選考申込の記録

はじめに

座・高円寺の芸術監督が公募され、杉並区の職員として採択されたということは、とても重要な出来事として記憶しておきたい。というふうに客観的に振り返るにしても、いや自分は応募する側だろう、と思ったので、「杉並区立杉並芸術会館(座・高円寺)芸術監督選考申込書」に記入し、送付した。が、必要資料の部数が足りなくて不受理となった(早めに送ったので窓口の方が丁寧に知らせていただき、がんばって追加で送ったけど間に合わなかった)。こんなまぬけが万が一にも採用されなくてよかったと思う。が、今後の舞台芸術の世界の一部を多少なりとも担うつもりのある自分自身として、本気になってこれについて考え、またいずれ来るであろう似たような機会に対して、少しでも具体的な準備ができたということについて、ありがたい気持ちでいる。

施設に対してエントリーの書類を書くということは、個別的な場に対して、自分がなにを考えてきた人間であるかをひそかにおごそかに表明することだと思うので、また別のところに提出すると全く違うことを書くに違いないのだが、とにかくここに記したことは提出時点で構想していた「事実と相違ありません」。

なお、本稿の以下の構成は黒澤世莉さんのエントリを参照した。落選したのに自身の意見を晒すのはたいそう勇気がいることだ(受理されなかったよりマシかもしれないが)と思うが、氏の誠実さからいくと、たいした問題でなかったかもしれない。

タイトルだけバズりに入っていてちょっとだけいやだなと思った。

読み方

見出し:応募要項の項目
本文:谷の作文
なお、書き出してみれば本当にあやしい経歴部分は省略している。

志望理由

演劇作家として活動をしたのち、これと並行して京都の公益財団や行政組織のなかで、演劇やダンスを中心として、多様な芸術のプロデュースに従事してきました。アーティスト、指定管理者、行政と、様々な立場から文化事業に関わることを通じて、より総合的な視点で舞台芸術やこれにとどまらない様々な芸術と、地域の文化振興に貢献できる人間にと目標をおいてきたからでした。
座・高円寺さんについては、次世代育成、地域との関係づくり、トップレベルの舞台芸術の紹介に尽力されてきたとかねてから認識しています。
この度の芸術監督の募集については、長年本職を務めてこられた佐藤信さんからの芸術監督の交代というばかりでなく、行政職員として位置づけられることで、今後の「芸術監督」という仕事のありかたについてメルクマールとしての役割を果たすプロジェクトだと感じております。
ただたんに演劇の専門家として考えると、私よりも突出した成果を重ねた方もいらっしゃるのではとも思いますが、行政・指定管理者・アーティストそれぞれのミッションを高いレベルで拮抗させ、地域の文化活動の拠点となるべきこの劇場において、舞台芸術の振興を通じて文化・芸術活動の活性化を担う新たな「芸術監督」像を日本で構築していくミッションを担う本職には、私のようなキャリアの人間も信任の選択肢として存在すべきと思い、志望させていただきました。

任期5年間を通じたビジョン

初年度については、杉並区や指定管理者、および在籍スタッフによるこれまでの積み上げと方針をよく聞き取り、現行のプログラムやパートナーシップ、また杉並区や東京の文化や舞台芸術をめぐる環境について、改めて知見を深めるとともに、スタッフ各位、市民のみなさんとの意見交換を活性化し、あらたなビジョンを策定する期間に位置づけたいと考えています。
2年度以降のプログラムについては、初年度の現状把握次第ではありますが、大きく下記の3つの課題意識で施設の方向性を検討し、修正の上発信していきたいと思います。
課題意識1:より市民に開かれるべく劇場へ(つまり、劇場は閉じることでできている)
新型コロナウイルスの影響や、社会や経済環境の変化により、市民と舞台芸術との心の距離は人それぞれ大きく異なっていることと想像されます。区民のみなさんに気軽に、非目的的に立ち寄れる場所であるとともに、劇場という区切られた空間でしかできない親密な対話を尊重します。
課題意識2:次代を担う若い世代の紹介と、新たなレパートリー作品の制作
現行プログラムのクオリティを維持しつつ、さらに若い世代のプログラムの紹介を推進します。一定期間任期付きで採用されるにあたっては、常に鮮度が重視されるものと認識しており、これは必須の項目であると考えます。またこうした方々と、劇場が次代につなぐ新たなレパートリーを創作していきます。
課題意識3:アカデミー修了生の成果の報告と、杉並区の地域環境を反映したプログラムづくり
アカデミー修了生のその後の展開に注目し、その活躍を報告する機会を増やします。また、アカデミー修了生は杉並区の輩出する専門人材であり、地域の財産であることを念頭に、杉並区という地域から感得する材料を反映したプログラムを発信します。これには、地域の文化活動支援やネットワークのさらなる多様化への貢献も、必然的に結びついてくるでしょう。

