちに父が自宅に帰るための準備を速やかに手配し、年末年始という大変な時期にもかかわらず、(おそらく)最短で通夜と葬儀、火葬の手配までしてくれたのは感謝するほかない。

一方で、今回の葬儀屋のやり方、とりわけ葬儀プランの考え方にはモヤモヤとさせられることが多かった。

※なお、武士の情けで葬儀屋の会社名は伏せておきます。具体的な葬儀プランの名前や金額も生々しいので、若干ぼかしております笑

前提条件

父の葬儀プランを組むにあたって、喪主である母と相談しながら以下の条件を前提とした。

  1. 葬儀は「家族葬」とし、通夜の参列者は20人未満である。
    ※父は自営業者(造園業)であり、会社など組織に所属していなかったので仕事上の繋がりは非常に少ない。父の親や兄弟も殆ど他界しており、僅かな血縁者も遠方のため参加は難しい。

  2. 父は生前、近所の寺(曹洞宗)で墓を買ってあり、仏式の葬儀とする。
    ※戒名料は葬儀費用とは別に発生する。

  3. 父も母も驕奢を嫌い、葬儀はシンプルかつ簡素なもので十分である。
    ※父も母も年金生活者であり、あまりお金のかかる葬儀はできないという事情もある。

  4. 近所の人たち(土人衆)による支援は受けない
    ※昔は人が亡くなると、その家の近所の人(=土人衆)が葬儀にかかるアレコレを支援する慣習があったが、今はそういうのはめっきりなくなった。

  5. 葬儀費用は、10年以上前から葬儀会社に積み立ててきた積立金で賄う。
    ※この葬儀会社には「互助会」といって冠婚葬祭に掛かる費用を長期間かけてコツコツ積み立てる制度がある。両親は10年以上前から当業者の互助会に加入しており、すでに満額(MAX)まで積み立っている。その積立金総額は約80万円だ。母は今回の葬儀はこの積立金を使って葬儀費用を賄う想定であった。

今回の最大のモヤモヤポイントは5.の「互助会」の積立金だ。

葬儀屋からの提案

上記の前提条件を伝えた結果、葬儀屋から提示されたプランが以下だ。

葬儀基本コース:竹プラン (80万円)
※松プラン(100万円)、竹プラン(80万円)、梅プラン(60万円)
その他オプション諸々:80万円
その他サービス料:8万円 (※葬儀基本コースの10%)

「互助会」の積立金80万円を使って「葬儀基本コース:竹プラン」の費用を支払い、その他オプション諸々とサービス料は別途で支払う。

母によれば、そもそも「互助会」で長期間の積み立てをしてきたのは「満額まで積み立てればこれで葬儀ができる」という説明を受けていたからだ。それなのに、いざ葬儀をしようと思ったらプラスで80万円のオプション費用が掛かるとはいったいどういうことなのか?

そして「その他サービス料」と何か?いったい何に対する対価なのか?一律で基本コース料の10%が上乗せされるのはマジで意味が分からない。

上記の問いに対する葬儀屋からの回答は以下の通りであった。

「オプション」はあくまで「オプション」です。お客様が不要だと思えばお好きなように外してもらって構いません。あくまで「より良い葬儀」を行うために、私どもがオススメしているものです。

葬儀を執り行うにあたっては、私どものスタッフが多く関与することになります。「その他サービス料」はそれらのスタッフに対する人件費だと思ってください。

ちなみに互助会の積立金はオプションにはご利用いただけませんので。

オプションの中身

オプションの具体的な中身を見てみる。オプションにはじつに色んな項目(20項目以上)が載っていたが、金額の大きなものでは以下の項目があった。

  • 棺の中に入れるお布団代・・・30,000円

  • 故人の旅立ちセット・・・60,000円

  • 葬儀場の音響設備利用料・・・35,000円

  • 葬儀場の親族控室利用料・・・80,000円

  • 葬儀場の駐車場誘導員人件費・・・15,000円/日 x 2人

もう「正気か?」としか思えないような内容ばかりである。

棺の中に入れるお布団代

故人を収める棺の中にはフカフカの布団が敷かれるわけだが、それが「オプション」扱いってことは、え?何?このオプションを我々が「要らない」って言ったら、木製の棺の上に遺体をダイレクトに置くのか?

母が「じゃあ自宅から布団を持ち込めば費用はかからないか?」と聞いたら「普通の布団のサイズだと棺に収まらないので、布団をカットしないとダメですね~」とのこと。

お前は布団をカットしたことあるんかと。

故人の旅立ちセット

故人の旅立ちセット」っていうのは、いわゆる死出の装束だ。白い布でできた手甲をつけたり、脚絆や足袋を履かせたり、三途の川の渡し賃である「六文銭」を持たせたり。ちなみに「六文銭」は火葬されたときに燃え残らないように、以下のようにロウでできたものを使う。

六文銭

まぁ、これは好みの問題なので「別になくてもいい!」っていう人もいるのかもしれないけど、あの世に旅立つときの格好くらいちゃんとしてあげたいって思うのが遺族のまごころじゃないだろうか。こういうのに原価を考えるのは野暮だが、あまりにボッタクリではないか。

