「いいライターがいない」問題について

「いいライターがいない」

これは、編集者がよく口にする言葉だ。少なくとも版元にいる間、何千回耳にしたかわからない。

「こういうテーマの本なんですけど、いいライターさん知りませんか?」
「う〜ん、いないんだよねえ、いいライター」

——この「いいライター」は「本が書けるライター」のこと、もっと言えば「10万字を最後まで破綻なくおもしろく書き、著者の魅力を最大限に引き出し、読者がよろこぶコンテンツにまとめ上げられるライター」を指している。

本を書きたいライターはたくさんいる。なのに、「いいライターがいない」のはいったいなぜだろう? 

わたしは版元を経て、いまはbatonsという会社で書籍の構成・ライティングの仕事を、フリーランスで編集やウェブ&雑誌記事のライティング、インタビューの仕事などをしている。

つまり「版元の編集者」と「外部ライター」の両方を経験している身(いまはライターメインですが)、もっと言えば「両方の立場から相談されたり苦労話を聞くことが多い身」として、上記の疑問について思うところを書いてみる。

(ここから先は、自分のことは全力で!! 棚にあげております)

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大大大前提として、ライターの実力不足の側面はある。自戒を込めて。

本のジャンルによって、クオリティにムラがある人もいる。ウェブ記事と本では勝手が違うので、「優秀なウェブライターがブックライターになるといまいち」ということもある。いい原稿を書くけれど〆切を守らないので依頼しにくい、というライターもいると聞く。

そのうえで、上記のように「両方」の言い分がわかる身として思うのは、「仕事をしてみたけどいいライターじゃなかった案件」は編集サイドのディレクションに問題があるケースも多い、ということだ(※〆切を守らないのは100%ライターの責任です)。

エラそうにきこえたら本当に申し訳ない(そして怖い)のだけども、決して「編集者が悪い」という話じゃなくて、あくまで「編集とライターのコミュニケーションにはもっと改善の余地があるのでは!!!」ということだ。

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編集者の中には、インタビューが終わると「あとはいい感じにお願いします! 原稿楽しみに待ってます!」と丸投げモードになる人がいる。この丸投げに対し、「素材が足りない気がするのだが」といった不安を抱えながらも「あ、はい・・・・」と答えてしまうライターは少なくない。手がけた冊数が少ないほど、とりあえずやってみなければどれくらい書けるのかわからないからだ。

もちろん、書き出す前に構成案は握っているはずだから、「和食かと思っていたら洋食だった」的な取り返しのつかない大事故にはならない。でも、「全体的な味付けが思ってたのとなんか違う」「お腹いっぱいにならない(=読後に満足感がない)」には十分なり得る。

つまり、そのライターに全幅の信頼があって「お任せする」と決めた場合は別にして、編集者が椅子に座ったまま料理が運ばれてくるのを待つ客や評論家のスタンスでいるのは、とてもリスキーなことなのだ。

出てきた料理に文句を言いつつ自分でつくり直すのは、本来編集者が「しなくていい仕事」だ。非効率だし、だいたいたのしくもない。それよりまず料理人と一緒にキッチンに入り、目指す完成図(コンセプトや文体、流れ、読後感などなど)を共有したりブラッシュアップしたほうが、生産性も高くなるしチームとしてもヘルシーだ。

もし編集者自身が味付けをビシッと決めきらずにいるなら、事前にライターに相談すればいい。せっかくチームなのだし、プロ同士が知恵を出し合ったら突破口が見つかるかもしれない。

これはライター側も工夫できるところで、たとえば友人のライターは、まず数パターンの文体でサンプル原稿を書いて編集者に選んでもらうと言っていた。あとで書き直しになる労力はむだだから、最初のコミュニケーションにコストを払う。とても合理的だと思う。

とはいえ。

往々にして、ある企画の走り始めのタイミングは、別の本の〆切前。なので、どうしても全力でコミットできないんだよ、という編集者の気持ちもわかる。自分もそうだったからわかります・・・・。

でも、数ヶ月後に原稿を手にして「あ、やばいやつや」と震えないためにも、「とりあえず進めといて」の姿勢はやはりマズいのかなと思うのだ。

※「そんなん当たり前じゃん?」という編集者はスルーしていただきたいのですが、話を聞くと、企画の走り始めが適当な方はそこそこいそうで・・・・。

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「いいライターがいない」問題は出版界にとって深刻で、でも、ただライターの数を増やせばいいものではないというか。少しでも困っている人が減ったらいいなあと思って、書きました。

繰り返しになりますが、もちろん大大大前提として求められるのは、ライターのスキルアップなんだけども。プロとしてね。

ライターが入ったビジネス書でヒットした本は、だいたい編集者とライターがお互いに「自分にはできないプロ」としてリスペクトしあっている(田中調べ)。いいチームでいい本、つくりたいです。

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