愛情か、憎悪か

 わたしが、わたしを女だと意識したのはだいぶ遅かったように思う。

 おしゃれ?メイク? はぁ?男に媚びてるの?

 前の投稿で書いたが、当時、肥満で、お喋りもできなくて、自分の容姿に自信のなかったわたしは、そんな、ひん曲がった性格をしていた。

 さて、わたしの過去の話になる。
 わたしの生まれ育った実家は、いわゆる貧困家庭だった。
 毎日、ご飯を食べるのがやっと。
 そのくせ、母はいくらお金がなくても専業主婦を貫いた。
 わたしはある程度勉強ができたので、もっと学びたくて意を決して、塾に行きたいと言ったが、そんな余裕はないくらい。

 でも、母のわたしの美に対する執着心は今になって思えば、相当なものだったと思う。
 なんとかお金を工面して、歯の矯正をさせてもらった。後に聞いた話だと、それにかかったお金は普通車一台買えるくらいの金額。
 小学生のうちから、化粧水や美容液で肌を整えることを強制された。

 スカートなんて履かせてもらえなくて、普段学校に行くときは、オーバーサイズしすぎてるくらいの、メンズのTシャツ、パーカーに、必ず露出のないズボン。
 今となっては、わたしが外で女として見られることを危惧していたのだと思う。

 母は口癖のように、「綺麗にしとかないと、年頃になってから、いいとこにお嫁に行けないからね」と言っていた。

 わたしは小さい頃から爪を噛む癖があった。血どころか、爪のなかの肉が出るくらい。
 母はそれをいつも見咎めた。今となっては、タバコを吸い始めた頃から、その癖はなくなり、手足の爪は綺麗に生え揃ってる。

 勉強ができたわたしに祖父はこう言った。
「おなごが、勉強とか学とかつけるもんじゃない。おなごは愛嬌があればなんとかなる」
 そして、祖父はわたしが女らしい体つきになってくると、小さい頃にしていたように、わたしを抱っこしようとしてきたり、一緒にお風呂に入ろうとしてきた。
 それに気づいた母は激昂し、わたしはとりあえず記憶にある分には、事なきを得た。

 わたしは、自傷という自傷をしたことがない。頭を壁や床に打ちつけたり、打撲するくらい物に当たったこともある。でも、跡が残るようなことは、したことがない。

 無意識だけど、母がわたしに綺麗であって欲しいという切実な願いを聞かないわけにはいかないと、叶え続けていてあげたいと、そんな心理なのだと思う。

 結果、わたしは母の決めた現在の夫と結婚した。
 母の言う「いいとこのお嫁さん」っていったいなんなんだろうと思う。
 わたしはそれをまだ知らない。
 知らないながらに、辛いときもあるけれど、楽しく毎日を暮らしている。

 その一方で、わたしが綺麗だと男の人からチヤホヤされ始めると、母は不機嫌そうなときもあった。
 父の話によると、若い頃の母は男性陣にとって高嶺の花で、冴えない父は猛アタックと、誠実さで母と結婚したとのことだった。
 わたしは、若い頃の母に似ているとたまに言われる。
 そのことも母は嫌なのだと思う。
 自分が徐々に歳を取っていく一方で、まだ若いと思われるわたしが女になっていくのが嫌だったのだろう。わたしも同じく歳を重ねているというのに。
 これって、アンビバレンスって言うんだろうな。
 「いいとこに嫁がせたいけど、自分の娘に少し嫉妬」
 そんな心境だろうか。

 今のわたしは、わたしのためにオシャレやメイクを楽しんでいる。

 きっといいんだ、これで。

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