考える技術・書く技術 フェーズ3の補足
考える技術・書く技術の解説note(https://note.com/kirakuni_ikiyou/n/nff52578a84b5)を上梓しましたが、こちらのnoteでは書籍の内容になるべく忠実な解説を書いたため、本来であればもっと深く書けるはずの内容を書いていませんでした。そこで、フェーズ3の内容(要因分析)をより詳しく掘り下げてみます。別の言い方をすれば、論点設定をする方法ですね。
まだ読んでいない人は先に読んでください。
ただし、考える技術・書く技術の内容とは大きく異なるのでそこは注意して下さい。
フェーズ3では、「問題はなぜあるのか?」を探るための方法を書き、構造、因果関係、分類によるグループ化が可能であると書きましたが、僕はこのフェーズをさらに5つのステップに分解しています。本の内容とは全く異なり、あくまで自分の要因分析手法でしかありませんが、参考程度に見てください。
STEP1:論点候補(=問題=要因)をできるだけ多くリストアップする
STEP2:リストアップした論点候補を構造化する
STEP3:論点(=真因)を1つか2つに絞り込む
STEP4:論点を検証する
STEP5:論点をサブ論点に分解して構造化する
●STEP1:論点候補をできるだけ多くリストアップする
R2とR1を隔てる問題は複数あります。そして、その複数ある問題の中に、真に解決すべき問題である論点が潜んでいます。
しかし、問題(=論点候補)をリストアップするのは容易な作業ではありません。みなさんも経験があるかもしれませんが、問題だと思っていたものが実は問題ではなかったことは頻繁にあります。
これは、「真因はそっちだったか!」と見落としてしまうケースです。いくらリストアップし切ったと思っていても、見落としてしまうことがあります。これが論点候補のリストアップを難しくさせています。
このような見落としを防ぐためには、R1を複眼的に観察して見落としがないようにする必要があります。そのための方法論は以下の通りです(下記の方法は解決策のリストアップにも使えます)
複眼思考によって(=視野・視座・視点・深さを変えて)論点候補をリストアップする
(1)視野
視野=見渡す角度の広さ。つまり、同じ階層でMECEになっているかどうか。
MECEになっているかどうかを確認することによって、ツリーの同じ階層での見落としを防ぐことができます。多くの場合、見落としがある時は深堀りができていない場合ではなく、同じ階層での見落としがある場合です。
MECEになっているかどうかを確認する方法は構造化の方法によって異なるので、STEP2で詳細を後述します。
(2)視座
視座=物事を俯瞰的に見たり、抽象度の高い位置から観察できているかどうか。
視座を高めて問題を観察する方法は以下の2つです。
(a)2つ上のポジションの立場で考える:これは、「○○さんならどう考えるか?」といったように、別の人になりきって考えることによって論点候補を見つける方法です。○○に入るのは、部長や社長などの役職の場合もあれば、自分より高い結果を出している人の場合もあります。後者に関して具体例を挙げると、自分が年収500万だとするなら、「年収1000万の人ならどう考えるか?」と思考を巡らすことですね。実際にインタビューしてみるのも手。ちなみに、「2つ上のポジション」と書きましたが、あくまで便宜上2つ上と書いただけであって、必ずしもそれに従う必要はありません。
(b)目的と手段を区別したり抽象化することによって、上位概念の論点候補や異なる論点候補を浮上させる:解説noteで具体例として挙げたオリンピックの例を思い出して下さい。オリンピックの例では、「なぜ金メダルの獲得数を増やしたいのか?」と目的を問いましたよね。そして、金メダルの獲得数を増やすことが必ずしも目的になるとは限らず、上位目的の手段になる可能性があることを示しました。このように、「なぜそれが問題なのか?」と根拠を問いかけることによって、上位概念の論点候補を浮上させることができます。
また、リストアップされた論点候補を抽象化することによって、抽象と具体の行き来が出来るようになり、異なる論点候補を浮上させることができます。例えば、「頭痛がする」という問題を解決するために、あなたはR1を引き起こす原因の候補をいくつかリストアップしたとします。ここでは、天候不順による偏頭痛とストレスがリストアップされたとします。この時、「ストレスを抽象化するとどうなるだろう?」と考えると、「精神的要因」であることがわかります。次に、「精神的要因になるものは他に何が考えられるだろう?」と考え、「鬱状態」という論点候補が新たにリストアップされます。今行った知的操作は、論点候補を抽象化し、さらにその抽象部に関連する具体例を浮上させたことです。つまり、抽象と具体の行き来をしたということです。
