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Double Dutch Contest Japan 2021感想

3/14(日)、数年ぶりに”Double Dutch Contest Japan”を見に行ってきました。

いやー、最近のプレイヤーのレベルアップ、本当にすごいっすね。
昨年はデライトの台風直撃、コンテスト直前の緊急事態宣言などの不可抗力が続き、今年も開催危ぶまれる中で、矜持を持って現地開催を実現したスタッフの皆様には頭の下がる思いです。お疲れ様でした。

毎年レベルの上がり続けるシーン。
そのスピードについて行けずドロップアウトしてしまったのが僕なのですが、色々と思ったこともあり、久々に感想をまとめてみようかなと思います。(喫煙所で煽ってくれたせーやま、ありがとう笑)

歳の離れた現役生向けに自己紹介です

Q.いつの人なの?
D-actのOBで今年30歳になりました。
今回のジャッジだと、KO-YAさんが1個上の代で、JUNKNESSが同期です。(念のため伝えておくと、2人は乱縄のOBです)

Q.どんなチームで出てたの?
現役時代は”ZIXA”、OBになってからは “アゲサゲ”や”DEAD OR BOUNCE”というチームでイベントやら大会やら出てました。
未経験者かつ引くほど下手クソなので「如何に楽して勝つか」を追求したゲリラ戦が主戦場でした。

Q.お前に何か言われる筋合いあるの?
「下手なのにそれなりの順位に残ること」が評価されたのか、ありがたくも3年ほど前まで色んな大会でジャッジをさせてもらう機会を頂いてました。
プロでもないのにデライト予選(構成・完成度)、コンテスト予選、ワンズ、WJRと一通り主要な大会で審査させてもらったのは、割りかし珍しい経歴だと思います。

プレイヤーとしては死んでいるも同然なので、「僕ならどうするか」というより「点数を付けたことのある人間がどういう目線で見たか」という視点で書かせてもらいます。
※あくまで外野なので、”講評”じゃなく”感想"であることご留意ください。

審査視点で思う「良いデモ」とは

やったことのある人なら分かると思うんですが、大会の審査ってめちゃくちゃ大変なんですよ。

多い時には200〜300チームくらいが出場していて、全デモ初見で見れるのは1回きり。それでも出場者は人生の大きな時間を賭けて大会に望んでる訳で、「後でよく考えたらこのチームの点数何か違う気がするわーw」みたいなのは当然許されないわけです。

如何にリアルタイムで公正に点数をつけるかを考えた時、審査項目や審査基準に寄らず、自然に「審査のチェックポイント」のようなものが出来てきます。
これはあくまで僕個人の考え方ではありますが「1発で何百チームの点数をリアルタイムに付け続ける」という業務性質上、どの審査員も同じような感覚は持ってるんじゃないかなと思います。チェックポイントは大きく以下の4つです。

①デモが始まって最初の音が鳴った瞬間
②1曲目の終わり
③最後から2番目の曲の終わり
④ラスト

①デモが始まって最初の音が鳴った瞬間
●衣装、最初のフォーメーション、音などの第一印象が伝わる最初の3秒くらいです。
●例えば5点満点だった場合「4,5点枠か」「3,4点枠か」「2点以下なのか」くらいの大枠で捉えます。
●「数秒で点数決めるとかナメてんのか?」と思われがちですが、過去1,000チームくらい見てきて、ここで2点以下枠のチームが評価ひっくり返したケースは見たことがないです。もちろん最後までちゃんと見ますが、下位チームのスクリーニングは実質ここで完了します。

②1曲目の終わり
●1曲目の動きを見て、①の評価を調整します。
●例えば①で3,4点枠だった場合だと「現状4だな」と解像度を上げたり、「技術も高いし見せ方も上手いからやっぱ4,5点枠だな」と調整を行います。

③最後から2番目の曲の終わり
●3倍やスピードステップなど一番山場になりそうなムーヴがくるところです。
●ここでほぼほぼ点数を決めます。ただし、この時点で満点はつけられないので、満点に近いチームの評価は④に譲ることになります。

④ラスト
●ここで点数が変動するチームは上位10%くらいです。
●手抜きなく通し切れるかどうかで、ほぼ満点に近いチームの明暗を分ける微調整を行います。

上記の通り、冒頭で大きな評価を行い、デモの進みに合わせて点数を調整し続けるというのが基本アプローチになります。そしてデモの「起承転結」が①〜④のチェックポイントと同期しているというのが、ここで大切なことです。
つまり「評価の高いデモ=起承転結がキッチリしているデモ」であり、「派手に広げた風呂敷を如何に綺麗に畳み切るか」が優劣を分けるわけです。

※補足
特に尺の短い2〜2.5分デモは、構成を「序破急」で捉えた方がよいのでは?という議論もあると思います(僕はその立場です)。が、ニュアンス的な話になってしまうのと、ダッチ界では起承転結の方が共通ワードになっているように感じるため、分かりやすさを優先してこの議論は省きます。

OBが破茶滅茶に強い理由

ここ数年、コンテストではプロやOBの無双状態が続いていますよね。
もちろん「彼らが滅茶苦茶上手いから」ということもありますが、この状態が加速するであろう理由として、一つ大きな構造上の課題があります。

