アーサー王物語のモデルとなった人物と伝説
はじめに
イギリスの中で、最も有名で英雄的な騎士の一人がアーサー王です。アーサー王物語では、無名のアーサーが岩に刺さった剣を抜いてブリタニア王になり、円卓の騎士と共にヨーロッパ諸国へも領土を広げ、またランスロットと王妃グィネヴィアの不倫など、さまざまな要素が組み込まれており、世界中の人々に親しまれています。
しかし、歴史書や史実などにはアーサー王については殆ど書かれていません。アーサーという名前すら明確に記述されていません。
・アーサー王は歴史上どんな事を行った人物なのでしょうか?
・アーサー王物語は事実なのでしょうか?
・そもそも、アーサー王は実在した人物なのでしょうか?
など、多くの疑問が出てきます。
アーサー王が生きたと考えられる時代に起こったとされる出来事を考えますと、アーサー王らしき人物は実在したのではないかと考えられます。
しかし、アーサー王物語に描かれているほどの大人物が歴史書にもはっきり書かれていないということは大きな謎です。
上記に書いた疑問点や謎を考えていますと、ある1つの考えにたどり着きました。
「アーサー王は一人ではなく、幾人かの人物を合体させた架空人物ではないでしょうか?」「アーサー物語も、さまざまな物語や伝説を寄せ集めて作ったのではないでしょうか?」
アーサー王物語はいくつかの場面に分けられます。それぞれの場面は、歴史上に実在したと言われる人物や、他の物語のストーリーにとても似ていることが分かりました。つまり、実在人物や物語の部分を切り取って、つなぎ合わせるとアーサー王や、アーサー王物語になる、ということです。
そこで、各場面のアーサー王のモデルになった人物、アーサー王物語に組み込まれたと考えられる物語を取り上げて紹介し、新たな切り口でアーサー王物語を議論したいと思います。
7つに分けたアーサー王物語の各場面の概要
アーサー王物語を7つの場面に分割して、それぞれの概要について説明します。7つの場面に分割した理由は、各場面はそれぞれ別々の人物や物語から取り入れられている、と考えたからです。
※概要はジェフリー・オブ・モンマス著「ブリタニア列王史」および、トマス・マロリー著「アーサー王の死」がベースになっています。
アーサー王誕生と即位
①アーサー王の誕生(出生の秘話)
アーサーの父でブリタニア王であるウーサー・ペンドラゴンは、部下のティンタジェル公ゴルロイスの美しい妻イグレーヌに横恋慕しました。
ウーサー王の軍隊はティンタジェル公をおびき出して殺害しました。その間にウーサー王はマーリンの魔法でティンタジェル公に化け、イグレーヌが居るティンタジェル城に忍び込み一夜を共にしました。
イグレーヌは子を宿し、その後アーサーが産まれました。マーリンとの約束通りにアーサーは身分を隠され家来のエクトル卿の子として育てられました。
②アーサー王の即位(岩に刺さった剣)
ウーサー王の死後、後継者が決まらないまま国が混乱しますが、大聖堂前に岩上に突き刺さった剣が現れ「この剣を抜いたものが王となる」と書かれていました。そして、アーサーだけが抜くことができ、ブリタニア王として認められ即位しました。
※現在のイギリス(イングランド、ウェールズ、スコットランドの一部)はブリタニアと呼ばれていました。
大帝国を築いたヒーロー
③ブリタニアの平定(アングロ・サクソンを撃破)
アーサー王が即位した当時は、イングランド北部やウェールズの大部分はアーサー王の敵でした。アーサー王は円卓の騎士達や魔法使いマーリンと共にブリタニア全土の統一に乗り出しました。
ウェールズのリエンス王に攻められてたロデグランス王を助け、王の娘グィネビアを妃としました。魔法の剣エクスカリバーを手に入れ、北軍(アングロサクソン軍)やウェールズ軍との数々の戦いに勝利しブリタニア全土を平定しました。
④アーサー帝国の拡大(ローマ皇帝を倒す)
アーサー王は更に領土を広げようと、スコットランド(カレドニア)、アイルランド(ヒルべニア)やアイスランド(アルバニア)に戦いをしかけ征服しました。更にアーサー王は大軍を率いて、スウェーデンやノルウェーの北欧諸国を占領しフランス全土まで征服しました。
しかし、アーサー王の破竹の勢いを面白く思わないローマ皇帝ルーシャスは、アーサー王に貢物と服従を要求してきました。アーサー王がこれを断ると、覇権を認めないルーシャス皇帝はフランス奪回を狙い戦いを仕掛けてきたため、アーサー王は皇帝打倒に乗り出し全面戦争となりました。
アーサー軍はローマ軍と死闘を続けアーサー王はルーシャス皇帝を直接対決で破り、ついにローマ帝国軍を全滅させました。
円卓の騎士たち、ランスロットと王妃グウィネヴィアの関係
⑤聖杯探索の話(聖ヨセフとのつながり)
ブリタニアの北部のペラム王は、足や股に傷を負っており国を治めることができず、またブリタニアもペラム王と同じように病んで荒廃していました。アーサー王はペレス王を癒して国を立て直そうと、円卓の騎士たちと「聖杯探索」の冒険に出ました。
聖杯探索の旅は困難を極め、多くの騎士たちは冒険で亡くなりましたが、ガラハッド卿とボールス卿とパーシヴァル卿が、ついに聖杯を発見しました。そしてガラハッド卿の前に、聖ヨセフの精神が現れ病気の傷ついたペラム王を治癒しました。
⑥アーサー王・円卓の騎士たちの亀裂(ランスロットと王妃グウィネヴィアのロマンス)
円卓の騎士の中心的人物で、アーサー王の信頼も厚く勇敢で武勇に優れるランスロット卿がいました。しかし、ランスロットはグィネビア王妃と恋仲に陥り不倫を続けました。
それが他の円卓の騎士たちにも知れるところとなり、円卓の騎士の間で亀裂が生じ始めました。アーサー王はランスロットの忠誠心を疑うことなく戦いを望みませんでしたが、ついにアーサー王はランスロットとの戦うこととなりました。
円卓の騎士たちもアーサー王につく者、ランスロットにつく者に分かれて争い、関係は破局しました。
アーサー王の最期
⑦アーサー王とモルドレッドの最期の戦い(カムランの戦いとアヴァロン)
そんな中、アーサー王のヨーロッパ遠征中にブリタニア王の代理を任せていた円卓の騎士の一人モルドレッドが、グィネビアを娶りアーサー王に反乱を起こしました。アーサー王は急きょブリタニアにもどり、モルドレッドと死力を尽くした戦闘をしました。
この戦いでモルドレッドは戦死し、アーサー王も致命傷を負いアヴァロンの地で息を引き取りました。
以上が簡単なアーサー王物語のあらすじです。
それではここから、本題に入ります。①~⑦の各場面のアーサー王物語のモデルとなった人物や伝説・物語について紹介し、どの部分がアーサー王物語と似ており、取り込んだと考えられるのか?を説明します。
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