以上のような2つの知的操作を行うことで、論点候補をリストアップすることができます。
(3)視点
視点=着眼点やパラダイム。つまり、1つの対象を様々な角度から観察出来るか。立方体を様々な角度から眺めるイメージです。このように書くと、視野と視点の区別がつかないかもしれませんが、経済学部の学生を例に取ると、視野が広いというのは、経済だけではなく政治、宗教、心理、哲学、法律、数学、物理学、医学など幅広い分野に対して造詣が深いことを指します。つまり横展開ですね。一方、ある経済現象を多角的(数学的観点、哲学的観点、行動心理学的観点など)に読み解ける人は、視点が違うと言えます。つまりどのパラダイムから思考するかですね。
視点を変える方法は主に次の4パターンです。
(a)逆から考える:通常で考えられてる方法とは逆の視点で考えることです。具体例をいくつか挙げましょう。
例えば、一般的な勉強法では、問題集を買ってきてそれを解いて、解き終わったら過去問に移りますよね。では、これを逆から考えてみましょう。常識的なステップとは異なり、まず最初に過去問を解いて、解き終わったら問題集に移るというやり方も考えられるのではないでしょうか?過去問を解いた後の方が出題傾向が分かるため、あれもこれも手をつけてしまうのを防ぐことができます。
さらに、問題集を解くときも、問題を見る→自分で思考を展開させる→答えを導くという順序が一般的な進め方ですが、これも逆から考えて、問題を見る→すぐに答えだけを見る→思考を展開させて問題文と答えの間にあるロジックの間隙を埋めるというやり方も考えられるでしょう。人間は一から順にロジックを展開させることに向いていないので、答えだけを最初に見てそこから逆算していく方法の方が解きやすいと言えます。もちろん勉強内容によります。マーク式の問題だと効果は半減されるでしょう。
また、ビジネスに関する例を挙げると、一般的には「業界一位」をアピールすることがブランディングの定石ですよね。
しかしこれも逆に考えてみましょう。業界一位でなければアピールする資格がないという固定観念を持っている方は多いと思われますが、「もし業界一位でなくともアピールできるとしたら?」と考えてみます。そうです。「業界二位」や「業界三位」とアピールするのです。これを実際に行った会社があります。そうです。KDDIです。KDDIは「二位が世界を面白くする。通信業界現在二位」というコピーでCMを流しました。それにより、KDDIは認知度を上げることに成功しました。
以上のような考え方をするためには、3つの方法があります。
①ゼロベース思考:ゼロベース思考とは、前提を覆す考え方のことです。例えば、結果が出てないのに頑なに自分が正しいと信じ込もうとする人がたまにいますよね。これは本当に愚かな考え方で、結果が出てない時は「間違ったことをしている気はしないけど、結果が出てないって事は何か思い込みや見落としがあるんだろうな」と現実ベースで考えて修正するようにした方がいいですね。こういう状況(=自分の考えが間違ってるようには見えないが、現実ベースで考えると誤りであることが指摘される状況)で役に立つのがゼロベース思考です。結果が出ていない以上は思考に誤りがあることは明らかですから、前提をひっくり返して考え直すと良いですね。
前提をひっくり返すコツは、自分の考えを言語化して、主張・根拠・前提の3つに分解してみることです。これら3つの要素はそれぞれ2つが因果関係を成しており、主張と根拠が因果関係であり、根拠と前提も因果関係です。前提は根拠の根拠ですね。このように言語化することによって、頭の中で処理するよりもずっと簡単に自分の考えを覆すことができます。
②制約発想や自由発想を行う:現状の考え方を疑い、「もし〜だとしたら?」と様々な仮定を置いてみる。制約発想は、いわゆる縛りプレイ。条件をあえて厳しくすることによって発想を生み出す。自由発想は制約発想の逆で、条件を取り払って思考する方法。このように様々な仮定を置くことで、これまでには考えられたかった常識外れな論点候補や解決策を発想することができます。例えば、あるタスクを処理するのに3時間をかけているとしたら、「このタスクを30分で処理するにはどうすれば良いだろうか?」と考えてみます。こうすることで奇想天外な発想が浮かんでくることがあります。
