刑法クイズ①🐾

こんにちは!めいりですぽん。思いつきで刑法の問題作ったよ。未遂犯の進捗度判断説は最近有力になってるけど、進捗度説からの答案例を検討したことある人ってまだまだ少数派じゃないかと思って、答案書いてみました。通説からも答案書いてるんで、安心してぽん!
刑法クイズの第2弾はあるかもしれないし、ないかもしれないぽん〜

【問題】
 甲はタヌキAに対し「お山がブルドーザーで開発される。開発を止めるにはドングリが必要だ。至急、ドングリを送ってくれ」と書いた手紙を出した。しかし、ぽんぽこポストの配達事故により、キツネBに届けられた。手紙を読んだBはいたずらだと思い、手紙を捨てた。甲の罪責を論ぜよ。
 なお、以下を前提とする。たぬき、きつねも人間と見なす。たぬきはお山に住んでいたが、キツネはさらに山奥に住んでおり、「お山」がどうなろうとどうでもよかった。お山の開発は甲の虚言であり、そんな計画は存在しない。

【答案例】進捗度判断説ver.
1.甲がAに対してドングリを要求する手紙(以下、本件手紙と呼ぶ)を発送した行為に、Aに対する詐欺未遂罪(250条・246条1項)が成立しないか。
(1)まず、詐欺罪における実行行為は、欺罔行為、すなわち財産的交付の基礎となる重要な事実を偽ることをいう。実行行為は、犯行計画に対応する最終行為をいうところ、規範に直面しない第三者を道具として利用した場合には、利用行為が最終行為となるから、利用行為が実行行為になる。
 本件手紙では、「お山」というAの住処が開発されることを阻止するために、どんぐりを要求するものであり、開発行為を阻止するために財産的給付を行うことは通常であるから、かかる開発計画が存在しないのに存在するかのような虚言を用いることは、重要な事実を偽ることに他ならない。また、甲の犯行計画は、本件手紙をぽんぽこポストという第三者を通じて郵送するものである。
 よって、本件手紙発送行為が実行行為になる。
(2)もっとも、甲は本件手紙を発送したものの、配達事故によりAには到達していないため、Aは錯誤に陥らず、ドングリ、すなわち財物の移転が生じていない。そこで、未遂犯が成立するためには、甲が「実行に着手」(43条)が必要である。
 この点、未遂犯は犯行計画が処罰可能な段階に達したかという問題であるから、未遂犯の成否は犯行計画の進捗度によって判断される。そして、実行行為が終了した実行未遂の場合には、危険性が被害客体に密接すること、すなわち被害者領域への介入まで必要というべきである。
 本件では、本件手紙は配達事故によりAの元に到達していないから、被害者領域への介入がない。
 よって、実行の着手が認められない。
(3)以上より、Aに対する詐欺未遂罪は成立しない。

2.甲の上記行為に、Bに対する詐欺未遂罪が成立しないか。
(1)まず、本件手紙は、Bのもとに到達しているところ、Bは錯誤に陥らず、ドングリの移転は生じていない。そこで、実行の着手の有無が問題になるも、上述の議論の通り、Bのもとには到達しているから、実行の着手は認められる。
(2)次に、本件手紙は「お山」の開発という虚言を用いているところ、Bは「お山」ではなくさらに山奥に住んでおり、「お山」のことはどうでもよかったというから、そもそも財物移転の危険性がなく、不能犯にならないかが問題になる。
 この点、不能犯は、未遂犯処罰の前提として、絶対に結果発生の危険が生じないかという問題である。そこで、一般人が認識し得た事情および行為者が特に認識していた客観的事情を基礎として、一般人を基準に、行為時において、構成要件的結果発生の危険があったか否かにより判断すべきである。
 本件手紙を発送した時点において、甲は配達事故のことを想定していなかったし、また一般人においても想定し得たものでなかったから、配達事故は基礎事情から除外される。そして、一般人の観点から、自分の住処が失われるかもしれないとなればドングリ(金銭等)を支払うのは通常であるといえるから、ドングリの移転という結果発生が生じる危険が絶対になかったとはいえない。
 よって、不能犯は成立しない。
(3)一方で、甲はBに本件手紙が届くことを認識していないため、構成要件的故意の有無が問題になる。
 この点、故意責任の本質は、反規範的人格態度に対する道義的非難であるから、故意は構成要件として与えられた行為規範を乗り越える認識があったという問題である。そこで、認識した事実と客観的事実が構成要件的に重なりあう限度で、故意が認められる。
 本件手紙の発送行為は、客観的にはBに対する欺罔行為であり、甲の認識においてはAに対する欺罔行為であり、詐欺罪の限度で重なりあっている。
 よって、故意は否定されない。
(4)以上より、Bに対する詐欺未遂罪が成立する。

