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お化けなんて


母親から聞いた話だが、幼少期の僕には霊感があったらしい。

よく何もない空間を指差しては「誰かいるよ」と言っていたそうだ。

今では自分が子どもを育てる立場になったわけだが、当時の僕の言動はおそらく「大人に構ってほしい」という気持ちの表れだったのだろう。娘も似たようなことを言うことがある。

ただ、母親が神妙な顔で何度も「霊感が…」と繰り返すものだから、僕自身も学生の頃はそう信じてしまっていた。

シャンプー中に背後からの視線を感じて振り向けなくなったり、自室のドアを開けた際に白っぽい人影を見た気がして絶叫しながら逃げ出したり、閉めたはずの玄関のドアが開いていたり…といった「あるある」も、「霊感がある」僕にとっては気のせいと割り切れず、大声で歌うなどして恐怖心を紛らわせていたものだ。

そんな恐ろしい経験も、県外の大学に入ってからはパタリとなくなった。

母親による暗示が解けたのかもしれない。そう思っていた。


卒業して地元に戻り、縁あって結婚した僕は、ありがたいことに母親から実家の土地と建物を譲ってもらった。建物は古くなっていたため取り壊し、新しく家を建てた。

この家に住んで2年が経つが、娘がたまに「あっちにいるのは誰?」と言う。僕自身も、2階の窓の外を人の頭が通るのを見た。

霊感がないはずの僕は、今日も娘と自分に「お化けなんてないさ」「お化けなんて嘘さ」と歌って聞かせる。

#眠れない夜に

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