今後の事業展開に向けた基本的な考え方 

運営基本方針(1) 優れた舞台芸術の鑑賞の機会を提供する。

(課題意識2)パートナーシップ関係にある日本劇作家協会との関係を維持しつつ、協会の持つネットワークと、芸術監督や指定管理者の独自のネットワークをかけ合わせ、清新で意欲的な作品を紹介していく。また、若い世代の紹介を積極的に行う。

運営基本方針(2)区民等に対し、多様な文化活動や交流を行える場を提供する。

(課題意識1)現行まで積み重ねられた多世代に開かれた場作りを尊重したうえで、それぞれの世代のモチベーションや課題を共有できるような、横断的なシステムを実装し、世代間の交流を推進する。

運営基本方針(3)舞台芸術の普及・向上を図るための環境をつくり、発展させるための事業を実施する。

(課題意識2)乳幼児から中高生までがプログラムに参加することによる芸術的意義を整理し、「社会の新たな構成員」としての彼ら/彼女らの存在を受け止められるプログラムづくりを推進する。

運営基本方針(4)地域の振興とまちづくりの視点を持って運営する。

(課題意識1)「劇場、音楽堂等の活性化に関する法律」における「共生社会」の実現とはなにかについて、複数の具体的なテーマ設定による対話の機会を設け、まちづくりの考え方の基礎となる部分へ還元する。

運営基本方針(5)区民との協働により施設を運営する。

(課題意識3)芸術監督自らが街へ出て、区民が持つ課題意識の聞き取りを行っていく。また、施設のプログラムについて感想フィードバックを設け、個別の作品への区民の作品への反応を活性化させる機会を創出する。

指定管理者との関わり方

まず、創作現場の制作主体は指定管理者にあると考えます。
芸術監督は、杉並区と舞台芸術をめぐる状況をよく察知し、そのなかで座・高円寺の担うべき役割を指針として示し、これを指定管理者およびこのスタッフのみなさんが、それぞれの専門性に立脚して実施していけるよう助言、ときには批評的な観点で指摘していくことが責務であると考えます。それぞれのスタッフの専門性、企画が持つ独自性を尊重しつつ、個別事業の有り様に館のミッションが多彩なかたちで息づくようブラッシュアップしていくことが、芸術監督の役割であると考えます。

最後に

答えがあかされたものではないしありもしない(それは採用された方と劇場、スタッフ、市民で相互につくっていくものだと思う)ので、今あらためて読んでもなんとも思わないな、と正直思った。
ただ、ひとまずなにも決めない態度を示しているのは特徴があるかもしれない。今後次の現場を考える際にそういう特徴の考え方をする人間なのだろう、とあらためて意識しておこうかなと思った。
あと文字数少ないと思ったとしたら、フォントサイズを変えないことにしていたからである。変えてもいいかもしれないとは思ったが、同僚(もうやめた)が「最近老眼がきついんですよ」と言っていたので、そういうこともあるか、そういう人もいるか、と思ったので、最近はデフォルトの設定で書けるだけで済ますことにしている。ただの個人的な心がけである。
なお、本稿は特にバズることを期待していないし、ふつうにマヌケをさらしているだけなのでそっとしておいてほしい。仕事のお話はメールで承ります。

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