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第三回偽物川小説大賞一次ピックアップ

 秋深し隣は何をする人ぞ。どうも、「第三回偽物川小説大賞」主催のきょうじゅでございます。今日は川系小説大賞おなじみのピックアップ紹介、その第一回をやっていきたいと思います。

 これは毎度の説明となりますが、このピックアップ記事はわたしが一人で書いておりますので、大賞はじめ各賞の選考とは必ずしも関係がございません。

 では、今回は三選で参りたいと思います。現時点で要項を満たした応募作が十二作品、それが既に力作揃いで絞り込むのにかなり悩みましたが、まあ端から紹介したのではピックアップになりませんのでね。ここに並べた順はエントリーの順、作者名は敬称略となっております。では第一作目。

わたしの姉さん 尾八原ジュージ

 きょうじゅがこの小説大賞とは別のシリーズとしてやっている偽教授杯という企画の常連でおられる尾八原ジュージさんによる、お得意のホラー小説です。

 舞台はノスタルジックな薫り漂う昭和三十八年の日本。ひとりの少女を語り手として、彼女とその姉、つまり五歳年が離れた姉妹の物語が綴られてゆきます。何か冷たい手触りの感じられる世界にやがて姿を現すのは、姉妹の家に古くから祀られていた怪しの蛇神で……という、一種のまあ幻魔怪奇譚といったようなおはなしです。

 小説技法としてはいわゆる「信頼できない語り手」と呼ばれるタイプのもので、客観的事実として結局何が起きていたのか判然としない部分も多いのですが、しかしそれがかえって和風伝奇的ホラーとしての情感を否応もなく高めている……という、小説ぢからのつよい作品でした。

不在 辰井圭斗

 現代の現実世界を舞台にした約3000字の掌編です。まもなく墜落しようとしている飛行機の中で、語り手の人物が神と信仰について思索を巡らせる。あらすじをあらすじとして書いてしまうとほとんどそれで全部という内容の作品なのですが、織り成されることばのあまりの真摯さと誠実さに正直最初読んだとききょうじゅは泣きそうになりました。

 語り手の人物は特定の明確な宗教宗派に属しておらず、ゆえにわたしの解釈としてはこれは「主人公にとって神が不在である物語」ということだと思うのですが、「神」というテーマに対する「あえて」の回答のかたちとして、これは一つの極致にあると思うのです。

猫の祟りと六代目 佐倉島こみかん

 こちらはファンタジー作品。といっても現代の日本が舞台で、かなり地に足がついた現実寄りの世界観なのですが、主人公の女性の一族に代々祟りをなす猫神がいて、それがある日忽然と彼女の前に姿を現して……という感じの導入になっています。

 先に一言で総括すると、人間の心の機微の深いところに手を触れるような、とても優しい物語でした。猫神様のキャラクター性がとてもよかったです。わずか二万字の物語でここまで二者の関係性や心の絆といったようなものを描き切るのはなまなかのことではありません。

 掌編には掌編の、二万字スケールの作品には二万字スケールの作品の難しさがありまた面白さというものがあるとわたしは考えるのですが、この作品のすごいところはきっちり二万字スケールで着地する規模感でしっかり物語がまとまっているところで、特にその点で頭一つ抜けてきたという印象があります。


 さて、というわけで第一回ピックアップは以上となります。開催期間はまだ40日くらいありますので、皆様の力作をまだまだお待ちしております。というわけで、偽教授でした。アデュー。

 

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