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眠り展 レポ

なんとなく行きたいと思っていながらも
忘れてしまい、気づいたら終わっていた。
なんてことが美術展はよくある。

昨年から行こうと思っていた、
東京国立近代美術館の『眠り展』
危うく行き損ねるところだったが、Instagramの広告で思い出した。

その広告のグラフィック表現が素敵すぎて
「そうだ!眠り展!行かなければ!」と
あわててチケットをとり、行ってきたのだ。
※広告では動きのあるグラフィックだった

眠たさを体現した、このグラフィック・タイポグラフィーは直近の美術展広告としては抜群のセンスで、行くかどうか迷っているような潜在的な顧客を動かす力があると思う。

いざ「眠り展」へ

感染症対策は「ピーター・ドイグ展」の時と変わらず検温と手消毒などしっかりとなされている。

電子チケットを事前購入したのだが、入場の際に紙チケットをもらえた。
時節柄、電子チケットやコンビニ発券のチケットが主流になっているが
メインビジュアルの入ったチケットをもらえるのは嬉しいポイント。

展示室入口には
Instagram広告で見たあのビジュアルに
そっとカーテンがかかっていて素敵な感じ。

入ってまずは、スペインの画家 ゴヤ。
サブタイトルに「ゴヤ、ルーベンスから塩田千春まで」とある。
全体を通して各章のトップバッターはゴヤの版画だ。

序章のみどころはやはりルーベンスだろうか。
上野の西洋美術からやってきた
《眠る二人の子供》
この絵は2018年に「ルーベンス展」でも見たがルーベンスならではのほっぺのふくふく感がたまらなく可愛らしい1枚。

ペーテル・パウル・ルーベンス《眠る二人の子供》

1章、2章と進むうちに
「あぁこれは。寝姿展ではないのか」と気づく。

さて、『眠り展』と聞いて
「さぁ、いろんな人や動物の寝姿を見るぞ~~」という気満々だった私。
「怖い絵展」のような、テーマくくりの美術展があったこともありかなり思い込んでいた。

しかし今回の展覧会は
他者から見た眠りだけでなく、自己の内面的な眠り、またその夢や「永眠(死)」、そして目覚めまで。
“眠り”に関わるあれこれがテーマだったのだ。

そうしているうちに展示室内のカーテンに驚かされる。


落ち着いたグレーのカーテンが、人が通るのに合わせてかすかに揺れる。
寝室のような空間演出は見事だ。
「ハマスホイとデンマーク絵画」の、大きな窓枠や扉など、世界観に没入できるような内装を思い出す。

絵画以外にもシアタースペースや
オブジェクトなどが出品されており
なかでも2点が気になった。

内藤礼《死者のための枕》

小さく儚さもあり、まじまじと見入ってしまう。
このサイズだと、ハムスターの枕だろうか。
見えないけれど、ここに誰か寝ているのだろうか。この枕で眠るようにすやすやと死に、自分も枕と溶け合いたいものだ。

荒川修作《抗生物質と子音にはさまれたアインシュタイン》

圧倒的な存在感と異質感を放つ。
棺桶にゴツゴツとしたセメント?が収まっている。
荒川氏といえば天命反転地を想起する。
全感覚を呼び起こして、絶対的な「死」に抗う作風。
Don't think! Feel. ということだ。

タイトルをよく噛んで「これはアインシュタインなのか?」と考え始めてしまったらアウト。
この作品に対峙した瞬間に感じた、見えたものだけが答え ということだろう多分。
三鷹の天命反転住宅、はやく行きたいなぁ。

「眠り展」キービジュアルと空間デザインについて

会場の設計をしたトラフ建築設計事務所の鈴野浩一さんとグラフィック担当の平野篤史さんのインタビューをYouTubeで見ることができる。
https://www.youtube.com/watch?v=3Fo9BbT_f8k

前半、後半があるので、展覧会に行く前に是非見てほしい。

「眠り展」展示室内

インタビュー動画を見て
「ピーター・ドイグ展」の壁を再利用しているというのは驚いた。
写真を見返してみるとなるほど。白壁の汎用性に気づく。

「ピーター・ドイグ展」展示室内

従来は展覧会ごとに、さらの状態から壁を作って壊してなので施工費も高くつく。
さらにSDGsとか言ってる現代で、まったくエコじゃないなぁと思っていた。
使えるものは使いまわせばいいじゃないか というこの発想はすばらしいし、もっと広まってほしい取り組みだ。

とはいえ大体の企画展は美術館はハコ貸しで、主催が異なる場合が多い。
そうなると、次開催の主催との調整など、
ちょっとした労力が発生するのが想像できる。
今回、内装の引継ぎができたのは、実質館が主催ということが大いに関係しているのではないかと読んでいる(勝手な憶測)

最終的に、この壁が大きなキャンバスとなって
なにか作品に昇華されたりしたらすてきだなぁと思う。

深読み

出口を出ようとしたとき
左側のカーテン仕切りが大きく開いていることに気づく。

覗いてみると....
先ほど通ってきたシアタースペースだ。
なーんだ。
だが、なぜここのカーテンは開いているのだろう。

このまま出口(目覚め)に向かってもいいし
再度眠りの中へ回遊(二度寝)してもいい。
というようなことだろうか。

それとも単に感染症対策の換気の為だろうか。

カーテンレールが直角でなく丸くカーブしているのを見ると空間演出かとも思える。
いやいや、直角でとるよりも短くなって施工費が安くなるのさ ということかもしれない。

◇あとがき
私は眠ることがすきだ。
布団にくるまって無になる、すこやかな時間。
熟睡できていないのか変な夢をよく見る。
枕がいけないのかと硬めの枕を買ったが
しっくりこない。

眠りに落ちるときは
「明日、目が覚めなかったらどうしよう」などと考えたこともなく当たり前に目覚める。
眠ることはすきなくせに、永遠の眠りはこわい。

おだやかで、不思議で、少し怖くて、
今日も眠る。
トゥルースリーパーでも買うか。
【展覧会情報】
眠り展:アートと生きること ゴヤ、ルーベンスから塩田千春まで
Sleeping: Life with Art - From Goya and Rubens to Shiota Chiharu
会場:	東京国立近代美術館 1F 企画展ギャラリー
会期:	20201125日(水)~ 2021223日(火・祝)
観覧料:	一般 1,2001,000)円 ※会場にて当日券あり
詳細は公式HPをご確認ください (2021.01.28)
https://www.momat.go.jp/am/exhibition/sleeping/#section1-1


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