以上🐾

【答案例】実質的客観説ver.
1.甲がAに対してドングリを要求する手紙(以下、本件手紙と呼ぶ)を発送した行為に、Aに対する詐欺未遂罪(250条・246条1項)が成立しないか。
(1)まず、詐欺罪における実行行為は、欺罔行為、すなわち財産的交付の基礎となる重要な事実を偽ることをいう。実行行為は、構成要件的結果発生の現実的危険を有する行為をいうところ、規範に直面しない第三者を利用する行為によって、かかる危険性が発生するから、利用行為が実行行為になる。
 本件手紙では、「お山」というAの住処が開発されることを阻止するために、どんぐりを要求するものであり、開発行為を阻止するために財産的給付を行うことは通常であるから、かかる開発計画が存在しないのに存在するかのような虚言を用いることは、重要な事実を偽ることに他ならない。また、甲は、本件手紙をぽんぽこポストという第三者を通じて郵送している。
 よって、本件手紙発送行為が実行行為になる。
(2)もっとも、甲は本件手紙を発送したものの、配達事故によりAには到達していないため、Aは錯誤に陥らず、ドングリ、すなわち財物の移転が生じていない。そこで、未遂犯が成立するためには、甲が「実行に着手」(43条)が必要である。
 この点、未遂犯の処罰根拠は構成要件的結果発生の現実的危険を惹起した点にあるから、かかる危険を惹起した時点で未遂犯の成立が認められる。そして、結果発生の危険性は被害客体に接着することによって現実化するから、相手方への到達が必要である。
 本件では、そして、本件手紙は配達事故によりAの元に到達していないから、現実的危険が生じたとはいえない。
 よって、実行の着手が認められない。
(3)以上より、Aに対する詐欺未遂罪は成立しない。

2.甲の上記行為に、Bに対する詐欺未遂罪が成立しないか。
(1)まず、本件手紙は、Bのもとに到達しているところ、Bは錯誤に陥らず、ドングリの移転は生じていない。そこで、実行の着手の有無が問題になる。
 この点、未遂犯における危険発生の判断は、一般人が認識し得た事情および行為者が特に認識していた客観的事情を基礎として、一般人を基準に、行為時において、構成要件的結果発生の危険があったか否かにより判断すべきである。
 確かに、本件手紙は「お山」の開発という虚言を用いているところ、Bは「お山」ではなくさらに山奥に住んでおり、「お山」のことはどうでもよかったというから、そもそも財物移転の危険性がない。
 しかし、本件手紙を発送した時点において、甲は配達事故のことを想定していなかったし、また一般人においても想定し得たものでなかったから、配達事故は基礎事情から除外される。そして、一般人の観点から、自分の住処が失われるかもしれないとなればドングリ(金銭等)を支払うのは通常であるといえるから、ドングリの移転という結果発生が生じる危険が絶対になかったとはいえない。
 よって、未遂犯が成立する。
(2)一方で、甲はBに本件手紙が届くことを認識していないため、構成要件的故意の有無が問題になる。
 この点、故意責任の本質は、反規範的人格態度に対する道義的非難であるから、故意は構成要件として与えられた行為規範を乗り越える認識があったという問題である。そこで、認識した事実と客観的事実が構成要件的に重なりあう限度で、故意が認められる。
 本件手紙の発送行為は、客観的にはBに対する欺罔行為であり、甲の認識においてはAに対する欺罔行為であり、詐欺罪の限度で重なりあっている。
 よって、故意は否定されない。
(4)以上より、Bに対する詐欺未遂罪が成立する。

以上🐾


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