③逆張り思考:これは他の人の逆の思考をすることですね。みんなが右に行ったらあえて自分は左に行ってみる。みんなが常識を信じていたら自分は常識を疑ってみる。このような考え方です。パイが限られている競争では勝者は常に少数に限られており、ほとんどが敗者となります。したがって、敗者の思考・行動を観察して敗者に対して逆張りすることによって、勝率を上げることができます。
(b)他の立場から考える:キーワードは、「○○だったらどう考えるか?」。
業界最下位の視点:「業界最下位なら資源も知名度も少ない。もし自分が業界最下位なら、この状況をどう乗り切るだろうか?」
現場視点:「現場の人たちはどのような不満を抱えているだろうか?」「この施策は現場の人たちにどのような影響を与えるだろうか?」
顧客視点:「顧客にとってこの製品は満足の行くものだろうか?」「私が顧客なら、どのような商品・サービスを望むだろうか?」
経営者視点:「経営者ならこの問題についてどう考えるか?」
年代別の視点:「子供にはウケる商品かもしれないが、中高生や大学生にもウケるだろうか?」
性別の視点:「女性にはウケるかもしれないが、男性にもウケるだろうか?」
職業別の視点:「金融業界で働く人ならどう考えるか?」「コンサル業界で働く人ならどう考えるか?」
学問別の視点:「数学的に考察するとこのような結論が出るが、哲学的に考察したり経済学的に考察するとどのような結論が出るだろうか?」
外国人の視点:「この状況でアメリカ人ならどうするだろうか?」「イタリア人の顧客なら何を好むだろうか?」
持たざる者の視点:「資金や時間がない人ならどうやってこの問題を解決するだろうか?」「軍事力が劣る国家ならどのように敵国と対抗するだろうか?」など。いわゆる弱者の戦略。
反対者の視点:「もし自分の考えに反対する者がいるとしたら、どのような反論をするだろうか?」
時代別の視点:「今のようにハウツー本が出版されていない時代の人たちはどのようにしてこの問題を解決したのだろうか?」「人を殺してはいけないという規範は、歴史的に見て常に正しかったのだろうか?」
など。実際にインタビューをしてみるのも手。
このように考える理由は、どれだけ賢い人でも人間には盲点があるので、自分だけの視点を頼りにすると見落としが発生してしまうから。反対者や顧客視点、現場視点などの他の立場から考えることによって、見落としを防ぐことができる。
(c)アナロジー:類推。つまりパターン認識のこと。自然界や日常生活、他業界、業界内などで類似事例があれば、それを参考に論点候補をリストアップしてみる。例えば、市場環境を川の流れになぞらえてみるのもアナロジーの1つ。市場が成長している時は儲かりやすい一方で市場が衰退している時は儲かりにくい。これは川の流れになぞらえれば、順流と逆流の関係と言える。アナロジーを行うには、問題をパターン化して類似の具体例や法則を頭の中の引き出しから引っ張ることがコツ。アナロジーは、論点候補のリストアップにも使われるし、論点の絞り込みや検証にも使える。
(d)時系列:中・長期的視点や短期的視点。時間の変化によって問題は変化するので、「長期的or短期的に考えたらどんな論点候補が浮上するか?」「10年スパンで見ればこれは論点候補になりうるが、1年スパンでは時間が足りないので論点候補にならない」などと考えてみる。もちろん、時系列による視点は論点の絞り込みや検証にも使える。
(4)深さ
深さ=何段階目まで掘り下げられているか。これには大きく分けて2つの方法がある。
①What,Whyで掘り下げる:最も典型的な方法は、望ましくない出来事が起こった時に、その要因についてWhyを5回繰り返して真因を特定するやり方だが、Whatで掘り下げることもある。例えば、「良い上司になりたい」というR2があった時に、「そもそも良い上司って何だろう?」と掘り下げてみることも可能。WhyツリーとWhatツリーによる掘り下げは下図を参照。
なぜ5回で論点候補をリストアップすると必ず因果関係の構造になるが(STEP2を参照)、問題が発生した原因を特定する上では非常に使いやすい手法である。Whyツリーの1段目は、解説noteのフェーズ2で記述したようにR1が発生した構造またはプロセスが反映される。一段目はMECEにすることが要因を特定する上でのポイント。
