シュールストレミングな呪い

1996年春、志望する高校に合格した。
旧制中学から続く公立高校。もちろん第一志望だったからうれしかった。

高校生になると、義務教育から離れる。
これまで持てなかったアイテムが持てるようになる。
男子はどうだか、今はどうだか知らないが、当時の女子といえば、限られたアイテムの中で、個性を出し、小さなマウントをとり、自己満足を得るものだった。

当時のスタンダードは、時計はBABY-G、ポーチやペンケースはレスポートサック、トートバッグはエルベシャプリエかagnis.b、体操服を入れるのはヒステリックグラマーだかのショッパーバッグだった。
同じ高校に合格していた幼馴染のHちゃんは、それら全部を買ってもらえていた。私もほしかった。

だが、母は【はやりものはだいきらい】な人だった。
いや、はやりものに興味のない娘が理想の娘だったのだと思う。
ノーブルな、コンサバな・・・表現は悪いが、皇室の内親王の方々のお召し物のような服装を好んでいたから。
だから、腕時計は亡き祖母のおさがりの、キオスクでぶらさがってるのを買った腕時計だったし、ペンケースもノンブランドで通した。
経済的な事情で無理だと言われれば納得できたが、ただただ母の理想に見合う娘になるために否決されたのは、悔しかった。
もらったお年玉で買うといってもダメだったので、もう気持ちにフタをするしかなかった。
とどめは大学合格のときで、散々「第一志望に合格したらブランドの財布を買ってやる」といっていたのに、アナスイの財布を買うのを拒絶されたときに、私はもう、すべてを諦めた。

母はいつもそうだ。
◎◎したらなんでもしてあげるのに、というけれど
I do anything you want.ではなく、I do nothing you want.にすりかわる。
夫曰く、私は常に鼻先に人参をぶらさげられた状態らしい。

さて、この呪いだが、大人になってもさっぱり取れない。
買えないわけではないが、手が出ない。
ほしくてほしくてたまらないのに、指をくわえてみているだけで一歩が出せない。
そんな自分を俯瞰で見ている私がいる。
バカだなあと思うけれど、実は子供のころから「みっともない」「はずかしい」「いやらしいわ」と他の子の行動を品定めする母は漬物石で、私のマインドはいまだ高校1年生の春だ。ビンテージ23年ものの高校1年生。

いまだにagnis.bのバッグとBABY-Gに憧れて、私は41歳を迎えた。
たぶん今年もどれも買わないけれど、息子にはそんな思いをしてほしくなくて、欲と目標はふんだんに出すように伝え、その結果息子は欲望むき出し人間になってくれた。
ほしいものを「これほしいな~」とにおわせることができるだけでどんだけいいか。もちろんこちらも「誕生日でもないのに高すぎっ!」とか「小遣いで買えば?」とか口を出していく。
目下の息子の夢は、大通り沿いにあるランボルギーニ屋さんで見た、マットグレーの「超チャラい」スポーツカーのオーナーになることだから、まあがんばれ~としか言えないが、絶対に欲を否定はしないと決めている。
そして「買ってやる」と決めたものは絶対に買う。

今日のnoteはさっぱりおもしろくないだろう。
そりゃそうだ、これは私の怨嗟の供養だ。
くだらない、つまらない、流行りもの、一時のもの、
それでも、私には、これが大事なのだ。今の私を満たしたいものなのだ。
アニエスとベイビーの呪いは古漬けで、酸っぱくて、なかなかこじあけられないシュールストレミングになってしまったけれど、今からの私の欲は、財力の許す限りは亜光速でかなえていきたいと思う。
私が私との約束を破っちゃだめだしね。

さしあたり、某動画で一目ぼれしたオタマトーン(明和電機)を脊髄反射で購入した。
真っ黒のオタマトーン。
名は寂聴(オタマトーン→オタマジャクシ→ジャクシ→ジャック→寂聴)。
弦楽器経験者でないと弾きこなすのはたいへんだと身を持って知ったが、ちょびちょび弾いて楽しんでいる。
たった3000円弱で手に入れた、心の満足。

知ってた?
シュールストレミングって、ちょっと開いたらぶっしゅーーーーーって全部出ちゃうの。
私たぶん今、ぶっしゅーしてる。これから、やばいよ。ちょっとずつ、かなえちゃうよ。

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