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プラレスラーを1/4スケールで作るのは、なぜ難しいのか?(後編)

8章 プラレスラーを1/6スケールで作るのは、ほぼ無理

2章で、「(1/4スケールに変更したのは、)使用するサーボモーターのサイズから逆算したスケールなので、仕方ない」とサラッと書きました。
ロボットビルダーにとっては、「まあ、そうだよね。」という反応になると思いますが、それ以外の人には「?」でしょうし、そのあたりのフォローを。でないと、1/4が難しいなら、もう1/6で作ればいいのでは?となりますから。

ROBO-ONEの流れを汲むホビーロボットは、各関節にサーボモーターを配置して機体を動かします。
ロボットプラモで、各関節にボールジョイントを配置してポーズを付けられるヤツがありますけど、あんな感じ。
そのボールジョイント、ボールが3~6ミリ直径が一般的ですが、直径3センチ1種だけしか使えないとなると、本体の全長はどのぐらいになるでしょうか。

ドールや球体関節人形を思い浮かべてもらえれば、なんとなく感じがつかめるかと思いますが、ざっくり40センチぐらいになります。
ホビーロボットによく使われるサーボは、3センチ強の立方体で、しかも1軸方向にしか回転しないので、ボールジョイントというより、3センチ強のポリキャップを組み合わせて~という方が的確ですけど。

以前、プラレス3四郎の初期のライバル機として登場する「マッドハリケーン」を作ったことがあります。


ロボコンマガジン67号表紙

神矢先生に設定画を描き下ろしてもらったものの、最終的に試作1機を作っただけで、終わっちゃったんですけど。

マッド・ハリケーン設定画 (C)神矢みのる/牛次郎(週刊少年チャンピオン・秋田書店)

マッドハリケーンは、1/6スケール設定で全長が40センチですから、これは設定通りの大きさで作ることができました。
これがもう、ギチギチに内部にサーボが詰まっています。

マッドハリケーン 内部構造

マッドハリケーンは、いわゆる「お相撲さん体型」であり、寸胴でもおかしくないので、内部になんとかサーボを収めることができましたが、すらっとしたヒーロー体型だと、どうしてもはみ出してしまいます。
しかも、柔王丸だと、これを24センチに縮めなければならない。

…まあ、どう考えても無理なので、大会公式スケールを1/4まで緩和したと。

9章 じゃあ、どうすればいい?

話を元にもどして、数点ぐらい上乗せするノウハウについて、具体例を挙げながら、説明していきましょう。

産総研が開発した等身大ロボットに「HRP-2 プロメテ」があります。出渕裕先生がデザインしたことでも有名。

PC Watch 川田工業、出渕裕氏デザインの2足歩行ロボット「Promet」公開

機体の制御ソフトを広めるのも目標だったんですが、メッチャ高額なので、目的である大学等教育機関が導入するのは簡単ではありません。
じゃあ、その頃流行りつつあったホビーロボット(十数万~数十万円)をベースに、制御ソフトを積めば安くあがるんじゃ?というコンセプトで開発されたのが、「HRP-2m チョロメテ」。
プロメテは出渕デザインが特徴なので、外装をつけなくてはいけない、ってことで、ウチに声がかかりました。

ベースになるのは、JinSato氏が開発した市販機を、基盤やセンサーが載るように改修したもの。

背中にソフトを搭載する基盤を背負うこともあり、腰の回転軸がない寸胴体型で、足と腕に同じサーボを使うこともあって、ちょうどゴールドライタンみたいな体型。

プロメテは、人と協業する目的もあり、ドアを通れたり、人が入れる隙間を通れたりするように、四肢は人とそんなに変わらないぐらいの比率に設計されています。
しかも腰の回転軸があることもあり、かなり細めの機体です。

ざっくり言っちゃえば、ゴールドライタンに外装を被せてエヴァンゲリオンにしろ!とオーダーされた感じ。
若い人向けに言い直すと、ガンダムOOのナドレに追加外装を被せてヴァーチェにしろ、ではなく、ヴァーチェに外装を被せてナドレにしろ、みたいな。

太めの機体に外装を被せて細身にしろ、という物理的に不可能なオーダーなんですが、怖いことに、初顔合わせ&打ち合わせに出席してるみなさんの顔には、「キミはプロなんだから、これぐらいなんとかなるでしょ?」
とか書いてありますよ!
何も知らない一般の人が、これぐらいならカンタンでしょ?とプログラマーやエンジニアに無理難題を吹っ掛けるアレですよ。