②Q&A方式:問題解決の基本はQ&Aなので、何が疑問点なのかをできるだけ多くリストアップしてみるのもコツ。例えば、「言語化能力を高めたい」という目標が発生した時に、「そもそも言語化とは何か?」「なぜ言語化が大切なのか?」「言語化能力を高めるにはどうしたら良いのか?」といったR2やR1に付随する疑問をできるだけ多く書き出してみる。そして、それぞれの疑問に対して現時点でわかっている情報を書き出し、そのわかっている情報から疑問に対する答えを推測する。簡潔に書いたが、このやり方は非常に強力な方法である。というのも、何かの分野に卓越している人は、疑問点がほとんどないことが特徴だからである。例えば、大学受験で東大模試一位を取るようなレベルになれば、その科目については解けない問題がほとんどないと言っても過言ではない状態になる。また、恋愛も同様で、超一流のナンパ師は声かけやアポなどの一連の作業において、「どのようにしたら良いか分からない」ということがほとんどない状態にある。このように、何かに卓越する上では、Q&A方式で掘り下げてQuestionを次々と解消していくやり方は非常に強力な方法と言える。
以上のような複眼思考を行うことによって、論点候補をいくつもリストアップすることができます。
ここまで読んで、「ものすごく大変だ」と思われた方もいるでしょう。そのような方は、「メモ書き」によって論点候補を紙面上にリストアップすることを推奨します。頭の中で処理できずとも、このnoteの内容(視野、視座、視点、深さ)を見ながら紙面上にアウトプットすれば、何とか論点候補をリストアップできるでしょう。
また、ぼーっとしている時やリラックスしている時に論点候補が突然思い浮かぶことがあります。このような場合もあるので、もしリストアップが行き詰まったら、散歩やジョギングをしたり入浴をしたり瞑想をしてみましょう。パッと閃くことがあるかもしれません。
他にも、誰か頼りになりそうな人と会話(ディスカッションやインタビューなど)をしてみたり、現場に行ってフィールドワークを行うことによって論点候補をリストアップすることもできます。
箇条書きでまとめると、
・メモ書き
・突然閃く(散歩中、ジョギング中、入浴中、瞑想中など)
・誰かと会話をする
・フィールドワークをする
ですね。
繰り返しになりますが、以上の方法は解決策のリストアップにも使えます。
●STEP2:リストアップした論点候補を図式化する
このSTEPは解説note(https://note.com/kirakuni_ikiyou/n/nff52578a84b5)のフェーズ3の内容と全く同じです。つまり、構造、因果関係、分類ですね。省略します。
●STEP3:論点を絞り込む
STEP3では、論点の絞り込みを行います。STEP2で図式化した各論点候補の中から真因を特定する作業です。真因が特定出来たら、それに対して解決策を与えます。解決策を与える方法はフェーズ4と5で説明します。
さて、論点の絞り込みをするわけですが、絞り込みを行うには何かしらの基準や情報を定める必要があります。
これについては、国語の問題を思い浮かべれば容易に理解できるでしょう。国語の問題では選択肢が4つ、多くて6つほど与えられますが、それぞれの選択肢は本文の情報を基準にして消去していきます。つまり、何らかの基準や情報に基づいて絞り込みを行なっているということです。
他の例としては、Amazonでのショッピングが良い例でしょう。Amazonで検索を行う際には、キーワード検索の他に、価格帯で絞り込んだり商品のジャンルで絞り込んだりすることが出来ます。つまり、何らかの基準や情報を定めて絞り込んでいるということです。
では、論点候補を絞り込む際の基準は何でしょうか?それが下記に該当します。
論点度は次の4つの基準によって設定されます。
①解けるか解けないか
②解けるとして、実行可能か
③実行可能として、効果が見込めるか
④効果が見込めるとして、他者と差別化が図れるか
以上の4つの基準に基づき、論点度を5段階で評価します。レベル3以下は解決する必要のない論点であり、レベル4以上は解決する必要がある論点です。
レベル1:そもそも解けない論点
レベル2:解けるが実行できない論点
レベル3:解けるし実行もできるが、効果が見込めない論点
レベル4:解けるし実行もできるし効果が見込める論点
レベル5:解けるし実行もできるし効果も見込めるし他者と差別化が図れる論点
イメージとしては、各論点候補を箱の中に仕分けしていくイメージです。解決するべき問題を入れる箱と解決する必要のない問題を入れる箱ですね。
ところで、なぜこのような基準になるのでしょうか?
