台湾ひとり研究室:映像編「中国歴史ドラマ『三国志Three Kingdoms』は最後まで魅せる。」
原題『三國 Three Kingdoms』として 2010 年 5月〜6月にかけて中国で放送された全 95 話の大河ドラマを、ようやっと観終えた。公式サイトとWikiの解説によれば、制作に年数 6 年、費用に日本円で 25 億、キャスト 300 人、エキストラのべ 15万人と、とてつもない労力のかかったドラマだ。日本では、BS フジや TOKYO MX などで放送され、Amazonプライムでも配信されている。描かれるのは、後漢末期、曹操が董卓暗殺に失敗して逃走するところから始まり、仲達が西晋の礎を築くまで。最終話まで見逃せない展開が待っている。
中国史の中で、魏呉蜀の三国時代ほど日本人に愛されている時代は、ほかにないだろう。三国志のことは今さらあれこれ言うまい。個人史としては、漫画家横山光輝の三国志、NHK人形劇の三国志、作家吉川英治、映画『レッドクリフ』を観た程度の三国志好き。だからドラマを観ながら、記憶や歴史の認識がいかに曖昧で頼りないものかを思い知る。驚いたのは関羽。現代では關帝廟、学問の神様として祀られる関羽だが、ドラマの中では人の意見を聞く姿勢がなく、自業自得で敵に包囲されて自害するまで、わがままキャラとして貫かれていた。周瑜も、レッドクリフではトニー・レオンが演じていた姿にはほど遠く、本作ではすぐ怒って吐血するキャラに。歴史の解釈はことほど多様だ。
意外だったのは、劉備に対する評価だ。日本では、仁義に厚く、礼節に富んだ人物として知られるが、うちの台湾人ときたら、けちょんけちょんである。「俺、劉備キライなんだよね。仁義仁義っていいながら、結局目的は曹操と一緒でしょ。曹操はまだ自分の目的を口にしてるだけいい。劉備はいい人を装ってる分、たちが悪い」。そう聞いて、自分がずいぶんと蜀に肩入れしていたことに気づかされた。
95 話もあると、途中で脱落しそうなものなのに 1 話ごとに大きな展開が用意されていて、ちっとも飽きない。その脚本もさることながら、見飽きずにいられた大きな理由は二つある。
一つは個々のキャラがしっかり映し出されていること。次々と実に大勢の登場人物が出てくるものの、それぞれに個性が際立っている。その際立つキャラが、また演技で魅せる。たとえば、曹操がその子・曹丕に、次の王位をめぐって起きた事件の真意を問いただす場面では、二人の間の緊迫感でこちらまで冷や汗をかいた。さらに、戦闘シーンも、馬が派手にひっくり返ったり、火に巻かれたり、血が吹き飛んだり、どれもリアルだ。迫力満点なのは、勇将の戦闘シーン。特に趙雲が劉備の子・阿斗を抱いて大軍の中を一人、駆け抜けるシーンは見逃せない。
もう一つは壮大なセットだ。たとえば魏の王となった曹操に家臣たちが「吾皇萬歲萬歲萬萬歲!(我らの王よ、万歳!)」と跪いてあいさつをするシーンは、巨大な広間に大勢の声が鳴り響き、その権力の大きさまで表現されている。宮廷、城壁、戦地の陣営、逃亡や奇襲をかける場所など、どれをとっても、そのシーンが映えるようにできている。ふさわしい場所というのはあるものだ。
……最初は、中国語字幕で見て、その後、やっぱり日本語で見たくて中古でDVDを買い、また中国語で見て…と繰り返し、結果的に5〜6回は通しで見ている。少しずつ理解が深まり、最初は気づかなかった点に目が行ったり、見逃していて疑問だった点が晴れたりと、何回見ても飽きない。
わからないことや理解が追いつかない部分があると、頼りにしていたのは公式ブログだ。各話ごとに解説されているし、細やかな説明が加えられていて、とても助かった。
最近では、CGというかVFXの技術がさらに向上しているから、今見ると(おや…?)となる部分もないわけではないけれど、それでもこの作品が10年以上前にあってよかった。ぜひいろんな方に見ていただきたい作品です。
勝手口から見た台湾の姿を、さまざまにお届けすべく活動しています。2023〜24年にかけては日本で刊行予定の翻訳作業が中心ですが、24年には同書の関連イベントを開催したいと考えています。応援団、サポーターとしてご協力いただけたらうれしいです。2023.8.15