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台湾ひとり研究室:映像編「中国歴史ドラマ『宮廷の諍い女』を中国語で観るときに押さえたい用語ー後宮」

2011年に中国で放送され、日本でも好評を博している中国ドラマ『宮廷の諍い女』(原題:後宮 甄嬛傳)。中国版大奥で繰り広げられる、女たちの壮絶な権力争いが凄まじい迫力で描かれる。主役、甄嬛(しんけい)を演じたスン・リー(孫儷)の新作《羋月傳》もヒットを飛ばし、日本でも放送・配信された。

《後宮 甄嬛傳》の名場面を何度も観ているうちに、気になる単語が出てきたので調べた。「龍」に続き、今回は後宮を取り上げる。 

現在の北京故宮は明、清朝時代の紫禁城だ。ドラマの中国語版タイトルにある後宮とは、紫禁城の北側半分を指す。それでは南側はというと前朝といって、つまりは朝廷のあるほうを指す(この説明の 3 の意味)。その地図を見ると、建物が多いのはそこにそれぞれ住まう人がいる証にもなっている。

参考)故宮(紫禁城)の概略図

恥ずかしながら朝廷というと当時の政府組織を指すイメージを持っていたのだが、まるで違った。『読む年表 中国の歴史』(ワック株式会社)に次のようにある。

漢の武帝は典型的な事業家皇帝であったが、歴代の皇帝がその制度を維持するために重要な意味をもっていたのが「朝礼」だった。
朝礼は、本来は満月の夜の明け方、すなわち陰暦の毎月16日の早朝、市場の門が開く前の夜明けにおこなわれた。地方から都市へ商人があつまってくる。群臣は、夜明け前のまだ暗いうちに宮城のなかの「朝廷」にあつまる。朝廷とは、「朝礼」のおこなわれる「庭」である。
北京の故宮博物院(明・清朝の時代の紫禁城)に行くと、太和殿の前に広い敷石のスペースがある。これが朝廷で、朝礼はこの露天でおこなわれた。(本書より引用)

廷の字は、庭の意味をもつ。改めて地図を確認すると、なるほど、大きな庭があるではないか。地図で見るとたいした広さに見えないかもしれないけれど、今回の冒頭の写真はちょうど太和殿の反対側から撮影したもの。その広さがおわかりいただけると思う。

そういえば、ドラマでも、内政外政の事どもやお世継ぎについてなど、雍正帝が大声を張って臣下とのやりとりをするシーンが幾度も見られたが、あの場が朝廷か、と目からウロコだった。ちなみに雍正帝の住居のようになっていた養心殿(地図でいうと N の部分)は書斎にあたる場所だったそう。

宮の字のつく場所

もともと宮の字は、家を表す「宀」と、建物を表す「呂」が一緒になったもの。手元の漢和辞典によれば「いくつも建物のある大きな屋敷の意味をあらわす」とある。

中国語版Wikiで「後宮甄嬛傳 (電視劇)」の項を見ると、登場人物の一覧に居住宮殿という区分が設けられている。見ていくと、甄嬛の住居は永壽宮、皇后の住居は景仁宮など、たいてい妃たちの暮らす場所には宮の字がつく。つかないのは、妃の中では甄嬛の最初の住居だった碎玉軒や皇帝の使用する養心殿などだ。

参考)後宮甄嬛傳 (電視劇)

そういえば後宮に入ったばかりの甄嬛が住んでいた碎玉軒といって宮の字がつかなかった。日本語で軒の字は家屋や建物を数える際に用いる量詞だが、この字は調べてみると「窓のある廊下または小部屋」を意味する。

ここから、宮の字が意味するより狭いスペースだと想像がつく。ドラマでは養心殿からも遠いし、条件が悪いことがしきりと言われていたけれど、なるほど、一字の違いが大きな違いだとなんだか納得できた。

物語の舞台は後宮なのだから、中国語字幕に宮の字が大量に出てくるのは当然だ。とはいえ、後宮のように場所のことだけを意味すると思ったら大間違いで、用途は実に幅広い。次回は「本宮」を取り上げる。

勝手口から見た台湾の姿を、さまざまにお届けすべく活動しています。2023〜24年にかけては日本で刊行予定の翻訳作業が中心ですが、24年には同書の関連イベントを開催したいと考えています。応援団、サポーターとしてご協力いただけたらうれしいです。2023.8.15