それは、問題を解決する目的がR1からR2に移動することだからです。解くことすら叶わない論点やコスト・時間的に実行が難しい論点、効果が見込めない論点にいつまでもしがみついていては、R2に到達することが出来ません。したがって、R2達成に大きく前進するような論点を特定する必要があります。特に、なるべく簡単に解決できて実行も容易で、かつ大きな効果が見込める論点を見抜いて、実行することが大切になってきます。つまり、レバレッジが利く(=少ない労力で大きな成果が見込める)論点を見抜くということです。
もちろん、難問を解くなと言っているわけではありません。研究者なら一生をかけても解けるかどうか分からない難問を解決しようとすることは大切でしょう。
しかし、ビジネスにおいては解くのに時間が掛かる超難問を解いても一部の例外を除けばそれほど価値はありません。
一部の例外とは、貧困問題の解決や世界平和の実現などの地球規模の難問です。このような難問を何十年もかけて解決できれば、ノーベル賞受賞は確実でしょう(解説note+本noteに掲載している問題解決手法をこのような超難問に用いることは可能かもしれません)。
では次に、論点候補を絞り込む具体的な方法を説明します。論点候補を絞り込む方法は次の通りです。
①直観力ベース:既知のファクト(現象や観察事実)、経験、勘に基づいて、容易に消去できる論点候補から順に直観で消去していく。あるいは、「これだ」と思う論点を直観的に見抜く。
②論理力ベース:矛盾を見つけて論点候補を消去する。これには2つの方法がある。
(1)因果関係:「論点を解くことによって直接的に結果が得られる」と確信するまで論点を批判的に捉える。これは、行動のステップで因果関係を言語化して論理的な飛躍がないかどうかを確かめれば良い。
例えば、年収1,000万以上の男と結婚すれば幸せになれると考えている婚活女子がいるとする。
この考えに論理的な飛躍がないかどうかを検討するために、ステップ形式で女性の頭の中を記述してみよう。
STEP1:年収1,000万以上の男性と出会う
STEP2:その男性と仲良くなり、付き合う
STEP3:数年後あるいは数ヶ月後、結婚する
STEP4:幸せになれる
このような時系列が存在するが、STEP3とSTEP4の間に論理的な飛躍がある。
結婚する→幸せになれるは本当に正しいのか?
年収1,000万以上の男性と結婚することで直接的に得られる結果は、年収1,000万以上の旦那を持つということだけだ。幸せになれると考えているなら、それはバイアスでしかない。
この女性のように、風が吹けば桶屋が儲かる的な発想をしている方は非常に多い。結婚して幸せになれるかどうかは間接的(=副次的)な結果にすぎない。
このように、因果関係を言語化して直接的に結果が得られるか?を批判的に検討することによって、論点候補を絞り込むことができる。
(2)比較:条件を同一にして他の業界や企業、人と比較してみる。「同じ条件・状況でも他の企業には当てはまっていない」と分かれば、論点候補から外すことができる。例えば、利益低下の原因を探るケースを考えよう。この時、まず最初に考えることは、「同じ業界の競合他社も全て利益低下しているのか」である。もし利益が低下していない会社があれば、業界全体から来る原因ではなく、企業固有の問題であることが分かる。
③リサーチベース:直観力を駆使しても論理力を駆使しても消去できない論点があった場合、詳細を知っていそうな人(専門家など)にインタビューしたり、問題の依頼者にインタビューしてみたり、誰かとディスカッションしてみたり、インターネットや文献を参照して絞り込む。
最初は直観力ベースで絞り込みますが、直観で消去できないような判断の難しい論点は論理力を駆使して消去します。それでも判断できなければ、リサーチを行って絞り込みます。もちろん、順序に決まりはありませんので臨機応変に絞り込んで下さい。
しかし、これだけでは分かりにくいかと思うので、いつも通り具体例を挙げましょう。
R1はROIの低さですね。論点候補は膨大な量がありますが、ここから絞り込んで行きます。
前述したように、絞り込みを行う際は何らかの情報や基準を与える必要があります。直観力ベースで絞り込む際は、既知のファクト(現象や観察事実)、経験、勘に基づいて絞り込みます。
例えば、もし事前に製品の品質やデザイン、製品ラインに問題がないことをファクトとして知っていれば、製品が原因ではないことが容易に見抜けるでしょう。また、経験的に「ROIが低い場合は○○が原因ではないことがほとんどだ」ということを知っていれば、それはそれで容易に論点候補を消去できるでしょう。
