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涙。

 ただ溢れ落ちてくる涙を拭うこともなく呆然とし続けていた。

 それは救いでも解放でもなくて、ただ自然にそのままの状態、雨が空からこぼれ落ちてくるような、木々の葉に溜まっていた雨粒が風に揺らされてこぼれ落ちるような現象。
 そんな感じ。

 泣くなんて。
 
 ただ必死に前だけを見て歩き続けてきたから泣いている余裕なんてなかった。
 泣いている自分が不思議だった。
 自分ではないような気すらしてどうしたらいいのかわからなかった。

 あまりにもめちゃくちゃで訳がわからなくなってしまっている今をどんなふうにまとめたらいいのかもうわからなくなっている。

 そしてただ涙がこぼれて止まらない。
 こぼれ落ちた涙で濡れている頬と手のひらとタートルネックの襟元とセーターの胸の辺りを柔らかなタオルでそっと拭いたい。

 からだが浄化したがっているのか心が浄化したがっているのか自分でもわからない。
 突然あふれ出して止まらなくなってしまった涙に驚いて呆然としている私を白いレースのカーテンを通して部屋の中に差し込んでくる夕方前のオレンジ色の淡い光が照らしている。

 胸に心にからだの中に溜まり切っていたもやもやが波になって溢れてくる。

 からだや心が抱えきれない汚れたものを捨てるために涙はあるのかもしれない。

 私は今涙をこぼしているけれど、泣いている自覚はない。 
 ただ込み上げて流れてくる涙を止める術がわからないだけ。

 浄化でもなく解放でもなく、ただあふれ出してくる涙を止められず泣いている。

 夕方前の不意の波は私を戸惑わせて止まらず、私は呆然とするだけ。

ありがとうございます。 嬉しいです。 みなさまにもいいことがたくさんたくさんありますように。