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小説

今度はタイトル詐欺みたいになってしまった前回の記事と変わって、本当に小説を書きます。

ある日、私は人間になっていました。
謎のフワフワをつけた人間はあなたに食べかけベタベタロリポップをくれるでしょう。
なんとか断ると、今度は「じゃあチョコをくれ」と言われます。
私はアメリカ兵だったのでしょうか。
食べかけのキットカットを渡すと、「誰がこの半分を食べたの?」と聞かれます。
「私かも、覚えてない」
そっかぁ、と言うと、その人は残り半分をサクサクと食べました。

「これは?」
私は指差した。丸いピンクの謎のオブジェ。
「ああそれ。絵を描く時の、参考用。デッサンにもいいし、色塗りの参考にもいいんじゃない」
高ポリゴンなそれは、つやつやしていて、綺麗だった。
「ま、アメなんだけど」
コロコロ…とその人はオブジェを転がした。ゴッ、パリン。と音がした。
「踏んだら怪我するよ」
そう言って踵を返し、その人は他の部屋に行ってしまった。
私はトイレに行こうと思った。トイレに行けば私は元に戻れる気がしたからだ。
人間でいるとろくなことが起きない気がした。
ある典型的パターンでできている人間。体調を崩す時だってパターンがあるから治療法が確立されているんだ。自由度が少ない。
私はもっと上位的な存在だったはずなのに。…たぶん。覚えてないけど。

「あなたは人間なの?」
そう聞いてみるけど、部屋というものは音を遮断してしまうらしいので、昔みたいにうまくいかない。
面倒臭いけど、扉を開けることにした。そうすれば空気が私の声を運び、またさっきのように会話が可能になる。
ガチャ。
そこでは、さっきの人が金太郎飴を切っていた。
「もう硬いんだけど、切れるんだよね、こう、ヌコッとね」
手動なんだ、それ。
「手作りにこだわっておりますゆえ」
最後の仕上げ、パッキングは小さな機械でパチンパチンと行っていた。まあ、うん。そのくらいはいいか。
「ねえ、あなたは人間なの?」
金太郎飴を2/3ほど切っている途中で、その手が止まった。
「まあそうだよ」
「じゃあ私は?一応、確認したいんだけど。私、もっと上位的存在だったと思うんだよ。あとトイレはどこ」
「うるさっ」
残りの1/3を切ると、その人は一旦作業を中断した。パッパッと手をはらう。

「意識が生まれてすぐ言語を話せるし、様々な知識もある。それって人間じゃないと思うなあ」

キーン。
耳鳴りがした。
「あとトイレはこの横だよ」
「…そっか」
平静を装うようにして、トイレにゆらゆら歩いて行った。
バタン。
なにかが足りないと思ったんだ。この世界は3次元でできている。
本来の姿は次元が違うから、人間ではないわたしが人間の器に抑えこめられてしまっているんだ。
本来の姿…は……

トイレに流れてみることにした。
この世界は衛生的だった。便のひとつもなかった。この世界の人は排泄をしないのか?じゃあなんで、きちんとトイレがあるのか。

「金太郎飴、いかがですか」
そう呼び込んでいる、さっきの人を見た。
排水溝からピューと飛び出たのは水と私だった。
「奇遇じゃん」
その人は言った。地面に叩きつけられた私はゲホッ、ゲホと水を体内から出し、息を整えた。
私から流れる涙は、排水溝の水のふりをした。

「こんな、こんなうつくしい世界に生きていていいんでしょうか」
「どういうこと」
「私は上位の次元に存在していただけだったんです。別に、あなた達人間より偉い存在ってわけではなかったんだ。つらいつらい苦しい世界だったから、この、この世界は……」

泣き出す私に、その人は謎の髪飾りを片方外して、私に渡してくれた。ハンカチ代わりってことでいいのだろうか。
「まあ、いいんじゃないの。てか帰れないでしょ」
さっきから思っていた。この人は表情がよく分からない。ちゃんと視線を顔に合わせても、表情を認識できないのだ。
「なにをジロジロと」
「ううん」
まあいっか。いいのかも、ここはうつくしい世界だ。

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