アジア陸上選手権-これも「世界」だ
今年は8月に世界陸上が、9月にアジア大会があるが、実はその前に「アジア陸上競技選手権大会」というのがタイ バンコクで7月12日~16日、5日間行われてた。
この大会は1973年の第1回大会から2年おきに開催されていて(1977年に開催予定だった第3回大会はイスラエルをめぐる中東情勢が悪化して未開催)、今年で24回目。
世界陸連のワールドランキングコンペティション(World Rankings Competitions)の大会ランクでは最上位から4番目の「GL」というランクで、セイコー・ゴールデングランプリ(A)より1つ上、日本選手権(B)よりも2つ上のランクに位置づけされているそうだ。
これを日本のテレビはまったく無視していて、ニュース枠内でもほとんど報じない。
日本選手権より2つ上のランクだから、優勝、入賞で獲得できる得点も高いわけで、現時点で世界陸上への出場資格を得ていない選手にとってはランキングを大きく上げて出場資格を得るための最後のチャンス。
日本選手が世界陸上の参加標準記録を満たすことが難しい競技(例えば男子100mは10.00秒が参加標準記録で、現在、有効期間内にこれを満たした選手はいない)では、世界ランキングの順位での参加資格を得るしか道はない。
7月11日発表時点でのランキング最上位はサニブラウンの18位。次いで、坂井隆一郎が32位、栁田大輝が64位……の順。
日本陸連は日本選手権での順位を最優先して選考するとしているので、日本選手権優勝の坂井は有利だが、坂井はその後故障で不調。サニブラウンは日本選手権ではボロボロだったので、日本選手権で2位だった柳田が盛り返す大チャンス。
その柳田は見事、10.02秒で優勝。ポイントをグンと稼いだ。
↓サニブラウン、坂井、柳田の7/11時点でのポイント内訳
男子3000m障害では、すでに世界陸上出場が決まっている三浦龍司は出場せず、青木涼真にポイントを取らせたことで、青木もランキングを上げることができた。
そんなこんなの計算も働く今大会だが、全体的に日本選手が相当頑張った。メダル獲得種目だけを拾っても、
男子:
100m 栁田大輝 1位 10秒02
200m 鵜澤 飛羽 1位 20秒23
200m 上山 紘輝 3位 20秒53
400m 佐藤拳太郎 1位 45秒00(日本歴代2位)
400m 佐藤風雅 2位 45秒13
1500m 高橋佑輔 2位 3分42秒04
5000m 遠藤 日向 1位 13分34秒94
5000m 塩尻 和也 2位 13分43秒92
10000m 田澤廉 1位 29分18秒44
110mハードル 高山峻野 1位 13秒29
400mハードル 児玉悠作 2位 48秒96
3000m障害物 青木涼真 1位 8分34秒91
やり投 ディーン 元気 1位 83m15
三段跳 池畠旭佳瑠 2位 16m73
十種競技 丸山優真 1位 7745点
20km競歩 村山裕太郎 1位 1時間24分40秒
女子:
1500m 田中希実 1位 4分06秒75
1500m 後藤夢 2位 4分13秒25
5000m 山本 有真 1位 15分51秒16(この種目で日本勢初の1位)
10000m 小海遥 1位 32分59秒36
10000m 川口桃佳 2位 33分18秒72
100mハードル 寺田明日香 2位 13秒13
100mハードル 青木益未 3位 13秒26
400mハードル 宇都宮絵莉 2位 57秒73
400mハードル 山本亜美 3位 57秒80
3000m障害物 吉村玲美 3位 9分48秒48
走幅跳 秦澄美鈴 1位 6m97(17年ぶりの日本新記録)
三段跳 森本麻里子 1位 14m06
ハンマー投 マッカーサー・ジョイ・アイリス 2位 66m56
ハンマー投 村上来花 3位 64m17
やり投 斉藤真理菜 1位 61m67
七種競技 山﨑有紀 3位 5696点
20km競歩 梅野倖子 3位 1時間36分17秒
4×100mリレー 蔵重みう、君嶋愛梨沙、鶴田玲美、御家瀬緑 2位 43秒95
混合4×400mリレー 今泉堅貴、久保山晴菜、佐藤風雅、松本奈菜子 3位 3分15秒71
……と、なかなかの結果だった。
アジアの「ゆるさ」がいい
テレビではまったくやってくれないので、YouTubeで現地映像を見ていた。実況解説がタイ語。ライブ映像だとやたら競技間が長くて、スプリント種目でも、選手がスタートラインに着いてから「set」までが異常に長い。スタートブロックの不具合で何分も待たされたり、フライングがあるとその判定を巡って長時間揉めたりしてる。猛暑や突然の豪雨という敵も。選手は大変だっただろう。
観客席はガラガラ、というよりはほぼ空っぽ。タイでは日本以上に陸上競技人気がないらしい。
表彰式なんかも、他の競技会ではありえないくらいのゆるさで、そういうのを見ているだけでも「ああ、これがアジアなんだなあ。これが世界なんだなあ」と、一種感銘を受ける。
女子1万㍍では、地味を絵に描いたような小海遙くんがぶっちぎり優勝で、密かにファンである爺はものすごく嬉しかったのだが、その表彰式の様子を見てよ↓
↑女子1万㍍表彰式
何度見てもこの表彰式はジワル。東京乾電池・綾田俊樹風の終始無表情ジーパンおじさんと疲れたカンニング竹山みたいなおじさんコンビがプレゼンター。それを案内するガイド役のオバサンは滅茶苦茶着飾ってる。入場・退場ではポンカポンカ……というのんびりした太鼓が鳴って、観客席はガラガラ。
遙ちゃん、最初から最後までずっとどうしていいか分からないというキョトン顔。君が代が鳴って国旗掲揚のときも困った顔のまま固まってた。
しかも、レースを中継している現地映像では、実況アナがずっと名前を間違えて遙ちゃんのことを「モモカカワグチ」と連呼していた。
土砂降りの雨が通り過ぎた直後で競技場はむっしむしのサウナ状態。そんな中で最後はぶっちぎり。こんなに簡単に「アジアナンバー1」になっていいのかしら。君が代聞いてていいのかしら、という戸惑いもあるだろうねえ。
でも、これも「世界」なんだよ。というか、これが世界なんだよ。アジアもアフリカも南米もロシアも、みんな世界なんだよ。
いい経験ができてよかったね。
遙くんは高卒で第一生命に入ったから、大学選手権とかユニバーシアードとか学生記録といったものには縁がなかった。化粧っけもなくて、大学時代に大活躍して資生堂チームに入って化粧もすっかりうまくなったりのりんとかに比べると日影に咲くスミレのような選手かも。
でも、走るフォームが美しく完成されていて根性もある。これからも伸びてくる逸材だと、爺はひっそり応援しているのだわ。
それにしても、アジア陸上はいろんなことを考えさせられる。
こういうの、日本のテレビで流そうよ。俺たちはアジア人なんだ、って意識を高めれば、今の欧米の狂気に気づく日本人がちょっとは増え……ない……か。残念。
こんなご時世ですが、残りの人生、やれる限り何か意味のあることを残したいと思って執筆・創作活動を続けています。応援していただければこの上ない喜びです。