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初めて自ら動く

 どうして自分は報われないんだろう。たまに思う。報われるようなことは何もしていないにもかかわらず。
 報われるというか救われるというか、水没している私を見えない手がすくい上げてくれるような幻想を抱いている。どうにもこうにも水面から出たくて、あっち側の世界に行きたくて仕方がない。あっち側なんてものがあるのか、あっち側に何があるのか、行ったらどうなるのかも知らないのに。
 私はただ待っているだけだけど、世の中には自力でどうにかしようと奮闘する人たちがいる。たまにそういう人と出会うと、その人が報われるように何かしたいと思う。何ができるわけもないのに、いつか自分が力を得たらその人が必要とするものを提供したい、なんてバカみたいな夢を見てたりする。

 昨年、ローカルマガジンの編集部でバイトしていたときのこと。
 あらゆる部署の人手不足でこなしきれない雑務が私の担当だった。読者アンケート集計、プレゼント発送、インタビューの文字起こし、取材のアポ取り、去年の記事のリライト。常勤しているなんでも屋。どうしても行く人がいなければ取材に行って記事も書く。フリーのライターだっつーのに、時給900円で書かされる。
 たぶん10月後半だったと思う。年末だか年始だかの号で干支グッズを紹介する記事で使用する商品を受け取りに行くことになった。

 行き先は、とある障害者支援施設。就労継続支援のひとつとして、プロの指導のもと陶磁器を製造販売している。
 ただのおつかいだというのに、担当者の人は施設内を案内してくれた。
 施設の玄関を入ると、正面にギャラリースペースがあった。そこに並ぶお茶碗やお湯のみ、お皿、どれをとっても普通だ。障害者がつくった、なんて冠は必要なく、お店で売っているものとなんら遜色ない。
 例年、イベントに出店するなどして売上を立てているのだが、ご時世的にイベントがなく、全然売れないのだという。
 どうにかしたい、どうにかしなくてはという思いが伝わってくる。でも私はただのおつかい。荷物を受け取り、掲載ページの担当者に渡すだけ。

 なにか手伝いたいと思ったあの日から、およそ1年。もしかしたら、ときが来たのかもしれない。
 RENEWの総合受付となる建物の近くにあるカフェで、うちのシェアハウスの住人が間借り出店することになった。そのカフェにはちょっとしたスペースがあり、そこに施設でつくられた陶磁器を展示(できれば販売も)できないかと思いついた。
 RENEWとは、福井県鯖江市、越前市、越前町にある伝統工芸や地場産業の工房・工場開放イベント。万単位の来場者が訪れるらしい。
 だが施設は出展者に名を連ねておらず、観光客が訪れることもない。だったらカフェにどれだけの人が立ち寄るかわからないけれど、やらないよりやった方が人の目に触れるチャンスになるのではないか。

 いつもなら待ったり考えたりしているだけで終わってしまうのだけれど、今回は施設へと連絡をしてみた。担当者がお休みだったので、明日また電話をする。電話恐怖症だというのに。
 コンセプトもアイディアも何もない。ただの思いつき。もしかしたら振り回して迷惑をかけてしまうかもしれない。
 それでも、とりあえずやってみる。話だけで終わってもいいや。今回をきっかけに、また次の機会があるかもしれない。
 はっきり言って、現在やらねばならんことが渋滞中。自分にとって大きな負荷となる。
 それでも「やってみよう」と思った。思って行動に移した。
 初めての経験、さてどうなるだろうか。



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