Vol.1.5:動画再生時間から見る「いそまるの成り上がり回胴録」と「寺井一択の寺やる!」の比較
私のパチスロ動画批評デビュー作となるVol.1における私の主張の軸は、我々がパチスロ動画を見るのは「フラストレーションの発散のため」であるということ、そして、「フラストレーションの発散」につながるストーリー作りという点においていそまる及びスロパチステーションは群を抜いているということであった。
その比較対象として挙げた寺井一択については、その能力を評価しつつも、各動画が一話完結的であり、フラストレーションの蓄積と発散という長期的な動画の組み立て、そのためのストーリー作りに欠いていると述べた。
これらの主張が正しければ、「寺井一択の寺やる!」と「いそまるの成り上がり回胴録」では、動画の再生時間で必ず差が出る、もっと言うと、後者のほうが動画の平均再生時間が長くなる、というかたちで差が出るはずである。
それを確かめるために、「寺井一択の寺やる!」と「いそまるの成り上がり回胴録」の動画再生時間についてデータを集計した。いかがそのデータである。
まずは平均時間についてみていこう。
初期の動画時間の短さのみ顕著に差が出ており、100話以降はほぼ横ばいだが、最頻値や中央値も併せて考慮すると、直近200話ほどでは動画時間のさらなる増加傾向がみられる(600話~は集計対象動画数が少ないため誤差の範疇の可能性は否めない)。
初期は編集技術が荒く(実際に初期の動画を見ればわかる)、そうした部分でも多少時間が短くなってしまっている可能性もあるだろうが、これもまた誤差の範疇だろう。今のスロパチステーションでは考えられないが、万枚を出したスタードライバーの回を前後半に分けるなど、当時は動画をある程度の尺内にまとめる意識が現在に比べかなり強かったはずだ。個人的には、あの動画を今のスロパチステーションがリメイクしたらいったいどんな動画に仕上がるのだろうという点に大変興味がある。
こうしてみると、Vol.1にて私が述べてきた、スロパチステーションは「ストーリー作り」を重視しているという主張にはそれなりの説得力が出てきたように思う。また、100話以降から平均再生時間に大きな変化がないことから、動画の長時間化はかなり早いタイミングで現れた現象であることがわかり、つまりは可能性として述べていた「今の地位・人気があるから長い動画でも見てもらえる」という仮説はやや信ぴょう性を欠くことになる。ちなみに、150話(そのEDにて紹介されている)当時のいそまるのTwitterのフォロワー数はまだ88,393人、チャンネル登録者数は27万人を超えたところである。
以下は再生時間別の動画割合をグラフにしたものである。
しかしながら、比較対象がいないとこれらの数値を客観的に判断することはできない。そこで、「寺井一択の寺やる!」の動画時間を集計してみた。
動画平均時間とその最頻値、中央値はどれを見ても顕著な変化は見られない。100~300話でやや長時間化しているが、200話~300話の間で他媒体演者・ライターとの共演動画(総じて再生時間が長い)を何本も投稿していることが要因の一つだろう。
また、実践内容にかかわらず企画としてあえて長時間の動画を投稿した時期でもある。
前者のOPで寺井は再生時間の短さが視聴回数に悪影響を与えていると述べており、それをまた寺井らしい発想で逆手に取った動画だが(ネタバレすると意味ないような気もするが)、多少なりとも寺井なりに動画時間の尺を長くしようと意識した時期だったのかもしれない。ただ、寺井のこれらの取り組みとスロパチステーションの動画が長い原因、そこにある狙いは全く異なるものでることは、本論を一読してくれた読者ならご納得いただけるはずである。
以下は「寺やる!」の動画を再生時間別に分けた割合のグラフである。
最後にあらためて、「寺やる!」と「成り上がり回胴録」の集計データを比較してみよう。
40分以上の動画と未満の動画との割合がほぼ半々である「成り上がり回胴録」に対し、「寺やる!」は40分未満の動画が7割を超えている。29分以下のかなり短い動画も15%ほどで、10%に満たない「成り上がり回胴録」を大幅に上回っている。
本論でも述べたが、短い動画が多いことには寺井の「収録はすべて動画にする」(没にしない)というこだわりが大きく影響しているのだろう。しかし、40分以上の動画が占める割合にここまで差が出るとなると、両者の間には動画に対する根本的なアプローチの違いがあると言わざるを得ない。合計データの最頻値を見ると、両者の差はたった2分である。つまり、最もコモンな動画の尺にはさして差がないわけである。寺井はそれを30~49分の時間内にコンスタントにおさめているが、スロパチステーションは長時間の動画に仕上げることをより厭わない。全体を通してみたときに、実践内容などに合わせてより臨機応変に最適な動画尺を選択しているということが言えるだろう。
スロパチステーションの動画をよく見ると、これは確証のない私の憶測だが、ところどころで再生速度を1.1~1.2倍にしている。私も動画編集に携わったことがあるのでわかるのだが、そうしたときに生じる特有の声色を確認できる動画が結構な頻度である。主に出玉紹介の場面だが、OPでもこうした場面を見かけることがある。動画をある程度コンパクトにまとめたいという意図は彼らも持っているということだろう。それでも長尺の動画を出し惜しまないのだから、そこに何かしらの意図があることは明白である。
こうして両者の違いを数値に表すことで、私は自分の主張にさらなる確証を得たわけであるが、それでもまだ比較対象となる演者・チャンネルが少なすぎることは重々承知している。今後の考察でも同調査を継続することで、この確証をさらに確かなものにしていきたい。
最後に、私は「寺やる!」を「寺井」で受ける一方、「成り上がり回胴録」を「いそまる」ではなく「スロパチステーション」で受けることが圧倒的に多い。これは、恣意的な言葉選びである。そう、私は、寺井一択が「寺井一択」である所以は「寺井一択彼自身」によるところが大きいと考えている一方で、「いそまる」という人物がここまで成り上がることができたのは、いそまる自身の力よりも、スロパチステーションという組織・組織としての編集力・動画構成ないし構想力によるところが圧倒的に大きいと確信しているからである。言い換えれば、スロパチステーションの編集部門はScoop TV!のそれよりも圧倒的にいい仕事をしている。
かつていそまるは、「成り上がり回胴録は僕一人が成り上がる物語じゃない」と述べた。有言実行。彼は、彼の良さを最大限に引き出してくれる組織とともに、果たして成り上がりを実現させたのである。
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