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カフェ店員になりました

 昨夜、非常に情報量の多い夜をすごした。
 とあるバーへ用事があって出向き、開店から閉店まで滞在。その間、10時間! 最初の客、かつ最後の客。
 6時間(それもどうかと思う)くらい経ったところで帰るタイミングがあったのだが、お財布を取り出しお会計しようとしながら「さっきの質問の答えですが、、」と切り出した。それからなぜか3時間超、オーナーとふたりで話し込むことになった。
 遡ること1時間前、トロい私は質問が投げかけられたとき、さっと答えられなかった。というか、質問した客は酔っていて、私の答えなど待たずに自論を展開。オーナーも知る、私の暮らすシェアハウスについての質問で、なんとなくきちんと自分の考えを表明したいと思い、帰りに切り出したのだった。全然帰りじゃなくなったけど。質問した相手じゃないけれども。

 シェアハウスに対する私の意見から、一体なぜ3時間以上も話が続いたのか。実は記憶があいまいで、どんな話をしたのか、半分くらいしか覚えてない。
 とりあえず、とある人物についての評価では一致を見、それ以外は噛み合ったり、噛み合わなかったり、共感したり、しなかったり。議論というより会話。議論なら3時間ってわかるけど、会話で3時間超えるとは。
 話が始まるまでの6時間も、質問した客をはじめ、普段接することのない人と世界で、視覚と聴覚から入ってくる情報量の多さたるや! 一晩通して洪水にのみ込まれたような状態になってしまい、処理が追いつかない。
 オーナーの話の中にはいくつか引っかかった言葉があったけれど、それらもまだ思い出せない。おもしろいことに、ここ最近、目にしたり耳にしたりした事象と重なることが多かったのは確か。偶然ではあるけれど、自分がいる場所による必然のようにも思える。

 話し始めて2時間が経った頃(たぶん午前3時半頃)、「なんで部活って、ひとつなんでしょうね」とオーナーがつぶやいた。
 それは脈絡なく、突然降ってわいたテーマ。いや、前後を覚えてないので、もしかすると脈絡あるのかもしれないが。
 そう、この言葉に続く話もぼんやりとしか思い出せない。揶揄してるわけでも、なにかを語るための切り口でもなく、ただオーナーの純粋な疑問だった。
 正直、話の前後も左右も結論も思い出せない。唯一、「ひとつを選ばなくてはならないのはなぜか」というテーマだけが、強烈に印象に残っている。
 それはたぶん、今の私がしたくないのに選択しようとしているからだろう。(web)ライターとリアルの仕事。編集プロダクションとカフェ。ここと鳥取。定住と移住。
 ひとつを選ばなくてはならない。そう思い込んでないか?

 ひとつを選ぶのではなく、ひとつ追加してみよう。やれるかどうか、試してみよう。
 あの会話から7時間後、私は行きつけのカフェにいた。単刀直入に切り出す。
「提案があります。13時から18時とか、本業が忙しい時期だけでも手伝うというのはどうでしょう?」
 そのカフェは、農業を営む夫妻が土日だけ営業している。今は田植えの時期で、かなりてんてこ舞い。昨年はお休みも多かったのだが、今年は休まず営業することに。以前、手伝いの声がかかったのだが、ちょうど編集プロダクションの期間限定バイトが決まった直後で、そちらが終わる頃に相談するはずだった。
 しかしそれからいろいろあり、私は鳥取へ移ることにした。編集プロダクションは8月いっぱいで契約終了、9月に引っ越し。カフェに行くと店舗改築の話も聞こえてきて、そのことをなかなか店主夫妻に話せずにいた。
 たぶん共通の知り合いから伝わったのだろう、ある日、お会計をしていると「鳥取行くん?」と聞かれた。それから私のことが原因ではないのだろうが、カフェのSNSへの投稿には元気のない言葉が並ぶようになった。

 バーを訪れたのは、そんなときだった。別に私の状況は話しておらず、誰かのアドバイスを欲していたわけでもない。ただ、投げられた言葉の意味や作用は受け取り手次第。自分の現状に合わせ、10時間の中から言葉を選び出して解釈する。結果、ひとつを選ぶのではなく、ひとつ追加するという結論に達し、私のキャリアに「カフェ店員」が書き加えられた。
 この先、引っ越すか残るかを選ばなくてはならない。そのとき、カフェも辞めるか続けるか選ばざるを得ない。でも、もしかしたら選ばなくてもいいかもしれない。
 ここと鳥取、定住と移住。選ばなくてはならないのか? どっちもは不可能なのだろうか。バーのオーナーは富山から週末だけ通ってる。私も春秋はここで、夏冬は鳥取とか。

 まずは決めつける前に、昨夜の情報を処理しよう。オーナーが帰りに持たせてくれたアブサンを飲みながら。

ネコ4匹のQOL向上に使用しますので、よろしくお願いしまーす