葬儀場の音響設備利用料

葬儀を執り行う会場は「家族葬」専用の小規模斎場として最近建てられたことは知っていた。昭和に建てられたボロい建物ならともかく、最近の建物で音響設備が別途要るってどういうこと?結婚式の催し物じゃあるまいし、葬儀で使う音響設備なんてたかが知れているのに、その利用料っていったい何なの?意味不明。

葬儀場の親族控室利用料

葬儀場では、一般の参列者が出入りするメイン会場とは別に親族の控室がある。親族は通夜や葬儀の式が始まる前に会場入りし、参列者の応対や香典の管理、納棺への立ち合いなどやることが多く、荷物を置いたり食事をとったりする専用のスペースが必要なためだ。それがオプションってどういうこと?このオプションを「要らない」って言ったら、我々親族はずっと廊下とかトイレのあたりにたむろっていなくてはならないのか?

葬儀場の駐車場誘導員人件費

いやいや「その他サービス料」と内容が被っとるからね!!

こんな感じで、母は互助会の積立金で葬儀が賄えると思っていたのに、フタを開けてみたらオプションを使わないとまともな葬儀が成立しないことがわかった。

そうなると、いよいよ問われるのが「互助会の積立金」の存在意義だ。

互助会の積立金

まず互助会の仕組みについて簡単に紹介する。

互助会の仕組み

互助会とは、冠婚葬祭にまつわる諸々の人生のイベントに掛かる費用を前もって少しずつ積み立てておき、いざという時にそれを使うというサービスだ。母の場合は【5年】でMAX(満期)に達する積立コースを2~3口持っていたと思う。毎月の積立額は数千円程度だが、チリも積もればでコツコツ積み立てていたのだ。

この互助会だが、よくよく考えてみると大きな3つの問題がある。

  1. 原資が増えない
    「5年~10年」という長期に渡って現金を預けているにも関わらず、その原資はまったく増えないこと。実際に使える金額は積み立てた金額100%そのままだ。ふつうに銀行に預金していれば、ごく僅かだが利子がつく。最近は「つみたてNISA」のような制度もあり、原資が全く増えない互助会で積み立てるくらいならそのお金を運用させた方がよほど将来の備えになるともいえる。

  2. 使いみちに制約がある
    この積立金だが、なぜか使い道に制限がある。今回の例でいうと「葬儀基本コース」にしか積立金は使えないというのだ。業者としては契約時に事前に伝えてあったと主張するであろうが、実際に葬儀を行う立場にならずに、葬儀基本コースに含まれていないもの、別途発生するオプションの詳細について想像できる人がいるだろうか?

    今回も母は基本コースを竹(80万円)から梅(60万円)に落とし、差額の20万円をオプション費用に充てられないか打診したが「それはルール上できない」と言われてしまった。なんじゃそりゃ。

  3. 健全な競争が働かない
    これが互助会の最大の問題だ。結婚式の費用もそうだが、冠婚葬祭や引っ越しなどの料金には明確な「相場」というものが存在しない。悪い言い方をすれば「業者の言い値」で決まってしまうところがある。だからこそ、相見積もり(複数の業者に同じ内容で見積もりを取る)が重要となる。結婚式や引っ越しとは違い、葬儀は発注までの時間的猶予が短いため相見積もり自体が難しいが、それでも葬儀をする兆候が見えて時点で事前に複数業者に費用の規模感や考え方を聞いて検討することはできる。しかし互助会の場合、一度これに加入してしまったが最後、もうその業者で葬儀をやるほかない。互助会で積み立てた金額は基本的に解約できないからだ。そうなると、相見積もりによる業者同士の競争原理が全く働かず、文字通り「業者の言い値」にならざるを得ない。

さいごに

で、今回は結局どうしたのかというと、当然戦った。

互助会を通じて10年以上、少なくない掛け金を預けてきた顧客に対するサービスとしてこの提案はいかがなものか?不誠実ではないか?と。

その結果、オプションのいくつかは無料となり、謎だった「その他サービス料」についても実質的に削ることができた。今思えば、値引きをする前提の提案だったとは思うが。

しかし、互助会の積立金だけで葬儀費用を賄うという当初の想定からは大幅に離れた費用が発生し、母は「この互助会っていう制度、やっぱおかしいよね!」と憤慨しており、後日顧客アンケートが来たらクレームを入れてやるつもりとのことだ。

一方で、互助会に入っていたからこそ、速やかに葬儀や火葬の手配ができたと考えることもできる。もし互助会に入っておらず新規の顧客だった場合、年末年始の時期に葬儀と火葬までをあそこまで迅速に手配してもらえたのだろうか、と考えると一概に互助会が悪とは言えないかもしれない。

この互助会制度、昔はあちこちで営業・勧誘されていたようであり、現在70歳以上のシニア世代であれば何らかの形で加入している人も多いのではないか。人が亡くなるというイベントは誰にも必ず起きるものだからこそ「備えが大事ですよね」と謳われるとつい「入っておいた方がいいかな」と思ってしまうのも無理はない。年老いた両親が互助会に入っているor入ろうとしている場合は「こういう負の側面もある」ということを理解して入ってもらった方がよい。

おしまい。

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