このように、まずは容易に消去できそうな論点候補から先に消去していきます。国語の問題と同じですね。国語の問題でも、容易に消去できそうな選択肢から消去して、残りの2択に頭を悩ませる問題が多いです。
直観力ベースで絞り込めるところまで絞り込んだら、次は直観では判断できない論点候補を論理力ベースで消去していきます。論理力ベースでは、矛盾を導くことによって消去するのでしたね。
ここでは、市場状況が論点候補として残ったとしましょう。市場状況を上述した方法で消去しようとするなら、ROIの低さが他の企業にも現れているかを観察すれば良いのです。そうすれば、自社のROI低下の原因が企業独自の原因なのか、市場状況によるものなのかを判断できます。
以上のように、基本的には直観力や論理力を駆使して絞り込んでいきますが、中にはそれでも絞り込めない論点候補もあります。その場合、インターネットや文献を参照してみたり、詳細を知っていそうな方や顧客に質問をしてみます。
もし上記の方法でレベル4以上の論点が見つからない場合、STEP1に戻って新たな論点候補をリストアップして下さい。
●STEP4:論点を確定(検証)する
STEP4では、STEP3で決定されたただ1つの論点が本当に論点として正しいのかどうかを検証します。STEP3での決定事項はあくまで仮説に過ぎないので、その検証を行ってから論点の確定を行うというわけです。
論点を検証する方法は3通りあります。
①現場に出て一次情報を得る
②頭の中の引き出しを参照する
③プロービングを行う
④依頼主の真意を探る
です。①と②は自分一人でも出来ますが、③と④は相手との対話を通して行うものなので、一人では出来ません。しかし、非常に重要度の高い検証方法であることは間違いありません。
では、それぞれを見ていきましょう。
①現場に出て一次情報を得る
これは文字通り、直接現場に行って決定された論点が正しいのかどうかを確認する方法です。別の言い方をすれば、フィールドワーク(実地調査)ですね。
まあ机上の空論にならないようにすると言いますか、理論と実践は違うと言いますか、現場を見ないと分からないことは多いですね。
現場を見ることは仮説の構築にも検証にも、どちらにも使えます。
②頭の中の引き出しを参照する
これは類推による検証です。類推とは、パターン認識のことです。したがって、類推による検証とは、解決しようとしている論点と似たような問題を頭の中から引っ張り出して検証を行うことを指しています。
また、これは数学や理科と似ていますね。数学や理科の問題を解くときは、問題と対峙した時に過去に似たような問題を解いたことがあるかどうかを確認するでしょう。そして、類題を解いたことがあるのであれば、その類題の解法に照らし合わせて直面している問題を解こうとするでしょう。それとほとんど何も変わりません。
ここでは、引き出しの活用の仕方と引き出しを増やす方法の2点を説明します。
●引き出しの活用の方法
(1)アナロジー:まず論点を類型化し、同様のパターンの事例を頭の中の引き出しから探します。類型化することが最大のポイントです。そして、業界内や他業界で起きたこと、過去に経験したこと、もし持っているのであれば自作の事例集を直面している論点に当てはめてみます。そうすることによって、「前例があるのでこの論点で間違いないだろう」「前例から考えると、これが論点とは言い難い」などの判断ができるようになります。
(2)他の人の立場で見る:顧客視点(女子高生、主婦、男性社会人、子供など)、経営者視点、現場視点など。他人の視点で物事を見れるかどうかは、引き出しに関係がある
●引き出しを増やす方法
(1)日頃から問題意識を持つ:前提として、日頃から問題意識をもってアンテナを張っておく必要がある。
(2)知識量を徐々に増やしていく:アンテナに引っかかった問題を分野別に分類しておき、自分だけの問題集や事例集を作成する
引き出しについては以上になりますが、重要なことは、結晶性知能が問題解決能力を高めるということです。試験勉強と同様に、ストックが多いほど問題を解く能力が上がります。
③プロービングを行う
プロービングとは、主に定性調査において、あいまいな回答、不完全な回答の補完・深堀をすることです。例えば、「あまり購入したいと思わない」といった回答に対して、「なぜそのようにお考えになったのですか?」と、さらにその理由を深く聞くことがプロービングの1つですね。プロービングは論点の検証だけでなく、仮説の構築にも使えます。
