大事な人が困ってる:竜とそばかすの姫
『竜とそばかすの姫』を見終わった映画館のロビーで、忘れないようにと頭の中で覚えた短いセリフを、スマホのメモに打ち込んだ。
《 大事な人が、困ってる 》
《 その人に、優しくしてあげなさい 》
打ち込んだスマホの画面を見てまた泣きそうになった。
◇
昨日7月22日、私のいる世界が反転した。
オリンピック前日のことだった。
◇
優れたクリエイターの作品は未来を先取りするというけれど、この映画は昨日の出来事を知ってたかのような内容に思えた。いや、違うことはもちろん分かってる。関連付けてはいけない。違うところはたくさんあるのだから。
でも私は泣いた。きっと昨日より前の世界でこの映画を見たなら、ここまで泣くことはなかっただろう。私は反転した世界に泣かされたのだ。
◇
誰かを想って泣いたことさえ言うことを憚られる世の中だ。私たちの社会は悪手を打ってしまった。それは昨日ではなく、もう少し前。自粛警察なんて言葉が聞かれるようになった、あのころに遡ればやり直せるのだろうか?
正義の名のもとに誰かの言動や行為が暴かれること。事実である限り、言い訳できない過去であることは間違いない。暴かれた人は犯した罪の深さによって、法律的な裁きもなく、社会的な制裁を受ける。あたかも当然のように。まるで見えないレールが敷いてあるかのようだ。
その是非を問うことはしない。個々のケースに言及すれば、その深い淵を覗くことになるから。ただ私は思うのだ。誰かがそのレールに乗せたという事実を。そこに私は違和感を感じる。それは間違った感覚なのだろうか?
◇
もちろん過去の言動や行為をしっかり調べることは絶対に必要。
でも「誰かが誰かを暴く」ことを肯定する社会の未来は明るいのだろうか?
◇
そんなことを思いながら『竜とそばかすの姫』を見た。
* * *
■『竜とそばかすの姫』主題歌「U」より
臍の緒がパチンと切られたその瞬間(トキ)
世界と逸れてしまったみたいだ
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残酷な運命が
抗えぬ宿命が
考える間もなく
押し寄せ砂嵐で
前が見えなくたって
君を信じてみたいの
恐れずに一歩踏み出したら
|
空飛ぶ鯨に飛び乗って
さかしまな世界踊り尽くせ
◇
■『竜とそばかすの姫』パンフレット・細田守監督インタビューより
子どもにとってのネットは
それによって自由を得られるものであってほしい。
◇
■『竜とそばかすの姫』劇中歌「歌よ」より
毎朝起きて 探してる
あなたのいない未来は
想像したくはない 嫌なの
でももういない 正解がわからない
私以外 うまくいっているみたい
それでも 明日はくるのでしょう…歌よ導いて!
* * *
『竜とそばかすの姫』で印象的だったのは、乱暴で傲慢な竜のことを知りたいと行動を起こすベルと、竜の正体を暴きたい正義を名乗るジャスティスという自警団との対比。
竜の正体探しという点では同じはずなのに、どうしてこんなに違うのか?
あなたは誰?
繰り返すベルの問いに私も耳を傾けたい。そうありたいと思う。
* * *
ここに載せたのは、あくまでも私の想いを構成したものです。
まだ見てない方は先入観に囚われず見てください。
優れた映画はさまざまな解釈が可能です。この映画もそうです。
『竜とそばかすの姫』の多彩な魅力をぜひご自身で感じてみてください。
* * *
最後に
映画の仮想世界<U>はログインすると、こんな音声が迎えてくれます。
ようこそ<U>の世界へ
そして・・・
さあ、もうひとりのあなたを生きよう
さあ、新しい人生を始めよう
さあ、世界を変えよう
※コメントは不要です
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