しかも、スネで切断、プラバン積層を噛ませて、足を長く伸ばすという、ガンプラの作例でよくある頭身を伸ばす手も使えません。
関節間距離を伸ばすと、モーションプログラムが一から作り直しになってしまいます。サーボモータにかかる負荷が、想定を超えてしまうこともあるし。

要領がいい人なら、角が立たないようにしつつ、上手く逃げる一択ですが、
「なんか面白そう」なので、受けることにしました。なんとかなる目算もあったし。

3ヶ月の開発期間の前半で、JinSato氏が機体を改修、これを受け取って一月半で外装を製作というスケジュールが提示されました。

正攻法でやるなら、まず出渕裕先生にデザインを依頼して、それを元にベースになる機体を設計、これに外装を付けて~となりますが、これだと下手をすればピッタリ収まるサーボモーターの設計から入ることになって、予算と制作期間が数倍に膨れ上がります。なので、プロメテに「似せた」機体をコッチ作って、出渕先生の監修を受けて修正という手順に。たたき台の外装があるなら、機体構造の変更までは行かないでしょう。

ロボ外装の話だから、作り方を駆け足で説明します。
チョロメテ用に改修した機体を受け取って、スケッチは省いて機体にいきなりスカルピーを盛り付けて形を出していきます。徐々に乾燥硬化していく紙粘土や、練り合わせることで硬化が始まるエポパテ・ポリパテと違い、スカルピーはオーブンで加熱しない限り固まらないので、硬化を気にすることなく試行錯誤を重ねられるのが利点。インダストリアルクレイでもいいのですが、こっちの方が使い慣れてるもので。
出渕裕先生のデザインされた設定画をできるだけ集めて、その中でもパトレイバー系をメインに、出渕デザインの要素を抽出、あーでもないこーでもないと盛り付け&削りを重ねます。

パトレイバー系をメインってのは、チョロメテは大学での研究用がメインの購買層想定であり、物品購入に影響力を持つ助教授や院生がパトレイバー世代に当たるから、ここに刺さるデザインを~という意図。

形が決まったら、デジカメで正面と側面の画像を撮って、ライノセラス(CAD)に取り込んでモデリング。これをMODERA(CNC加工機械)でエポキシパテから削って実体にする、という手順で作っていきます。

関節を動かした際の、外装同士の干渉チェック、これをCADを使ってやろうとすると、すごく手間がかかるんですけど、スカルピー盛り付けなら、実際に動かしてみて、噛み込むようなら、その箇所を削ればいいだけです。
CADを使わず、スカルピーのみを使ってのフルアナログ(=全部手作業)で作ることも可能ですが、こちらは左右対称に作るのが難しくて。つまりはアナログとデジタルの、いいとこ取りした工法です。
今だったら、3Dスキャナで形を取り込み、CADで調整しますが、当時としては、これが最速の作り方でした。

ここまで読んで、「え?チョロメテの設定画があったよね。」って方が出てくると思いますが、アレはこちらで作ったモデルを見ながら描かれたもの。そのイラスト、よーく見ると、「イメージ画」って書いてあります。
ウッカリな媒体だと、チョロメテは「出渕裕デザイン」となってたりしますが、公式はちゃんと「デザイン監修:出渕裕」となっています。

実は、元になるプロメテのモデリングデータはもらったものの、資料でもらったパンフレットを含めて、ほとんど見ずにー下手に見ると、それに引きずられて、中途半端な形になってしまうのでー形を出しました。
で、実体化したモデルを塗装する段階で、モデルを塗り分けるために、初めてじっくり見ます。

これも「ガンダム センチネル」ネタですが、こういうエピソードがあります。
センチネル用に新型ガンダムのデザイン画を何通りも描いたものの、どうにもガンダムに見えない。でも、マーカーでトリコロール(赤青黃の3色)で塗ったところ、ガンダムに見えた。

スライスヒーローズを見ればわかるように、実はヒトって、物を形だけで覚えるのではなく、配色でも覚えています。

なので、形は変えても、配色さえ同じにしておけば、プロメテが元ネタだと認識してもらえるだろう、という見込み。
これが、先に書いた「なんとかなる目算」。

形になったモデルで出渕先生に監修を受けます。
なにしろ、デザインを全部、勝手に変えてしまっているので、ジャンピング土下座する覚悟でしたが、出渕先生、モデルを見て曰く、「ああ、俺のデザインって、こう見えてるのね」とのこと。
なんとか「可」は、ギリギリいただけたようです。

