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羽生結弦『GIFT』鑑賞記 ①風見鶏ボアブルゾン

「死ぬまでに一度でいいから生羽生を観たい」

ソチ落ちしてからずっと私の心にあったこの願い。
私は何度も余命宣告をされてきた難病患者だが、発病時5年生存率0%と言われて以来、なぜか毎年生存率が増加するという不思議な現象を引き起こしてきた。要は、なかなか死なずに生きた。その理由のうちのひとつは冒頭に戻る。
「死ぬまでに一度でいいから生羽生を観たい」・・・これだ。

今回、一発SS席当選のミラクルが私の身に降りかかった。
喜びより先に立ったのは「この願いが叶ったら私は死ぬのでは」という不安だった。
や、むしろこれで死ぬなら本望ではないか。2月26日に向けて体調を整え、万全の体調で臨もう。私はいつにも増して体調に気遣って暮らした。
開演5日前に娘一家がノロウイルス感染症で全員倒れ万事休すとなったが、神は私を見放さなかった。あれほど吐しゃ物にまみれたというのに、私は全く感染せず、むしろ体調に気遣って暮らしていたせいか、当日は気分爽快、体調は絶好調だった。Twitterフォロワーがやさしい言葉をかけてくれて、勇気が出た。嬉しかった。

が、私には難病の持病よりも深刻な問題があった。
障害者レベルの方向音痴なのだ。
「 ” 障害者レベル” などというのは本当の障害者に失礼だろう」と言われたことがあるが、それは私の重症度を知らないから言えるタワゴトである。

例を挙げよう。
新宿から北関東の我が家に車で帰ったが、気がついたら横浜にいたことがある。
友達と駅で待ち合わせして北口と南口を見違えるなどはデフォである。
駅のトイレに行ったがいいが、どっちから来たかがわからず、適当にホームに行き、乗る電車を間違え、なんだか知らない町に行ったこともある。そして、元に戻れず泣き、友達に迎えに来てもらったことがある。
「なぜさっきまで居たところに戻ってこられないのか」と詰問されても、仕方ない。方向音痴というのは自力では直せない。直しようがないんだ。
「だいたいこっちかな」は100%外れるようにできている。

なので、まず最初の難関が「一人で東京ドームに辿り着けるかどうか」だ。
だが、そこは多方面に気配りできる我が推し。
なんと、『GIFT』公認のお揃いのボアブルゾンを販売してくれた。これは救いだった。
後楽園駅に行けさえすればそれを着ている人がうじゃうじゃいる。白のGIFTボアブルゾンだけを見て歩けば自然と東京ドームまで誘導されるという魔法のような手筈。さすが羽生結弦。方向音痴にも優しい羽生結弦、や、最高だ。

そしてほら、やったやん、ちゃんと着けた。東京ドームが来た。デカいわ。
開場まで2時間弱。自分の入るべき20番ゲートを確認する。意外とすぐ見つかる。
そこから離れないようにしよう。無駄に動くときっとここには帰ってこられない。さすがのGIFTボアブルゾンもゲート番号までは書いていない。

フォロワーにアドバイスされて持ってきた保温グッズのおかげで、外にいても全く寒くないのが救いだった。
だが、いくらなんでも着すぎではないか。しまむらヒートテック、その上にはユニクロのタートルネックのヒートテック。黒のセーター、もこもこベスト。その上にGIFTブルゾン。5枚着ている。下は厚手のタイツにヒートテックにジーンズに厚手の靴下とブーツ。どっからどう見ても着ぶくれダルマ婆である。
まあいい、ひとり後家のことなど誰も見ていない。自分の恰好などなんでもいい。とにかく寒いのだけは勘弁だ。

15:00に中に入り、待ちに待った自分の席を確認する。
SSアリーナ席、なんやかんやで28000円は優にかかっている。さぞかし前の方かと期待していたら、なんと1階席の遥か後ろ。40列目。しかもすぐ後ろは機材。実質一番後ろ。しかも一塁側の真横だ。巨大スクリーンを横から見てもなんのこっちゃわからんじゃないか。心底ガッカリする。

同じSS席でも1列目とは50メートル以上離れている。しかも、氷はさらにその先。何百メートルあるのこれ。これじゃあご尊顔など観えない。心底失望していたら、前に座った80代くらいのお婆さんがお孫さんに連れられて「本当にありがたいことねえ…」と言っているのが聞こえ、自分を恥じる。そうだな、文句言ってちゃ罰が当たる。当選できなかった人はごまんといるんだから。気を取り直して巣作り。席にカイロ入りの座布団を置く。左右の人はまだ来ていない。

②に続く

※写真はコンコースから望遠で撮影したもの。
指示通り、会場内では撮影していません。

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