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第三回 / わたしの(芝居への)異常な愛情/その3

スタニスラフスキー師の著作は当初「俳優修業」というタイトルで日本語訳が出てました。
それにあやかって「(令和の50代の)俳優修行」をつらつら書きます!
そのうち本にしたいなあ。


2021年2月

小林加藤菅原のオッサン3匹に、岡ゆかり氏、桑原文子氏、Aya氏を加えての6人編成で、アトリエ公演。

世間はまだまだコロナ禍真っ盛り。
前年11月の「サヨナフ」の本番中に、まだまだこの座組で芝居が創りたいなあ、と思った。
私は「サヨナフ」の楽屋で「隆さんとすっこちゃん(桑原氏)とゆかちん(岡氏)の三角関係が見たい」と言った。
言っただけではなく、短編の草稿を書いた。加藤氏に見せた。全く戯曲の体をなしていない雑文を見てさすがの菅原氏も頭を抱えた。みかねた加藤氏がわたしの草稿を全面改稿して「ナイアガラトライアングル」という短編が出来た。

「ナイアガラトライアングル」のイメージ画像。菅原氏を取り合う岡氏と桑原氏

そこに、加藤氏の既存の戯曲2本と、やはり加藤氏作の幕間劇をプラスして、「神々の黄昏」というオムニバス作品として発表した。

フライヤーデザイン:内田 宇則

加藤氏の作家性がとてもとても色濃く出た異色作であり、従ってとてもわかりにくく、その部分ではあまり評判が良くなかった。


稽古期間中に私は加藤氏の脳内宇宙の迷宮から脱出できなくなった。稽古とは別に、加藤氏のお店を訪ねて「一体何を考えてるんだ?これは何の作品だ?」とひたすら問いただした。
彼の返答は一言も理解できなかったがなんとなく想像はついた。
「足るを知るってことか?」と聞くと「そうそう!おれ老荘思想だから!」と答えた。
「なんでみんなそのまんまじゃダメなのかな」と言う。
この独特な感性の根本はどこにあるのかを見極めようとした。見極めようとしすぎて、本番2日前に自転車から転げ落ちて右腕を骨折した。

三角巾とギブスで芝居をした。大方のお客様は「小林は奇人の役だから、役作りで腕を吊っているのだろう」とお思いになったようだったが、一部医療関係のお客様から「小道具にしてはギブスが本格的すぎる。さては本当に怪我をしたな。もうトシなんだから色々気をつけろ」とお叱りを頂戴した。

小林とAya氏/撮影:加藤多美

この公演から、加藤氏の「自分のやりたいことを極限まで曲げずに表現したい」と、私の「お客様の大切なお金と時間を頂戴している自覚を持て」の対立が始まる。その真ん中で菅原氏はいつものように「すげええなああ」と言ってからから笑う。

私自身の芝居は、本当に苦しかった。
加藤氏の作演出なのだが、外的なアプローチしか要求されなかった。
対して私は、本当にその気分でないとその表現が出来ない、と思い込んでいた。
アウトサイドインvsインサイドアウトである。
私に腕があれば難なく両立させられたのだが、怒ってないのに怒るとか、本当に無理だったのだ。未熟だった。
対して加藤氏も、自分のこだわりを赤の他人の心身にどう実装するか、というノウハウはまるでなかった。
これではお互い苦しいだけである。
その真ん中で菅原氏は「ひでえええええ」と笑いながらなんだかよくわからないけど間違いなく凄いことをしてみせるのだ。困った人だw

桑原文子氏と菅原隆氏/撮影:加藤多美
岡ゆかり氏と菅原隆氏/撮影:加藤多美
作者自ら出演した加藤氏と、占い師に扮する菅原氏/撮影:加藤多美
虚無のままサンドイッチを頬張る菅原隆氏/撮影:加藤多美


2021年4月

「モノステ」に出させて貰った。
「モノステ」というのは、モノローグオンラインステージ、の略。ZOOMで一人芝居合戦をやろう!という企画。
友人の石田直美氏が出ていて、いつか私も挑戦したい!と思っていたのだ。石田氏、めっちゃ楽しそうではないか。

「モノステ」はコロナ禍で劇場での公演が全国的に止まったのを受けて、オンラインの一人芝居でギャラも役者に出そう!という非常に志の高い試みである。立案実行した運営諸氏は神様かもしれない。

そして私は初出場で優勝した!みなさまありがとう!!!!投げ銭もありがとう!!!

黒幕はSAKU氏である。出ようと思ったのは私だが、初出場で初優勝出来たのは、SAKU氏のディレクションおよびコーチングの威力。

この時は確か……
・氏の「個別」というコンテンツで、役と役者の共通点を抵抗なくするっと役者に認識させる。
・画角とアングルの調整
をメインにディレクションをかけていただいたように記憶している。
非常に新鮮な経験だった。

ところが私は準備の20%ぐらいしか本番で出せなかった。
セリフが入ってなかったんである。完璧に覚えたつもりだったが、本番!となったときにプチパニックを起こして飛びそうになり、慌ててカンペを追いかけた。
「テクニカルに気を取られて肝心の芝居がおざなり」という悪癖….これを克服するにはもう場慣れしかないだろう。
「パニック時にマルチタスクが苦手」ならば解決策はいくつかある。
・本番がパニックではないぐらい場慣れする
・ワーキングメモリを増やす訓練を日常的に

この後、山口旺人氏が同じくSAKU氏のディレクションで渾身の「アンドロイド107」をぶちかまし、当然初出場初優勝し、その衝撃で小林はモノステに関わる全員の記憶から消えた。
加藤氏は「SAKUさんもあきとくんもガチの本気出して大人げない」と言って笑っていた。菅原氏はいつものように「すーげえなああ」と言っていた。自分も「モノステ」に出たい様子だった。
山口旺人氏の「アンドロイド107」は、この↓動画中27分ごろから。


コロナはますます猖獗を極めていたが、世間は自粛ムードとGoTo国内旅行ムードとオリンピック絶対成功させるぞムードが渾然一体となっていた。
そんなバカな話があるか。都会はロックダウンして、観光地には人を集めてクラスターを作る。それを政府が堂々と宣う。
そんな状況で公演をストップしてたまるか、と私は意地になっていた。
本当に怖い病気ならなんでGotoオリンピックをお上が推奨するんだよ!あいつら本当はたいしたことないって知ってるんだ!コロナごときでおれが芝居創りをやめる理由にはならねえ!と怒り狂っていた。「コロナは風邪だ」「気にしなければ存在しないのと一緒だ」と宣言した。
そしてコロナ(デルタ株)に罹患して大変な目に遭った。
バカは死ななきゃ治らないと言うが、本当に死にかけた。
幸いコロナもワクチンも後遺症はなかった。


多分この頃から私はSAKU氏のアトリエに毎週通うようになった。
私が芝居が上手くなるためにどうしても必要なモノを、SAKU氏は確かに持っていると思ったからだ。

このアトリエ通いは2023年頃に一段落するが、それはまだ先の話。

(続く)
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