それは「演技時間を最大2分とするルール改正」です。
昨年度からコンテストの日本予選ではチーム数の増加に伴い、2.5分尺から2分尺に短縮が計られました。

2分でちゃんと起承転結作るのってかなり難しいんですよね。
より正確に言うと「他と差別化された起承転結を作る」のが滅茶苦茶難しいです。特にダブルダッチはチームスポーツである分、「全員にちゃんと見せ場を作らなきゃ」ということで予定調和的に尺を取るポイントが稼げない部分(所謂"ダンスパート問題")も未だ根強くあり、クセのある構成を作ろうとしても、容量不足に陥ってしまうことが少なくありません。

結果、容量不足への対処として多くのチームでは「起」の部分を削ります。
後半の技を詰めているパートの尺を担保しようとすると、どうしてもそうせざるを得ないわけですね。

が、それによって初見のチームは尚更カラーが見えづらくなります。
言葉を選ばずに言うと、取り返しようもなく「モブ化」してしまうと言うのが現状です。
その結果、全チームがスキルでの殴り合いに引き摺り込まれ、「滅茶苦茶上手い」かつ「ネームバリューで『起』に該当する期待感を作れている」OBチームが無双状態となっているわけです。世知辛いですね。

やるべきは「殴る」のではなく「穿つ」こと

緊急事態宣言下で、やることも無い僕は自宅で不毛にマンガを読み続ける毎日を過ごしていたんですが、やっぱりマンガとは素敵なもので、金言に溢れているものです。
修羅のダブルダッチ界を読み解く上でのヒントもこんなところにありました。

プロ野球のスカウトマンのお話です。
題名のドラフトキングとは「その年度に指名された選手の中で、指名順位とは関係なく最終的に最も良い成績を残した選手」と言う意味らしく、所謂ドラフト下位指名でスター選手となったイチロー(4位指名)のような存在がそれにあたります。

作品の中で、3位指名でプロ入りし、現在はスカウトマンを務める神木のドラフト直前エピソードが披露されます。彼は入団から5年で戦力外通告を受けるのですが、彼がプロで通用しないことを見抜いた当時の担当スカウトは、以下のようなセリフで神木に指名拒否をさせることを画策します。

「(君が自信があるのは)走・攻・守の3拍子揃ってるところだろ?そんなもん言い方を変えりゃ取り柄がねーってことだろーが。」
「プロの世界ではな…逆に言うと3つも要らねーんだよ…たった一つ…人間離れしたモノを持ってりゃいい。君にはそれがあるか…?」

身体能力モンスター達が集まるプロ野球。
幼少期から野球エリートとして過ごしてきた人たちの中でも、プロとして活躍できるのはほんの一握りという厳しい世界です。

ここまでの競技人口とは言えませんが、、、ダブルダッチもシーンが確立して10数年が経ち、キッズから続けてきた子達や、大学を卒業してもプロやOBとして活躍し続ける人達が激増しました。
そんな人たちと走・攻・守の殴り合いで勝とうとするのではなく、「人間離れしたもの」だけを凝縮して首元を穿つ。スター揃いでバランスの取れたOBチームやプロチームが選ばないであろう「偏ったパフォーマンス」をぶつけていくことが、このシーンで現役生がサバイブしていくための正攻法になるんじゃないかというのが僕の見立てです。

鍵は「自分のユニークネスを信じ切れるか」

今回のコンテストで順位としては伴いませんでしたが、「イワネスインセイン」は一つのモデルケースとなるポテンシャルを秘めた存在だと感じます。

ワンズ黎明期から貪欲なチャレンジを続け、ソロで観客を魅了出来る努力・体力を培った男が、その汗とスキルの純度を徹底的に高めようとする姿は、一つの「人間離れしたもの」にフォーカスした好例と言えるでしょう。
(余談ですがイワネスインセイン直後の数チームは「そりゃ何人かで分担すればそれくらいのパフォーマンスは出来るよね」という風に見えてしまって気の毒だなと思いました)

彼の場合は「ソロパフォーマンス」というアプローチでしたが、他にも「人間離れしたもの」にフォーカスするアプローチは無限に考えられると思います。
分かりやすいところで、例えば往年のチームであれば、体操経験者が固められた「たつまきヒコーキ」もそうでしょうし、ロープトリック技術が未成熟だった時代に一石を投じた「ROYAL VOGUE」なんかもそうかもしれません。
スピードステップが得意なチームであれば、デモの8割方それでまとめても良いかもしれませんし(M.A.Dはそのタイプですよね)、個人的には「それでダブルダッチとか出来るの?」みたいな肥満体だけが集められたチームなんかも見てみたい気がします。

実は「人間離れしたもの」にフォーカスしたパフォーマンスは、2分尺だからこそやりやすい部分もあります。無理に引き延ばす必要がないので、3倍や4×8のスピードステップなど、定石と言えるような大技ムーヴを削っても、得意なムーヴだけでパフォーマンスを完結させやすいからです。

スキルレベルがここまで高まったシーンの中で、それを度外視して考えることはもちろん出来ません。ですが「自分達のどのスキルにフォーカスするか」で順位を動かす余地は多分にあるのが今の時代だと思います。その中で良くも悪くもセンスや身体的特徴と言った「自分のユニークネスを信じ切れるか」が重要なポイントとなっており、その意味では、まだ見ぬパフォーマンスがガンガン生まれて来る土壌が整いつつあるのかなと感じます。

疑問質問反論などはこちらまで!これからもちょくちょく見に行かせてもらいます!
Twitter:@taneumastyle


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