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子供を作らない人生

30代に入った頃だっただろうか、不妊に悩む若い女性ライターから、「子供ができない夫婦の苦しみ」みたいな本を書くので、子供を作らないと決めたたくきさんに取材をしたい、という申し入れがあって、会って話をしたことがある。
爺は10代の頃から、将来結婚はしても子供は作らないと決めていた。
その女性には、人口爆発や資源の枯渇、環境汚染が深刻化するのははっきりしているのに、これ以上人間が増えてどうするのか、というようなことも言った。
一人の人間として、子供が嫌いなわけではない。目の前にいれば自然とその子の将来を案じたり、幸せを願ったりする。
でも、その相手は「自分の子」である必要はない。すでにこの世に存在している子供がいっぱいいるではないか。

もっと本音を言えば、育てる自信がないのだ。自分のことで精一杯。責任が持てない。
一生自分のやりたいことに熱中して家庭を顧みなかったのに13人も子供を生ませた牧野富太郎など、とんでもない。そんな無責任な人生を送るひどい人間にはなりたくない。

結婚するかもしれない女性には、結婚する前にそのことを確認して、どうしても子供を作りたいというなら結婚はしないつもりだった。自分は子供を作ってはいけない人間なのだという確信があった。
かみさんにも結婚する前、その話をしたが、かみさんは「作らなくていいなら、私もそのほうが楽でいい」という返事だった。
二人とも子供、というよりも、「人間」に対して淡泊なところがある。

30代に入るあたりだっただろうか、週刊テレビライフで、老優4人にインタビューする仕事があった。
その中の一人、浜村純さんは「子供を作らなかったからこそできたことは、子供がいなければできなかったことよりはるかに多い」とおっしゃっていて、その言葉は今でも大切にしている。
当時は「自分の遺伝子を伝えたい」という生物としての原初的な欲求もあった。でも、「子供は作りたくない」という気持ちは変わらない。そうした葛藤が少しあったので、とても勇気づけられた。
今はそうした生物的な(?)欲求が完全に消えているし、子供を作らなかったことへの後悔も一切ない。
遺伝子なんて、所詮は「肉体構成情報」にすぎない。人生はもっと複雑な要素で作られていく。

爺の場合、自分の子供どころか、親戚というものが今ではほぼいないし、交流もない。
甥・姪は、異母妹・異母弟の子供たちが何人かいるはずだが、顔を合わせたことはない。その子たちもすでに親になっているはずだが、爺のことなど知らないだろう。
かみさんの妹夫婦に娘がひとりいるが、赤ん坊のときに見た次は義父の葬式のときで、すでに高校生だった。そのときも会話らしい会話はしていない。その次に会ったときは義母が亡くなる直前と葬式のときで、すでに就職していた。それから会ってない。もう30を超えたらしい。
まさに⇒この感じ

一方、血がまったくつながっていない「一人の子供」「一人の若者」とたまたま出会ったり、ほんの少しでも触れ合いがあれば、その子や若者には無償の応援をしたいという気持ちは常にある。
その子の親ではないから、行きすぎたことはできない。でも、さりげなく、できる限りのチャンスやヒントを与えたいとは思う。
近所のランニング少年に英語の勉強のヒントを教えたのも、ライチェル探検隊の二人にそれとなく音楽のレクチャーをしたのもその思いからだ。これは自然にそうしていた。

その都度、恩師・井津先生の「一人に向かって」という言葉を思い出していた。

でも、井津先生と出会った母校・聖光学院の大勢の後輩たちに、そうしたヒントやきっかけを与えるチャンスは得られないまま50年が過ぎた。
爺が中学2年生のとき(1969年)、当時大学生のアマチュアだったオフコースの生演奏を聴いて人生が変わったような場面を一度くらいは持ちたかった。KAMUNAが活動していた2000年から2015年くらいのどこかで、母校の立派な講堂で演奏したかったなあ。

上智大学では2011年にソフィアホールで演奏会をすることができた。でも、聴衆の大半は外からやってきた中高年で、上智の学生はほぼゼロだった。

↑「東大王クイズ甲子園」。我が母校の後輩たちは相変わらずキャラが立たず、中途半端だったが、テレビ的にはこの「異常に玉入れが下手」がおいしかったので、ちょっとだけ番組に貢献していた。いかにも聖光らしい。
まあ、すこしでもいい絵作りに貢献できてよかったね。
「こんなのクイズじゃない」なんて文句も言わず、ニコニコやっていたのも、いかにも聖光らしいというか、ああ、今の聖光の生徒たちは幸せそうだな~、と、改めて感じた。
彼らとは50年、半世紀も時代が隔たっているのか……。同じ物理世界に生きていても、認識世界の重なりはほとんどないのかもしれない。
もはや爺が何か関与できるような世界ではないのだろう。


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こんなご時世ですが、残りの人生、やれる限り何か意味のあることを残したいと思って執筆・創作活動を続けています。応援していただければこの上ない喜びです。