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忠犬カレシ ある雨の日(無料公開版)

 雨の日。
 部屋に戻ったら純生がいなかった。
 バイトの日でもないのに、どこかに出かけたんだろうか、あいつけっこう出不精なのに。
「傘……ない」
 玄関先の傘がない。ということは雨が降り出してからでかけたのか、それとも天気予報を見ていたのかな。あたしは見ていなかったせいで、帰りしっかり降られてしまって、けっこう濡れてしまった。
 とりあえず濡れた服を脱いで、あったまりがてらシャワーを浴びた。
 テレビをつけて髪を乾かし始める。
 まだ帰ってこない。
 テレビに視線を向けても、ぜんぜん頭に入ってこない。
 仕方なく携帯電話を鳴らしてみることにする。あたしがあんまり心配しているみたいに思われるのはちょっといやなんだけど。別に保護者とかじゃないんだから。
 2コール鳴らさないうちに、部屋の隅から電子音が鳴り始めた。
「……電話、忘れてるし」
 電話を切って、再びテレビに視線を向ける。
 なにが映っているかもわからない。
 時計とテレビの間で、何回か視線を往復させてから、髪がまだ生乾きですっかり冷えてしまったことに気づいた。
「うーっ」
 大振りなピンで髪を雑にまとめて、ご近所用の上着を羽織る。
「その辺を見て回るだけだから……っ」
 誰に向かって言ってるのかわからない台詞をつぶやきながら、玄関の扉を開けようとした瞬間。
「あれ? 鍵開いてる」
 と扉の向こうから声が聞こえたかと思うと、玄関のドアが開かれた。
「あっ、めぐみちゃんっ、帰ってたんだ。電話くれればよかったのに……あれっ?」
 よれたジャンパー姿の純生は、そこで初めてポケットに電話の入っていないことに気づいてバツの悪そうな顔をした。
 どうやら、雨が降り出したのに気づいて、駅まであたしを迎えにいこうとしたらしい。
「だったらなんで傘一本で出かけてんのよ」
「えー、ほら、こういうときは相合傘するもんでしょ」
 だって。
「それじゃ結局濡れちゃうでしょっ、ああいうのは、傘が1本しかないときに仕方なくやるもんなの!」
 あーまったく。不細工な犬みたいな顔してるくせに、考えることは乙女なんだからっ。
「乙女っていうか、飼い主を迎えにくる犬よね、忠犬」
 冷えた身体で抱きついてくる純生を邪険に突き放しながら、あたしは小さくつぶやいた。

あとがき
 またしても久々の短編小説アップになってしまいました。
 ほんとはマガジンの方は10編あたりを区切りに新しいマガジン(第2集)に切り替えるつもりだったんだけど、こう間が空いてしまうと、購入してくれた方に申し訳ないので、もう少し第1集で続きそうです。
 ……つっても、購入者なんて何人もいないので……あなた! あなたのために書いてますよ! マガジン購入してくれたあなたのためにっ! マガジンは現状10編目が掲載されたところ……、新規のご購入もお待ちしております。
 このあとがき、マガジンに掲載されたときには無意味になるなあ……。
 次回は、もうちょっとお待たせせずにアップできると……思いますっ。

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