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【都市とアニメ】「ネオトウキョウプラン」と『パトレイバー』を繋ぐアナザーストーリー

石川県金沢市の金沢建築館にて、アニメの背景美術に特化した企画展「アニメ背景美術に描かれた都市展」が11月19日(日)まで開催されている。

展示・イベント | 谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館

『AKIRA』の舞台となる架空都市「ネオトーキョー」と同名の1959年(昭和34年)に作成された現実の都市計画プラン図「ネオトウキョウプラン」が展示されており、地図に関する考察記事にいくつものを反応いただいた。
これに感謝し、アニメに繋がる可能性がある、もう一つのアナザーストーリーを紹介する。

劇場アニメ『AKIRA』の架空都市「ネオトーキョー」と同名の、1959年(昭和34年)に作成された現実の都市計画プラン図「ネオトウキョウプラン」。実は、この計画が後に形を変えて、漫画・アニメ『パトレイバー』の世界に反映されている可能性があると考えている。
今回は計画の歴史を追い、どのように『パトレイバー』に影響が感じられるかを説明する記事である。


1.「ネオトウキョウプラン」提言のその後

1959年(昭和34年)に民間産業のトップ集団・産業計画会議より国へ、夢のよう都市計画が提言された。
東京湾の3分の2を有する約6億6000万㎡を埋立、東京湾上に都市を立地させる計画「ネオトウキョウプラン」である。

この画期的な計画は、調査費や工事費から漁業補償に至るまで考慮し、綿密に調査されていたが、一つの大きな問題を孕んでいた。
壮大な計画であるが故の費用の問題である。

当時価格で、総工費が3兆8000億円と試算されていた(第7次勧告レコメンデーション「東京湾2億坪埋め立てについての勧告」7ページより)。
1959年度国の一般会計予算は1兆4192億900万円であり、2年半以上の予算を全て注ぎ込まなくてはいけないことからその異常さが理解できるだろう。結果、膨大な費用がネックとなり実現には至らなかった。

興味のある方に向けて、計画が書かれている資料を紹介する。
【参考】産業計画会議 第7次勧告レコメンデーション
「東京湾2億坪埋め立てについての勧告」
IR電力中央研究所 Webサイト(PDF) https://criepi.denken.or.jp/intro/recom/recom_07.pdf?v2

2.新たな提言と計画の誕生

計画を断念した「ネオトウキョウプラン」ではあったが、高度経済成長と共に首都の成長は必要であると産業計画会議は考えていた。
2年後である1961年(昭和36年)に「東京湾横断堤計画」が提言される(第12次勧告)。

下記に「東京湾横断計画図」(昭和36年)と「ネオトウキョウプラン図」(昭和34年)を比較できるよう引用する。
地図を見比べると交通計画を継承したプランであることが窺える。

〇東京湾横断堤計画図 (昭和36年)
産業計画会議 第12次勧告レコメンデーション
「東京湾の横断堤を~高潮と交通の解決策として~」
IR電力中央研究所 Webサイト(PDF) 31ページより引用

https://criepi.denken.or.jp/intro/recom/recom_12.pdf?v2

東京湾横断提計画(昭和36年) 産業計画会議 第12次勧告レコメンデーション

〇ネオトウキョウプラン図 (昭和34年)
産業計画会議 第7次勧告レコメンデーション
「東京湾2億坪埋め立てについての勧告」
IR電力中央研究所 Webサイト(PDF) 16ページより引用

https://criepi.denken.or.jp/intro/recom/recom_07.pdf?v2

ネオトウキョウプラン図 (昭和34年)産業計画会議 第7次勧告レコメンデーション

3.東京湾整備計画の施工開始と『パトレイバー』の登場

提言された「東京横断堤計画」に既視感がある方もいるかもしれない。この提言がきっかけとなり、調査・検討を重ね設計や施工方法の計画を変更しながら「東京湾アクアライン計画」が成立し、施工された。

1961年の提言から国が本腰を入れ、1966年より建設省の調査が開始された。そして、調査約20年、施工約10年の計約30年かけて1997年に「東京アクアライン」が完成し、東京湾開発計画は現実のものとなった。

一方、1987年「東京アクアライン」施工がはじまった翌年の1988年に漫画・アニメ「パトレイバー」が登場する。東京湾開発を舞台にし、発表時は10年先の1998年近未来の東京を描いた作品である。
作品中の東京湾開発計画「バビロンプロジェクト」のアイディア元は「東京湾アクアライン」と言われている。

アニメ作品では国家事業となっており、現実は民間・地方公共団体・日本道路公団の共同出資による違いはあるが、堤防を作る目的、整備場所や規模など類似する点は多い。

1995年に起きた直下地震からの復興と、東京湾に大堤防を建設する国家事業「バビロンプロジェクト」が生み出した大量需要によって、無数のレイバーが稼働していた。

機動警察パトレイバー公式ホームページ ストーリー紹介より抜粋

4.復興への想いが夢を生み出し夢物語(アニメ)へと繋がる

1946年の戦後から14年後の1959年(昭和34年)、復興へとかけた想いから民間産業のトップ集団が新都市計画「ネオトウキョウプラン」という計画を国へ提案した。その約30年後にアニメ映画『AKIRA』という架空都市「ネオトーキョー」を舞台にした夢物語が誕生する。

また別の物語として、「ネオトウキョウプラン」は「東京湾横断堤計画」へと形を変え、1987年「東京アクアライン」施工開始につながる。
一方で1988年漫画・アニメ『パトレイバー』が登場。地震の復興へとつながる東京湾整備計画「バビロンプロジェクト」施工により物語がはじまる。

前回記事にも記述したが、夢を描くということは、新たな夢物語(アニメ)を呼び寄せ、時には現実をも作り変える力があるということを知った。

5.おしまいに

「ネオトウキョウプラン」が展示されているアニメ背景美術に描かれた都市の展示は日本では今回がはじめての試みとのこと。
石川県「谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館」が最初の試みであり、国内での今後の予定は決まっていない。数少ない体験になるかもしれないので是非とも11月19日までの会期中に訪れることをオススメする。
 
また、産業計画会議が作成した海洋都市構想地図の資料展示は本企画展が初であり、『AKIRA』や『パトレイバー』の背景美術と見比べて作品世界と現実の歴史とのつながりを感じられる稀有な機会となっている。アニメファン、特に『AKIRA』や『パトレイバー』ファンの方々にはこの機会をぜひ活かしていただきたい。

展覧会の概要・休館情報などは下記公式サイトにてご参照いただきたい。
展覧会の概要については以下に。
会期は11月19日までとあと1週間半近くで終了する。

【公式HP】谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館 企画展「アニメ背景美術に描かれた都市」 

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