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残波岬灯台
「灯台に行かない ? 」
友だちのあーちゃんに誘われた。いつも唐突だなぁ、この人。
「えっ ? あーちゃん、灯台好きだったっけ ? 」
「いいや、特に興味ない」
「じゃなんで ? 」
わたしたちは休憩時間に豚皮チップスをボリボリ食べながら無駄話をしていた。
この豚皮チップス、まぁ居酒屋でお目にかかる鶏皮チップのぶたさん版だと思ってもらうと良いと思う。
袋に入ってスナックとして売られていて、なかなか美味しい。
美味しいのだがひとつ難点がある。めっぽう硬いのである。
なので時々口内を血の海に染める。さっきも歯茎の裏に刺さりかけた。
「で、灯台に興味がないあんたが何故 ? 」
「それがね、推しが居るのよ」
岬の灯台守かなんかか ?
チップスボリボリ。
歯と歯茎が丈夫なあーちゃんはいいなぁ。美味しさを遺憾無く堪能出来るもの。こちとら恐る恐る、時には唾液ですこしでも柔らかくして食べなきゃならないのだ。ご高齢の方がおせんべを細かく砕きながら、ちびちび食べる時みたいだ。
あっ、でもかの英国ではクッキーを紅茶に浸して食べると言うことを聞いたことがある。おっ、ちょっとイメージがオシャレに感じられるぞ。
灯台に推し ?
まさかあーちゃん、ついに無機物に恋した ?
彼女はオタクで守備範囲は広いと思っていたが・・・。
それとも誰か灯台に来るのかなぁ ? それとも灯台の係の人がイケメンとか。
「そんなんじゃないよ、イケメンなのは間違いないけど」
良かった。人間みたいだ。
灯台のある読谷村は北谷から20キロくらいの距離で、近くはないけど遠くもない。リゾートホテルもいくつかあって北谷とは全く違って落ち着いたところだ。
ちなみに読谷村は人口日本一の村で、県民大好きファミチキの消費量日本一だそうだ。( @rain_ihoari3 さん情報 )
あと観光客に大人気の御菓子御殿の本店もここにある。
というわけでわたしたちはタクシーでごとごと揺られること30分、残波岬灯台に到着した。
海に面した岬にポツンと建っているのかと思いきや、大きな駐車場完備の立派な観光地だった。
「すごいね・・・」
「うん・・」
駐車場には観光バスのてんこ盛り。そこから出てきた団体さんがそこかしこで集まって記念写真撮影をしている。
灯台は岬の先端に建ち、周囲は広大な公園の敷地。後ろの方にはウォーターパークもあるかなり大きなリゾートホテル。公園内にはレストランやフードトラックまで出ていて、散歩する人たちはそこで買ったであろうソフトクリームを食べている。
こんな観光地だとは思ってなかった。
しかししかし、灯台そのもの、あまり人気ない ?
散策する観光客はバス二、三台分は居るはずなのだが、灯台に向かう人はごく一部、登る人はほとんど見受けられなかった。
「あれ、登るの ? 」
あーちゃんに聞いてみた。
「もちろんじゃん、何しに来たのよ ? 」
ああ、やっぱり。
かなり高くて登るのに体力がいりそうなうえに、実はわたし、高い所が苦手なの。
地上の入り口でチケットを買って登り始める。
中は階段が交互に折り返して登ってゆくのだが、幸いにして途中に窓などは無く、張り紙があとどれくらいか知らせて励ましてくれる。
しかし、難関は最後に待ち構えていた。
展望テラスまで垂直のはしごなのだ。手と足がいままで酷使したためか震える。いや、恐怖のためだと思う。
「やった、登り切った ! 」
あーちゃんは早くも開口部を抜けてテラスに建っている。
「アキちゃんも早くおいでよ、絶景だよ」
ダメだ。ちょっと外を見ただけで足がすくむ。
「ダメ、ここで許して」。
外を見るだけでも足がガクガク震える。
「あーちゃん、早く・・、早くシャバに帰ろう ! 」
「まって、これで写真を撮って」。
彼女は手にしたスマホをわたしに手渡して、ポーチの中から何かごそごそと取り出した。
アクスタ ? !
二次元のイケメンが扇を手に微笑んでいるアクスタだった。
「あーちゃん、それ・・」。
「燈の守り人」
あーちゃんによると日本全国の灯台にそれぞれイケメンキャラが振り当てられ、灯台のあかりを守っているのだそうだ。
「あんた、それが目当てだったの ? 」
手にしたイケメンをご満悦の彼女。
震えながらスマホを構えるわたし。
「いくよ、ハイ」
「あっっ !」
アクスタは突風にあおられて宙を舞い眼下の海の藻屑と消えたのだった。
※危険なのでくれぐれも気を付けて、携帯品はしっかり身に着けること。
こんなことをしては絶対にいけません。