KRちゃんのこと

息子は今小5だ。剣道を嗜んでいる。

小1から1年かけて、渋る私たちを説き伏せて、小2からはじめて今小5。仲間といるのが楽しくて、ちょっぴり入賞なんかもさせてもらえて、何かと充実している。楽しそうで何よりだなぁ。

でもさ、母ちゃんは思い出しちゃったよ。KRちゃんのこと。

KRちゃんは、私の小学校の同級生だ。記憶している限り、学年でたったひとりの剣道男子だった。いつもくりくり坊主で、女の子みたいな顔立ち、薔薇色の唇、誰にでも優しくて、そして1980年後半~1990年代初頭の小学生お約束の激短パン。健脚でもあった。KRちゃんのこと好きだった女子は、けっこういたんじゃないだろうか。

2月14日未明、KRちゃんは亡くなった。自宅火災の、ただ1人の犠牲者だった。

年の離れたお姉さんが、KRちゃんを起こしたという。KRちゃんは返事もしていた。火が迫り、お姉さんは先にいくよ!と2階の窓から飛び降りて骨折。

そしてKRちゃんは、二度と起きてはこなかった。

私たちは、小5にして同級生の突然の死に直面することになった。KRちゃんの死因は一酸化炭素中毒だったが、損傷が激しく、最後の対面は誰も許されなかった。当然、実感はまったくわかなかった。卒業式は、一緒に迎えた。卒業アルバムには、おなじみの激短パンで開脚体育座りをしているためにたいへんなギリギリショットになっている彼の、全開笑顔の写真まで残っているのだ。誰がこのセクシーボーイが、この世にいないと信じられよう。

だから、というわけではなかろうが、私は、毎日防具を見て、洗濯に頭を悩ませてたというのに、息子が小5になるまでKRちゃんのことを「忘れて」しまっていた。小5、剣道、これは私が覚えている、もうアップデートできないKRちゃんじゃないか。今思い出せてよかった。知っている限りかつての同級生で子供が剣道をしている人はいない。息子の防具に、竹刀に、道着に、袴に、私が持っていたKRちゃんの魂のかけらを載せるのもひとつの弔いではなかろうか。

KRちゃんの分も、と言われても息子は知らんがなの極みだが。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?