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「いい記事だった」(前編)

昨年、鯖江で開催された田舎フリーランス養成講座(通称:いなフリ)に参加した。
私以外の9人は、3人がサイト制作、6人がライティングをメインに学んでいた。うちひとりは、サイト制作組だけど自分の詳しい分野だからと提案文を出したら選ばれて、サイト制作を学びながらライティングをしていた。
とにかく私以外の9人はそれなりに目標を決めて邁進していた。

私はというと、大昔にやっていたサイト制作(当時はホームページ作成)のスキルを今仕様にブラッシュアップしてコーディングの仕事するつもりだった。田舎の小さな会社とかお店とかのHP(今のサイト)を作るなら、そう難しいことは要求されない。あんまりお金に余裕がなかったり、とりあえず必要みたいだから作るかと思ってたりする人対象。
そういう目の前にいるITなんてなんちゃらほいの人の困りごとを解消する人になりたかった。

でも前職が新聞社勤務だったので、メンターはライティングの方が確実に稼げるからサイト制作はやめましょうと日を追うごとに迫ってきた。
新聞社にいたけれど、書いていたのは展覧会紹介記事だけ。動静や求人情報、お悔やみ欄などたくさん担当していたけれど、「記事」と呼べるものはひとつだけ。それも週1回だけ。
それ以前にも、ケーブルテレビの地元紹介チャンネルでイベントやお祭りを取材する30分番組の台本やテレビショッピングの台本を書いていた。でも、それらもwebライティングとは全く違う。

webライティングは特殊だ。
web検索する人が読みたいと思うであろうものを、web上で情報を集めて書く。本を調べてもいいし、どこまでもwebを深掘りしてもいいけれど、そんなことをしていたら時給200円300円になってしまう。
だから、読者が求めている(であろう)情報だけを書く。

そういう仕事をクラウドソーシングサイトで見つけ、提案文を送り、選ばれるのを待つ。
選ばれるために、プロフィールや提案文をちょっとだけ盛る。

パートとはいえ、新聞社にいて読者からの苦情に答えられないようなことは書かないというスタンスで仕事をしてきた。つまり、自分で調べて確実に本当だと確認がとれたことした書いてはならない。「誰それの意見では」と付いていたならば「誰それさん、これはあなたの言葉ですね?」「はい間違いありません」とならなければ書けない。
そして、たとえばお悔やみ欄で「故人はあと3日で誕生日だったから、年齢を100歳としてください」と遺族に言われて「100歳」と書く。そうすると「あの人は99歳だから間違ってる」と苦情の電話が鳴る。もちろん「遺族のご希望です」と伝えるが、基本「盛る」ことは「間違い」。
新聞には、書く人間が針の穴を通すくらい入念に裏取りしたものだけが載るのだ。(※ もちろん、裏の取り忘れや情報提供元自身の間違いによる誤った内容が掲載される場合もある)

私にはどうしても盛ることも、裏取りしていないことを書くこともできなかった。そうして、サイト制作もライティングも、なにもやらなくなった。
案件を探しているふり、提案文を作ってるふりをしてすごしているうち、タバコを再び吸うようになった。私のタバコはストレスの発露以外のなにものでもない。相当追い詰められていた。
その私の横で、段々と本数が増えていく同じく追い詰められた受講生がいた。私よりも頻繁に喫煙コーナーに向かう。その手にはインスタントコーヒー。

「タバコとコーヒーはセットだけど、インスタントコーヒーじゃなくドリップの方がいいんじゃ?」「ないから仕方ない」
寝る間を惜しんで作業するライティング組もインスタントコーヒーが欠かせない。そして段々と朝会に遅刻するようになった。

みんなにはおいしいコーヒーが必要だな。
でもみんな忙しくて淹れる時間ももったいない。
朝、コーヒーの香りがするといい目覚めになりそう。
私はひま。しかもおいしいコーヒー屋さんと知り合ったばかり。
ってことは、、

そうして私は、いなフリでコーヒーを出す人になった。



ネコ4匹のQOL向上に使用しますので、よろしくお願いしまーす