これをプラレスラー製作に応用すると、似せるためには、できるだけ設定に近い色を、省くことなく全身に塗る、ということになります。
サーボケースやブラケットは、色を塗ると後々面倒になるので、そのままにしておきたい気持ちは分かりますが、配色にない黒や銀が入っていると、そのプラレスラーと認識してもらえない可能性も。

同じ赤でも、オレンジに近い赤や、ピンク寄りの明るい赤がありますし、原色赤を使うのではなく、できるだけ設定に近い色を使うことが重要。模型用塗料も、昔は軍用色以外はラインナップが少なかったのですが、近年はバリエーションも増えているので、近い色が探せるはずです。

あ、混色で色を作るのはやめておいた方が無難です。隠蔽度を上げるために、他の原色が入っていることがあるので、混ぜると暗くなってしまう可能性大ですから。

まとめ1 配色は超重要。面倒がらずに、設定に近い色を探して、省かずに全部塗ること。

さて、チョロメテ製作の続き。事前にできた機体の画像は提出していたので、この監修の場でこのイメージ画をいただきました。

チョロメテ イメージ画

全体的な可はいただいたものの、頭部は私のクセで丸っこいフォルムになっており、イメージ画に近いシュッとした形に作り直しとなりました。
手足や胴体を変更するとなると、干渉チェックが必要なので、あと一週間では間に合わない。
頭ならモーションに干渉しないし、文字通り、ロボットの顔なので、修正を入れるなら頭部一択です。

モデラーの方には信じられないかもしれませんが、ロボットビルダーにとって頭部は、「頭なんて飾りです。偉い人には(以下略」です。頭があってもなくても、動きにはほぼ影響がありませんし、むしろ自重を増やすだけのデッドウェイト扱いまであります。

でも、人形(ヒトガタ)を見るときは、まず顔に目が行きますから、頭部はそのキャラに似せるための最重要パーツです。
雛人形でも、頭部は頭師(かしらし)といって、独立した担当者がいるぐらいですから。
それだけに頭部の造形は難しいものの、手足や胴体の造形の前に、まずは頭部を作りましょう。
最悪、胴体や手足がサーボ、ブラケット剥き出しに色だけ塗ってある仕上がりでも、頭部さえキチッと作ってあれば、そのキャラとして認識してもらえます。

ブリキの二足歩行ロボット(ボディの形状(金型)は他機種と共通で、塗装は印刷、頭はソフビ製)は、そのあたりを応用しているのですな。

まとめ2 まずは頭部を作る! 最悪、手足胴体の外装は省いても可。
 *これは極論で、「メカはできたけど、外装手付かずで、あと1週間で大会開催、どうしよう\(^o^)/」って時のみ適用ください

キャラ物の監修でリテイクが出た場合、ライセンサーの担当さんから「ここをこう変更してください」と連絡が来るのが普通です。今回はその監修した出渕先生本人が目の前にいるのですから、その場で頭部の正面図を描いていただきました。
イメージ画が斜め前からの図だったので、「ここ(中央部)での断面はどうなってるのでしょう?」と断面(側面)図も。

チョロメテ頭部の正面図・側面図


モデラーなら、設定画に描かれてないとこはどうなってるんだろう、デザイナーに直接聞いてみたいなあ…と思ったことはあるはずで、その願望が実現しちゃいましたよ!
なんかねー、これだけで、この仕事受けて良かった!!とじんわり感動。
正面図と側面図があれば、CADに取り込んで微調整するだけで形になるので、巻きで作って、プレス発表にギリギリ間に合いました。

産総研ベンチャーほか4社が共同で「HRP-2チョロメテ」を開発

ロボコンマガジン48号表紙

日本プラレス選手権大会では、ゲストとして牛次郎先生、神矢みのる先生が参加されます。
普通のイベントだと、ゲストはガッチリガードされていて、壇上での姿を見るだけですけど、プラレス大会は「わんだほ~ ろぼっと かーにばる」の流れをくんでいるせいか、そのあたりはゆるゆるで、参加選手ならお話することも可能です。

なので!プラレスラーのデザインでわからないとこは、その場で聞けるかも!!

https://seiga.nicovideo.jp/seiga/im10825797

おあとがよろしいようで。


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