コンサルティングにおいては、相手から与えられる論点と自分が考える論点が食い違うことがあります(=相手が考えている論点とSTEP3で絞り込まれた論点の食い違い)。したがって、相手との対話を通して、相手がどのような論点を想定しているか探り、お互いの考え方のギャップを解消する必要があります。"Barking up the wrong tree"(間違った木に向かって吠える、見当違いという意味)になったらバリューを産み出せませんからね。
相手の論点を探るためのアプローチは以下の2つです。
(1)質問を通して相手の話を聞く:いわゆるヒアリングやインタビューですね。第4章の冒頭で言及したお医者さんの例がまさにプロービングです。
相手から「○○をしたいんだけど、どうすればいい?」という相談を受けた時、情報が少なすぎてどうアドバイスをしたら良いか分かりませんよね。そこで、具体的な状況を相手から聞き出して、深堀りをしていきます。主に仮説の構築に使いますが、仮説の検証にも使えます。例えば、相手から「○○をしたいんだけど、どうすればいい?」という相談を受けた段階で既に何らかの仮説が構築されているとしましょう。その場合、質問をして情報を聞き出すことによって、自分の仮説に誤りがなかったかどうかを確かめることができます。
(2)仮説をぶつけて反応を見る:これは(1)と似ていますが、少し違います。(2)では、「私はこう思うんだけど、どうかな?」といった具合に仮説をぶつけて相手の反応を見ます。
例えば、「ソフトバンクグループがヤフーを買収した件について、私はこのような背景があると思うんだけど、どうかな?」と仮説をぶつけるとします。すると、「いや、それは違うよ」とか「確かにその通りだ」といった賛否を示す反応があったり、「その件についてはこのような背景が考えられるのではないかな」といった議論を展開させる反応があるでしょう。
こうして、相手の反応を参考材料として扱うことによって、自分の仮説を検証したり、より多角的な視点で捉えることができます。もちろん、仮説をぶつけて反応を見ることは仮説の構築にも使えます。
④依頼主の真意を探る
相手の発言の真意やバックグラウンドを探って論点を検証する方法です。
人間はロジックだけで動く生き物ではないので、どんなに理屈では正しいことを言っていても、感情面を無視した問題解決策であれば相手には受け入れられません。ですから、相手の立場に立って求められてるものを提案する必要があるのです。
この検証方法は、「論理面だけではなく感情面から見ても論点が正しいと言えるか?」「ちゃんと相手のニーズに応えているか?」「独りよがりになっていないか?」を確認する方法ですね。
●STEP5:論点をサブ論点に分解して構造化する
STEP(1)~(4)を経て大論点が確定したら、その大論点を構造、因果関係、分類の3パターンで中論点・小論点に分解していきます。これはどういうことかと言うと、大論点を「解決すべきゴール」とした場合、その下にはいくつかのサブゴールが連なっているということです。例えば、「東大合格」を目標にしている人は、そのサブゴールとして「模試で偏差値○○を出す」「この問題集を○月までに終わらせる」などがありますよね。それと同じです。大論点を解決するにせよ、いくつかのサブゴールが存在します。
この時、MECEに整理することにこだわる必要はありません。虫食いの論点ツリーでも良いので、わからないところは?にしておいて先に進むようにしましょう。
また、構造化には大論点を検証する役割もあります。論点を構造化し、自分がどこの論点について議論しているか、他人や反対者がどこの論点について議論しているかを地図化したり、大論点の根拠を明らかにして上位概念を浮かび上がらせることで新たな論点が浮かび上がります。
この図では、「最上部ポイントの直接労務費を減らす」が大論点に当たります。そして、次の階層が中論点に当たりますね。論点を分解したツリーはこのようになります。
noteの内容は以上で終了です。お疲れ様でした。
頭の中の整理のため、解説noteと本noteの内容を図解したものを貼っておきます。
https://twitter.com/urddtfuddogrr/status/1206807786669015040?s=20
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